電子書籍の行方 製作側編~6~

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 これまで電子書籍の魅力を通じて、読者側が楽しめるよう、電子書籍を作る側がどう対応していくのかを見てきた。まだまだ発展段階の初期レベルであろう電子書籍であろうが、ブームという形で訪れたことからも、大きな注目を集め、これからの行方が気になるところだ。
 その電子書籍への注目は高まり、様々な人々が注目しているところだ。ルパード・マードック率いるニューズ・コーポレーションがiPad専用のデジタル新聞「ザ・デイリー」を2011年にも創刊するという。月額4.25ドルと格安で、毎朝自動的にダウンロードされる。専任の記者100人が記事を書くそうだ。
 他にもリチャード・ブランソン率いるヴァージングループも同年、iPad専用雑誌を創刊する予定。

 09年10月開催のフランクフルト書籍見本市で、世界のメディア関係者を対象としたアンケート調査「デジタル化展開は、出版界の紙媒体をどう変えるのか」が行われ、回答者の約50%が2018年には電子出版物の売り上げは紙の書籍を上回ると回答したことから、電子書籍への注目が高いことがわかる。
 ベルリンに本社を置くベンチャー企業ネオファニーが、iPadより少し大ぶりのアンドロイド端末「ウィタブ」がドイツ出版界に注目されているという。ウィタブは、ネオファニーがソフトを開発し、ミュンヘンに本社を置くフォーティトゥーがハード開発を担当。そして、両者が設立したジョイントベンチャー「ウィタブ」が発売に向けた準備を進めているという。価格は449~569ユーロ。出版社、通信会社、家電量販店などを通して販売する予定。電子書籍を購読する顧客は、出版社からウィタブを割引価格で購入できるというプログラムも検討されており、国外への販売は11年以降の計画だという。
 このウィタブの最大の特徴は、電子書籍の価格決定権が出版社にあることだ。

日本の課題

 米国でキンドルが成功したのは、大量のコンテンツを低価格で揃えたからである。他にもハードウエアも優れ、欲しい電子書籍をいつでもどこでもボタン一つで入手できる手軽さ、それを可能にしたネットワークの力も大きい。
 しかし、日本の場合、問題になるのは、誰がその本(=コンテンツ)の権利を持っているか。日本の著作権法では、著作権は作者(あるいは著作権継承者)が持っていて、出版社は本を発行する許諾を得ているに過ぎない。紙の本を出しているからといって、出版社は電子書籍を勝手につくるわけにはいかない。現行の著作権法では出版社の権利はほとんどないに等しく、今後、編集権や版面権など著作隣接権をどう認めていくかも課題になる。
 日本にはアマゾンやアップルに該当するような、ハードウエアからコンテンツ販売まで一体化したネットワークを持っている事業者はいない。
 ただ、電子書籍をつくることそのものは、それほど難しくない。キンドルやiPadと同等のものは日本のメーカにもつくれる。6年も前にLIBRIe(ソニー)や∑Book(パナソニック)をつくった事績があり、現にLIBRIeの米国版であるソニーのReaderは、米国でキンドルに次ぐシェアを持っている。紙の本も製作過程はほとんど電子化されていて、その最終的なアウトプットのかたちが紙に刷って綴じた本であるにすぎない。しかし、ソニーがLIBRIe向け電子書籍の販売をやめてしまったことが象徴するように、誰が何をいくらで売るかが決まらない。

日本のシステム・サイクルをどうするか

 出版社、取次会社、書店の三者が一緒になって、戦後日本の出版業界を担ってきた。再販制度(=定価販売制度)と委託制(=返品制)によって、この業界三者は深く結ばれている。例えば、資金繰りが苦しくなった出版社は新刊をたくさん出そうとする。その本を取次に卸せばお金が入ってくるからだ。取次は仕入れた本を書店に卸す。「配本」という言葉もあるように、出版社が出した本を取次が見繕って書店に卸すことが多い。取次は出版社に仕入れ代金を支払い、書店は取次に仕入れ代金を支払う。最後は書店が消費者に本を売ってお終いというサイクル(循環)になっている。
 しかし、返品という問題がある。売れ残った本は書店から取次を経由して出版社に返される。定価だから本の価値が下がることはない。返品した分は出版社から取次へ、取次から書店へと返される。現実には次の仕入れ分と相殺され、出版社は常に返品を上回る新刊をつくらなければやっていけない。こうやってモノとお金が出版界の中をぐるぐる回っており、どこかで流れが詰まったり漏れたりすると、全体が壊れかねないデリケートなものだ。
 バブル崩壊後、出版界の売り上げは伸びないのに新刊点数は増え続けている。現在の書籍の返品率は金額で約4割。60冊の本を売るのに140冊の本を動かさなければならない。100冊仕入れて、60冊売れて、40冊を返品するとはそういうことだ。

 例えば、紙の本がどんどん電子版に代わっていくと仮定する。出版社は紙版と同等の収益を得られるかもしれない。しかし、書店や取次は大きな影響を受けるだろう。閉店する書店も出てくるだろう。書店が閉店すると、その書店の在庫が出版社に戻ってくる。出版社は返品分のお金を書店に支払わなければならない。在庫は書店の店頭にある限りは商品だが、出版社に返品されるとゴミ同然になる。
 在庫を保管するにはコストがかかるため、返品された書籍の多くは、倉庫にも入れられず、断裁されて古紙になる。書店の閉店は、返品の山となって出版社の経営を苦しめるのだ。

 こうしたことから、電子書籍化が進むだけではなく、どう紙と折り合いをつけるか、融合するか、協同して発展させていけるかにかかっている。冒頭で取り上げたニューズ・コーポレーションの取り組みにも、ニューズ社傘下の英タイムズ紙とサンデー・タイムズ紙は10年夏に、ウェブサイトの有料化に踏み切ったが、サービスの利用者は10万人と、道筋は平坦だとはいえない。
 これまでの体制を大きく変えることができれば、新たなビジネスが生まれるだろうが、同時にこれまでの体制のビジネスが危機に陥ることになる。もし、その影響が大きすぎれば、大混乱を起こしかねない。
 電子書籍には大きな可能性があるのは事実だが、紙の良さも活用できるような仕組み・ビジネスモデルが重要なキーワードになってくる。

(おわり)

<参考資料>

・「マードック iPad新聞の怪しい勝算」
井口 景子(本誌記者)(Newsweek 2010.12.8)
・「ドイツ出版界が期待 WeTabは9月発売へ」
(東洋経済 2010.7.3)
・「「三位一体」の出版社・取次・書店 電子書籍の軟着陸目指す」
永江 朗(フリーライター)(エコノミスト 2010.6.1)

<ピックアップ記事>

・「電子書籍は「お部屋が片付く」と思う」/面白き ことも無き世を

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