マスコミの明暗(6)

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 マスメディアの危機的状況の中、ただ呆然と立ち尽くしてはいられない。
 各メディアはそれぞれ、対策をうち、新たな方向に歩き出そうとしている。

「欧州に吹きすさぶメディア革命の風」

 マスメディアは危機的状況である。
 「イギリスに1300ある地方紙のうち約半分は今後5年間赤字が続きオーナーがよほど忍耐強いか気前がよくなければ生き残りは難しい」という。
 「廃刊まではいかずとも、多くの新聞や雑誌が経営難に陥っている」。ヨーロッパ最大の新聞市場であるイギリスでは2009年、「日刊紙の総発行部数が1500万部を割り込む見通しだ」という。「04年と比べると10%以上の減少になる」。
 「218年の歴史を持つ日曜紙オブザーバーは、昨年9000万ポンドの赤字を計上(前年は3億600万ポンドの黒字)」。「これを受けて親会社のガーディアン・メディア・グループは8月、同紙の廃刊を検討していることを明らかにした」。
 「ロンドンで発行される唯一の夕刊紙イブニング・スタンダードは今年1月、ロシアの富豪アレクサンドル・レベジュフにたったの1ポンドで売却された」。

 「同じような状況はヨーロッパ全体で見られる」。「イタリア国営通信ANSAでは15%の人員削減計画に反発して、従業員が5日間のストライキを起こした」。22カ国でフリーペーパーを発行するメトロ・インターナショナルは、広告収入の急減を受けて2009年「1月にスペインの7都市から撤退した」。
 「フランスでは主要紙の一部が政府の補助金に依存している」。ニコラ・サルコジ大統領は2009年「1月、18歳の国民全員に1年間日刊紙を無料配布するなど3年間で計6億ユーロに上る支援策を発表した」。
 「活字メディアだけではない」。「広告収入の激減とコスト削減圧力で放送局の多くも事業縮小を余儀なくされている」。「スペインでは国営放送RTVEがこの3年間で2000人以上の人員を減らしてきた」。

 「広告主は大幅に広告費を減らすか、ネットに移りつつある」。監督法人プライスウォーターハウスクーパース(PWC)が2008年夏に発売したリポートによると、「西ヨーロッパの新聞市場は今年9.3%縮小し、広告収入は17%減る見通しだ」という。「伝統的なメディアを今までのようには使わない新たな世代が出現している」というのだ。
 「80年代後半に民営化されたフランスのTFI(24時間放送のニュースチャンネルLCIなどを運営)」は2009年、「予算を6000万ユーロ削減」した。「イギリス最大の独立系テレビネットワークのITVは、コストが掛かり過ぎるためローカルニュースからの完全撤退を検討中だ」という。

 「テレビに活字メディアも受け手の(好みの)細分化が進んでおり、広告主はターゲットをさらに絞った広告手法を模索している」。
 「世界最大級のニュースメディアであるBBC(英国放送協会)は、デジタル時代に対応すべくリストラを急いでいる」。「BBCのジャーナリストは可能な限りラジオ、テレビ、インターネットの全てにニュースを供給することになっている」。
 「財政的に厳しいときでも、公共放送はニュースを絶対に減らさない」という。「効率化の名の下、BBCは05年以来5000人の人員削減を断行し、今後さらに1200人を減らす計画だ」という。

 しかし、「ヨーロッパのメディアに総じて危機感が薄いのには理由がある」。「活字媒体としての新聞への関心は薄れているが、ニュースそのものへの関心は高いのだ」。
 「ニュースは、ネットユーザーと一般読者の両方で最も人気のあるカテゴリーの1つだ」。
 「独特の環境のおかげで、ヨーロッパのメディアはアメリカのメディアほど大きな打撃を受けずに済むかもしれない」。「例えばイギリスでは全国紙が普及しており、ほとんどの売店が少なくとも8紙を取り扱っている」。「おかげで活発な競争が展開されており、新聞各紙は常に魅力的なコンテンツ作りに励んでいる」。

 「ヨーロッパ第2の新聞市場であるドイツでは今も成人人口の70%が新聞を毎日読んでいる」。「ドイツのメディア大手アクセル・シュプリンガーは創業62年目」の2009年、「過去最大の利益を上げると予測している」という。
 「その理由の1つが新聞購読の習慣だ」。「購読契約をしていれば毎朝売店で買わなくても、自宅まで新聞が配達される」。「だからみんな、契約キャンセルの面倒くささから惰性で新聞を取り続けている」。
 「政治的に地方分権が進んでいるおかげで読者のローカルニュースへの関心が高く、それが地方紙にとって有利に働いている」。
 「昔から新聞の読者が少ないイタリアでは(日刊紙を購入する成人は10人に1人以下)近年、政治に特化した発行部数の少ない新聞が次々誕生している」。
 「発行部数は少なくても、イタリアで成功するには『マイクロオピニオン紙』でなくてはいけない」という。

 「活字メディアや放送メディアに新しいビジネスモデルが必要であることは、誰の目にも明らかだ」。「メディア王ルパート・マードックと同じ手法を取るかもしれない」。「英タイムズ紙からタブロイド紙サンまで幅広いメディアを持つマードックは現在、オンライン・コンテンツへの少額課金制の導入を計画している」という。
 「今もジャーナリストは、さまざまな情報をふるいにかける上で重要な役割を果たす」。「PWCの調査では、読者は良質で自分に関係のあるコンテンツのためなら料金を払ってもいいと思っている」という。

 「ヨーロッパのメディアは、テクノロジーの利用でも進んでいる」。「アクセル・シュプリンガーは既に利益の14%がオンライン絡みだ(アメリカのほとんどのメディアの割合を大幅に上回る)」。「これは早い時期に、ドイツ最大のインターネット・プロバイダーと提携したことが功を奏したものだ」。
 「イギリスで知名度の高い日刊紙ガーディアンは、3年前にアメリカ向けウェブサイト『ガーディアン・アメリカ』をスタートさせた」。「アメリカにはリベラルなニュースメディアが少ない点に目を付けたもので、現在1日の訪問者は800万人にまで成長」しているという。

 「生き残りにはテクノロジーも重要だ」。「それには活字はもちろん、インターネットの先も見越した戦略が欠かせない」。
 「2~3年後には(新聞の数は)減っているだろうが、生き残ったところは巨大なマルチメディアプレーヤーになっているだろう」。

 「可能性が高いのは一部コンテンツを無料提供し、専門的あるいは掘り下げた記事は有料にする方法」である。「例えば有料コンテンツを申し込むと、旅行情報やワインの特別販売などの『お得情報』も受け取れる仕組みが考えられる」。「料金を払って受け取るのはニュースだけでなく、一種のクラブの会員権になる」。
 「業界全体の方向性がはっきりしない今、生き残りは画期的な技術やアイデアで新しい収入源を確保できるかにかかっている」。
 「問題はこうしたソリューションをどうやって有料化するか、あるいはそもそも有料化できるかどうかだ」。「これについては各社が判断しかねている」。「どこも他社の出方を見守っている」状況だ。

 「10代の若者がどのように各種メディアを利用しているかをまとめたロブソンのリポート」では、「インターネットやテレビで手短にまとめたニュースが手に入るのに、何ページも文章を読むなんて耐えられない」という。
 「デジタル時代の到来で、今後生き残れるのは小回りの利くプレーヤーだけになった」のかもしれない。

<参考資料>
・「欧州に吹きすさぶメディア革命の風」
ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局/Newsweek 2009.9.16)

「超地域密着型ジャーナリズムの挑戦」

 米国東部ニュージャージー州ミルバーン(人口2万人)は、「アメリカで最初のポスト新聞メディア戦争の震源地になりつつある」。

 「運営するのはジャーナリストだが市民記者に大きく依存する地域密着型のブログが、新聞の地方版に取って代わりつつある」。
 「コニックは、地域情報サイトを集めた『パッチ・ドットコム』のうち『ミルバーン・パッチ・ドットコム』の編集長を務める。
 「アメリカでは数十年の間、住民がニュースを知るのは動きの遅い週刊紙だった」。「しかし今はコニックやライバルのブロガー、そして彼らに依頼された『市民ジャーナリスト』が1日24時間、ニュースを探している」。

 「ニュージャージの3つの町―メープルウッド、サウスオレンジ、ミルバーン―を、『ハイパーローカル(超地域密着型)ジャーナリズム』」という。
 「これらの3つの町には10の地域情報サイトがある」。「パッチ・ドットコムはAOLが出資」。「ザローカルはニューヨーク・タイムズが所有するサイトで、他のさまざまな地域への進出も検討している」。「『メープルウッディアン・ドットコム』は1人の住民が非常勤で管理している」。
 「ハイパーローカルの広告市場は1000億ドル規模で、典型的な顧客はクリーニング店やピザ店などの商店だ」。「広告市場全体は景気後退のあおりを受けて下向きだが、調査会社ボレル・アソシエイツの推定では、地域のオンライン広告費は08年の130億ドルから09年は140億ドルに増える見込みだ」という。

 「パッチ・ドットコムは08年にティム・アームストロング(38)が設立した」。「グーグルの広告部門を統括していたアームストロング」は2009年3「月、AOLの会長兼CEO(最高経営責任者)に抜擢された」。
 「その3ヵ月後にAOLはパッチを買収」。「現在はニュージャージー州とコネティカット州の11の町で、コニックやデローのような地元住民がサイトを運営している」。「全米拡大を計画しているパッチは、今やハイパーローカル業界で最も急成長中のサイトの1つだ」。

 「ハイパーローカルの概念が生まれたのは90年代前半から半ば」。
 「本当のブームが起きたのは2000年になってからだ」。「今や全米に数千のハイパーローカルサイトがあるが、目立った成功例はまだなく、実際は大失敗もある」。「ワシントン・ポストが07年にバージニア州ラウドン郡で開設した『ラウドンエクストラ・ドットコム』」は、2009年「9月に閉鎖された」。

 「日刊紙スターレジャーやニューヨーク・タイムズなどは、かつてミルバーンのような地域に担当記者を置いていた」。
 「新聞社の財政が底を突き、郊外の報道は縮小されている」。

 「新聞社にとって、印刷と輸送に掛かる巨額のコストが事実上ゼロになる」。「標準的なサイトは経験のある記者を1人か2人雇い、後はたいがい無給の素人記者やインターンで補う」。
 「より深刻な問題は、1つの小さな広告市場に多くのサイトが頼っていることだという指摘もある」。「とはいえ、ハイパーローカルサイトは読者に支持されている」。「経費も安上がりなので、採算の取れるビジネスに成長するかもしれない」。
 「ウェブ解析企業コンピート・ドットコムのデータによれば、地元ブロガーが活躍する町では、平均して住民の5人に1人(たいていはそれ以上)がサイトを訪れると推測される」。「パッチ・ドットコムの内部資料によると、パッチがある地域では住民の半分以上が同サイトを訪れる」。

<参考資料>
・「超地域密着型ジャーナリズムの挑戦」
ジョニー・ロバーツ(Newsweek 2009.11.18)

「苦境にあえぐメディアの一つの対策の道」

 マスメディアの苦境が続いている。
 「09年第4半期のオンライン広告の売り上げは10%増の見込みだが、紙面広告の減少分を埋めるには及ばない」。
 「09年の1年間でニューヨーク・タイムズ紙は支出を4億7500万ドル切り詰め、従業員を20%削減」。「生き残った従業員も給料カットや一時帰休を強いられている」。

 「ウォールストリート・ジャーナル紙電子版では、既に数年前からスクープ記事は有料だ」。「ブルームバーグ・ニュースは一連の不景気でも、購読料のおかげで業績を伸ばしている」。
 「地方紙も新しい試みをしている」。「マイアミ・ヘラルド紙は、サイトの掲載記事に自社への寄付金を求めるリンクを張り始めた」。

 「ただし、オンラインコンテンツの課金はリスクを伴う」。「従量制にせよ定量制にせよ、国外での読者拡大の障害になりかねない」。

<参考資料>
・「NYタイムズがサイト有料化」
(Newsweek 2010.1.13)

「中国で報道の自由が加速」

 中国のメディアが拡大し始めているかもしれない。
 「市場経済の広がりに伴い、中国の新聞と雑誌の数は計1万2000に増加」したという。「中国政府は昨年4月、新聞社や出版社に経営合理化と統廃合を迫る指針を公表し、メディアが生き残りのため記事の中身でしのぎを削る傾向が強まっている」。

 「英字紙チャイナ・デイリーは7月、メラミン混入ミルク事件で被害者救済活動をした民間組織に対し当局が不当に閉鎖を命じたと報道」。
 「12月には人民日報系英字紙グローバル・タイムスと週刊紙の南方週末が、依然は当局の発表をそのまま掲載するだけだった共産党指導部人事の予測記事を載せた」。

 「これまで中国では、共産党が意向にそぐわない報道を発禁処分にしてきた」。「だが昨年夏以降、当局の人権侵害批判や、政府発表と異なるスクープ記事を掲載するメディアが相次いでいる」という。

<参考資料>
・「中国メディア 政府の意に反して「報道の自由」が加速」
(Newsweek 2010.1.13)

参考記事

・「活字への愛着?世界の新聞も1 万紙に増紙中」/オフライン&オンライン

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コメント

  1. […] マスコミの明暗(6) – Eiji-Taniguchi.com「日刊紙スターレジャーやニューヨーク・タイムズなどは、かつてミルバーンのような地域に担当記者を置いていた」。 「新聞社の財政が底を […]

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