電子書籍の行方 製作側編~4~

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 世界で電子書籍が注目され、紙媒体から大きな不安の声が叫ばれるようになった。
 金融危機の影響もあり、紙メディアは危機的状況に陥る中で、電子書籍という新たな存在があらわれた。しかも、電子書籍は日々を追うごとに注目され、革新されていく。劣勢に追いやられる紙媒体は指をくわえて、何もしないわけではない。インターネットへと活動を広げていくが、思うようにはいっていないのが現状だ。

 紙と電子は相いれないかと言うとそうともいえなく、紙と電子の協力関係、コラボレーション、融合といった試行錯誤も出てきている。世界でその波は強く、日本でも活動が始まっている。
 「ヴォーグ・ニッポン」などを出版するコンデナスト・パブリケーション・ジャパンは、同誌を含め、グラビア中心のファッション誌3誌をiPad向けアプリとして販売する。価格は紙の雑誌の60~70%に設定。スターツ出版は女性情報誌「オズマガジン」など3誌のアプリを発売する。
 09年9月、電通と電子書籍開発・販売のヤッパが提携して立ち上げた「マガストア」。iPadに対応し、現在購読できるのは30社の発行する55誌だという。ただし、雑誌によって購読できるのは紙面全部だったり、一部だったりとまちまちな状況で、販売価格も異なる。
 東京都書店商業組合とソフトウエア開発のアクセスが運営する携帯電話向け電子書籍販売サイト「ブッカーズ」も、iPad用アプリで10誌を販売予定だという。
 新聞社も取り組んでいる。朝日新聞は09年4月、同紙の連載や他の出版社の雑誌記事を切り売りする販売サイト「Astand」を創設。読売新聞は09年10月、医療情報の有料サイトを開設している。
 産経新聞は現在、全紙面の有料提供をウェブ上で行う一方、iPhone向けには全紙面を無料で配信している。毎日新聞社はiPad向けに「週刊エコノミスト」等のニュースコンテンツの一部配信を検討している。
 日本のメディアも取り組み始め、試行錯誤している現在、ネットでの無料全面公開が進んだ米国と比べると、日本の新聞業界は、記事の一部のみ無料公開しているところがほとんどだ。

紙の世界が革新されていく

 紙の世界の、著者、出版社、印刷会社、取次、書店、読者という役割が、電子でどう変わるのだろうか。
 紙媒体は、紙の世界で認められてきた付加価値を出せるかに懸かっているだろう。10年3月に発足した、出版社33社が参加する日本電子書籍出版協会(電書協)でも、著者の利益・権利の確保、読者の利便性に資することを出版社の役割と掲げている。
 大日本印刷と凸版印刷の印刷大手2社は、電子書籍の制作、流通にかかわる企業で構成する業界団体「電子出版制作・流通協議会」を設立。電機メーカーや通信会社などが役割分担しながら、電子書籍の流通基盤を作るために必要な取引規約や技術仕様を議論する場になり、今後、商品化される様々な端末で、電子書籍が流通しやすい仕組みを関係企業が整える狙いだ。
 さらに、大日本印刷は、約10万点の作品を扱う国内最大級の電子書籍販売サイトを開設(予定)。サイトは、
・米アップルの「iPad」のような読書端末の他、パソコンや多機能携帯電話(スマートフォン)など、あらゆる端末での利用に対応する
・2011年中には中規模書店並みの30万点まで作品数を拡大する方針
・今後、電子書籍の制作から流通、販売までを総合的に請け負うサービスも開始する
・販売サイトでは電子書籍の他、紙の書籍も販売
などが可能となるという。さらに、丸善、ジュンク堂など大日本印刷傘下の書店と連携し、読者が欲しい本を、紙でも電子でも読みたい形でいつでも購入できるハイブリッド型総合書店を目指すという。
 今後、紙の本の印刷に加え、電子書籍の制作や販売を請け負う他、著作権管理や印税の支払い業務なども代行し、出版社の電子書籍ビジネスを支援。参加の電子書籍専門取次会社を通じ、他の販売サイトや書店にも流通させていく。

規格統一へ

 このように、ようやく日本の中でも、大々的に活動が活発になってきた。
 関連業界や総務省などの行政機関が参加する「電子出版日本語フォーマット統一規格会議」(仮称)を設置し、11年春までに内容を固める方針。国内の大手出版社や印刷会社が中心となり、書籍のデジタル化を容易にする頭いる規格づくりに乗り出すことになった。
 国内で販売されている電子書籍の閲覧方式は、
・シャープが開発した「XMDF」
・日本企業ボイジャーの「ドットブック」
・米アップルが採用するなど海外で主流となっている「ePUB」
など複数が混在している状況だ。各方式に互換性がないため、出版社は方式ごとに別々の仕様で書籍のデジタル化を進める必要があり、電子書籍の出版が思うように進まない要因だった。
 統一規格会議はこうした問題を解決するため、いずれの方式にも変化可能な「中間フォーマット」と呼ばれる統一規格を目指す。出版社側が中間フォーマットに沿って書籍をデジタル化しておけば、どの方式でもデータを読み取ることができる仕組みを想定。規格は無償で公開し、大手出版社の負担軽減とともに、これまで技術的な問題で電子書籍を手掛けられなかった中小出版社の参入を促す計画だ。

 日本の電子書籍への取り組みが活発になってきたが、再販制度などといった問題が残っている。フランスでは電子書籍にも再販制度をという声が上がっており、イギリスでは1990年代に再販制度がなくなった後、業界が大混乱に陥り、「あれは失敗だった」と結論付けられている。
 電子書籍への取り組みには他にも様々な問題があると同時に、電子書籍の恩恵も大きいもの。既存の紙にも様々な問題があったように、電子書籍にもそういえる。両者をうまく融合し、さらなる大きな活動になるよう模索中だ。

(つづく)

<参考資料>

・「ペーパーレス時代へ 新聞・雑誌の明日 日本 他社動向を「横にらみ」 iPad向けに手探り配信」
黒崎 亜弓(編集部)(エコノミスト 2010.6.1)
・「電子書籍台頭の中 出版社の役割は?」
野間 省伸(講談社 副社長)(東洋経済 2010.7.3)
・「大日本印刷 凸版 電子書籍の業界団体 メーカーなどに参加要請」
(日本経済新聞 2010年7月9日(金))
・「電子書籍 全端末向けに販売 大日本印刷 30万点に拡大」
佐々木 浩材(毎日新聞 2010年7月9日(金))
・「普及促進狙い官民連携 電子書籍の規格統一へ 中小出版社の参入容易に」
赤間 清広(日経産業新聞 2010年11月)

<ピックアップ記事>

・「電子書籍・舶来信仰」/日本海総合研究所(仮)
・「なぜ、コミックと辞書が成功するのか」/蒼猿のコメント
・「デジタルブックフェア(国際ブックフェア)」/雑多な日々

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