存在感が強くなる中国(1)

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 現在、世界で最も勢いのあるのが中国であるだろう。経済危機もはやくに乗り切った中国は、世界に大きな影響を及ぼす力を持つようになった。その中国は果たして、豊かな国なのか、貧しい国なのか。国際社会で指導力を発揮すべき大国なのか、それとも自国の面倒だけ見ていればいい途上国なのか…。
 アメリカ政府はしばしば、中国が国際社会の運営に十分に関わろうとしないと批判する。ほとんどの場合、中国は自国の意向を反映せずにつくられたシステムへの参加を求められている。そういうシステムは欧米に有利なようにできていると、中国は思っているからだ。しかし、自国が関わってつくった枠組みの場合、中国ははるかに積極的に参加する。その典型が上海協力機構である。いわば中央アジア版のNATO(北大西洋条約機構)のような機構で、その名の通り中国が主導的役割を果たしている。96年に前身である上海ファイブが発足した時は、ほとんど実体のない存在だったが、今では地域の安全保障の柱になっている。

 中国のイニシアティブによる影響は強まっている。
 人民元を米ドルに対抗できる国際通貨にしようという中国政府の取り組みも、取りあえず成果を挙げ始めているという。最近、中国はアルゼンチン、インドネシア、韓国など6ヵ国と総額1000億ドルの通貨スワップ協定を結んだ。中国沿海部と東南アジア諸国の間の貿易決済では、既に人民元が正式に用いられている。次はインド、パキスタン、ロシア、日本、韓国との貿易決済通貨も人民元になるだろう。これらの国はやがて、お互いの間でも人民元を決済通貨として使用できるようになるだろう。
 さらに、中国への状況が好転している。インドネシアの企業は、米ドルよりも中国の通貨である人民元で取引を行うケースが多いという。もし、インドネシアが97年のアジア通貨危機のような事態に再び見舞われたら、アジア諸国が新たに設けた1200億ドル規模の外貨準備基金から融資を受けられる。中国は日本と並び、この準備基金の3分の1を負担しているからだ。

中国がイニシアティブを取り、ルールづくりにも

 こうしたことから、アジアの重要な政治・経済問題は、アメリカと個々の国の2国間で解決されるのではなく、中国、日本、韓国、東南アジア諸国だけで構成される国際的枠組みで議論されるようになった。日米関係とほぼ同義語だった『アジア太平洋』ではなく、中国が真ん中に位置する『東アジア』に中心が移る過程で、中国が果たす役割は非常に大きい。
 これまでの国際的枠組みは、IMF(国際通貨基金)や世界銀行など既存の国際機関は、アメリカに率いられたひと握りの国によってつくられた。このような国際機関の政策には、アメリカ的な価値観が色濃く反映されてきた。中国の国際的な影響力がまだ小さかった頃、中国の指導者は既存の制度に不満があっても我慢して受け入れてきた。
 しかし、中国が世界で力を増すにつれて、中国国内の世論は戦闘的になってきた。あからさまに好戦的な愛国主義が噴出することもある。その結果、中国政府は国益を意識しながら、欧米に弱腰だと政府を批判し続ける国内世論にも配慮し始めている。国際システムをもっと中国に有利なものにつくり替えることで、体制存続の可能性を高めようと考えるようになったのだ。
 そこで、中国が世界の新しいルールを作りたい(少なくともルールの書き換えに参加したい)と考えるようになった。つまり、グローバルな制度や組織の主要な設計者でありたいと考えている。

 中国が世界1位の経済大国になるのは今や時間の問題かもしれない。いずれは経済規模でアメリカをはるかにしのぐ国になるかもしれない。そこに、経済や政治の分野で中国の重要度が増す中、中国でインターネットに起きたことはネットの在り方そのものにとって大きな意味を持つ。
 中国の『超大国化』というプロセスは、国際社会のパワーバランスを中国寄りに大きく傾ける。世界的企業になるための条件はアメリカ市場の掌握から中国市場の人口がアメリカの約4倍であることを考えれば、その意味するところはさらに大きいだろう。経済的影響力が増しているおかげで、国際社会における中国政府の影響力も急速に拡大しているわけだ。
 インターネットは統合された1つの巨大なグローバル空間ではなく、国ごとに異なる在り方をする断片化した存在になるかもしれない。もしそうなれば、未来をめぐる欧米の常識は世界標準になり得ない。自由な情報の流れが途絶えるわけではないが(検閲にもかかわらず、インターネットが中国の一般市民の手に入る情報の量と質を変えたのは事実だ)、今後の世界では欧米的方法ではなく中国的手法で情報が流通することになりそうだ。
 中国では今後もインターネットの検閲が続き、情報の取捨選択や特定サイトの閲覧禁止が行われ、政府の方針に従わない検索エンジンは排除され、微妙な問題に関わるキーワードの検索が許されないはずだ。しかも「中国がやるなら我々も」という国も既に出始めているという。

 インターネットは思想や情報の自由な交換という文化の精髄であり、政府による制約を受けず、その利用は世界に広がっている。これは欧米の考え方だが、中国政府は、ネットの検閲や規制は可能だと証明している。中国は欧米と根本的に異なる国で、欧米のように行動することも思考することもないという。
 欧米の場合と対照的に、中国の国民にとって政府は権力の縮小を求めるべき異質の存在ではなく、社会の守護者を体現する存在という。いわば一家の長だ。だからこそ中国では、政府は大きな正当性を持つと見なされる。その理由は中国の歴史にある。この国は本質的に国民国家ではなく、文明を国家の単位とする『文明国家』だというのだ。しかも少なくとも2000年前からそうした国であり続けている。中国文明の統一の維持こそ、最重要の政治的課題かつ政府の神聖な務めとされ、結果として中国政府は欧米ではあり得ない役割を担う。中国の現代化の歩みは欧米とは別種であり、中国が主導する世界も現在の世界とは別種のものになるかもしれない。

 最近、中国政府とグーグルの対立がメディアを賑わせたが、それとは別に中国は次世代インターネットプロトコル『IPv6』への移行に向けて精力的に動いている。現在、主流になっているプロトコルはIPv4だが、早ければ11年にもIPアドレスが枯渇するとみられている。IPv4の下では、IPアドレスの大多数―07年8月時点で約14億個―がアメリカの企業および個人に割り当てられている。中国に割り当てられている数は、1億2500万個だ。
 言い換えれば、アメリカには国民1人に5個のIPアドレスが割り当てられているのに対し、中国では人口10人当たり1個にも満たない。しかし、IPv6に移行すれば、何兆個ものIPアドレスが利用できるようになるというわけだ。IPv6では従来とは違って、個々のコンピューターや携帯端末にIPアドレスを割り当てられるので、政府がネットユーザーを監視するのも容易になるためメリットは大きい。

未開拓も視野に入れている

 それに中国は自国の利益を何よりも優先している。
 中国の宇宙開発プログラムは機密扱いのため詳細は不明だが、近年の進展ぶりは目覚ましい。07年1月に衛星攻撃兵器の発射実験を行い、自国の人工衛星の破壊に初めて成功した。今年1月には、大気圏外に打ち上げた弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とす実験に成功したことが明らかになった。中国当局は3月上旬、今年10月に2回目の月探査を実施し、11月に宇宙ステーション・モジュールと無人宇宙船を打ち上げて初のドッキング実験を行う予定だと正式に認めた。いずれも、13年に無人探査機の月面着陸を実現するという構想の一環だ。
 宇宙探査によって、アメリカより多くの物質的利益を手にできる―中国政府がそう見込んでいるのは明らかだ。なぜなら、宇宙にはヘリウム3など新しい燃料になると期待される資源も、地球上で枯渇が進む稀少鉱物も大量に眠っていると、中国の一部の科学者は確信しているという。
 これがどういう意味を持つのだろうか。その1つに地球外の資源開発をめぐるルールはまだ存在しないが、策定が始まった暁には、中国は自国の利権を十分に反映させようということが考えられる。同じ原理は、あらゆる分野において他国の先を行こうとする姿勢にも表れている。将来的に各種のルールや基準を設定する事態になった時、大きな発言力を確保するのが狙いだ。
 こうしたことから、中国は自国の技術水準が急速に向上していることを認識しており、一部の分野では先進国を追い抜ける可能性さえあると思っている。欧米諸国で研究を行っていた中国人科学者たちも、続々と中国に帰国し始めている。その半面、新しいルール作りに関わらなければ、敵の思うままにルールを決められてしまうという不安も抱いている。

 経済のはしごを登るには、従来産業より開発途上のテクノロジーに力を注ぐ方が得策だと、中国は心得ている。だからこそ、世界最大の二酸化炭素排出国でありながら、グリーンテクノロジー開発に最も積極的でもある。巨額の補助金のおかげで、風力発電量や太陽電池生産は世界トップクラスで、次世代のクリーンエネルギー技術の標準確立も急いでいる。
 政府の支援策の後押しを受け、中国のクリーンエネルギー車保有台数は今や世界最大である。技術が進歩を続ける中、中国政府が今後、自国の消費者にクリーンエネルギー車の購入を奨励するのは確実である。しかも、中国の自動車販売台数は09年、アメリカを抜いて世界1位になった。これはクリーンエネルギー車普及策を通じて、政府が次世代の標準技術を確立するだけでなく、巨大市場を生み出せれば、世界の自動車業界の未来は中国によってコントロールされることになる。
 そんな未来が実現した時、中国(と世界)は自由貿易と開放的な競争体制をめぐる既存のルールを支持するだろうか。既に中国と外国企業の関係には懸念すべき変化が起きているという。中国の総額4兆元の景気刺激策は、国有企業を大幅に優先している。新たな法律の施行で、外国企業による中国企業の買収合併も困難になっている。09年12月、米商工会議所(USCC)など各国の34のビジネス団体は、外国企業を締め出そうとしているとして中国政府に抗議書を提出した。さらに、ベンチャーキャピタルへの締め付けも強まっているという。

 それでは、勢いをつけている中国の内部はどうなっているのだろうか。
 一般市民の間では、故国の明るい未来に対する誇りと、今も不安定な新興国にすぎないという焦りが相半ばしている。目まぐるしい変化は若い世代にとりわけ大きな影響を与え、内向きで愛国的な風潮をつくり出している。中国の安全保障・通商・外交政策は今後もっと攻撃的になるかもしれない。
 中国共産党指導部の世代交代が予想される12年にかけて、政策の攻撃性は増す恐れが高い。出世を狙う高官は対米交渉で弱腰だと見なされれば失点するからだ。
 中国はこれから先も、注視していかないといけないが、内部の状況も認識し、分析する必要がある。

<参考資料>
・「「中国ルール」が世界を支配する日」
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)、メリンダ・リウ(北京支局長)/(Newsweek 2010.3.31)
・「中国との戦いに勝ち目はない」
マーチン・ジャクス(ジャーナリスト/Newsweek 2010.1.27)

参考記事
・「中国未成年者ネットユーザー 85%強」/中国インターネット&モバイルニュース

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