女性を取り巻く環境は向上したのか(1)

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 女性への差別問題は昔から続いていた。差別の問題の中に、女性の問題も深刻な位置を占める。その女性の在り方を変える時がきた。
 近年、先進諸国では、女性の経済力が急速に上昇しており、女性労働者の需要は先進国全体で増加している。その理由の一つに、職場で体力が求められた時代は終わり、サービス業などの男女が平等に競い合える頭脳労働がより重視されるようになったことがあげられる。また、1960年代に米国の女性活動家たちが『家庭内の奴隷制度』を非難する運動を展開したのを機に、多くの国で男女同権法が成立した。

 米国ではここ10年間で、女性による起業の数は男性による起業の2倍の速さで増えているという。こうした女性の経営者が率いる企業で雇用される労働者の数は、前述した同国の主要企業500社の全労働人口よりも多いというから驚きだ。
 欧米の大学では、今や卒業生の約60%が女性だ。米国では66年に文系の学士号を取得した女性のうち40%が教育学、2%が経営学専攻だったのに対し、現在では教育学が12%、経営学が50%となっており、最近の女子学生は、より市場価値の高い学科を選好する傾向にある。女性が大幅に遅れを取っている分野は、今では工学や情報科学など、ごく一部に過ぎないわけだ。女性たちの間でこうした高等教育が広く普及していることも、職場の中で女性全体の価値を高め、仕事のチャンスを広げる要素となっている。
 さらに、EUでは00年以降、新たに創出された800万人分の雇用のうち、600万人分を女性が占めている。米国では金融危機で職を失った人の4分の3が男性で、女性の失業率が8.6%なのに対し、男性は11.2%となっている。米国労働統計局によると、今後数年以内に最も成長すると思われる15職種のうち10職種で、労働者の3分の2を女性が占めるようになるという。女性の環境が拡大する可能性は大きく、大学では11年までに、女子学生の数が男子学生より260万人多くなる見通しだ。

 今後、さらに激化すると思われる『才能争奪戦』の恩恵を受ける方向になる中、労働人口の高齢化が進み、より高度な技能が必要になる経済システムの中で、各国は女性の労働力をこれまで以上に上手く活用していく必要があるだろう。
 しかも、その恩恵は大きい。ゴールドマン・サックスの調査によれば、女性の労働市場への参加率を男性と同程度まで引き上げれば、GDPはイタリアで21%、スペインで19%、日本で16%、米国、フランス、ドイツで9%、英国では8%伸びるという。

 それでは、女性が労働市場へと入り易くなった要因は何だろうか。
 一つに、科学技術の発達が家事の時間を短縮させたことがあげられる。さらに、『避妊ピル』の発明も重要な転機だった。それはつまり、女性自身が出産時期を調整できるようになり、多大な時間と労力を要する高度な技能の習得を目指す女性が増えたからだ。そして、英国のサッチャー元首相や米国のヒラリー・クリントンといった国を背負って立つ女性も登場したことも大きく影響している。
 これらの大きな変化に対して、社会はどう受け止めているのだろうか。
 米国のロックフェラー財団と『タイム』誌が最近行った調査によれば、米国人の4分の3がこの変化を『前向きな進歩』と捉えており、男性の10人中9人は、女性の方が収入が多くてもよいと答えており、好印象だ。人のアイデンティティの根幹にかかわるこうした劇的な変化が、社会的に広く歓迎され、これほど穏やかに実現したことは歴史的に見ても珍しいことである。

女性の権利拡大の障壁

 しかし、問題となる障壁はまだまだ残っている。
 米国では現在、労働力の約半数(2009年10月現在で49.9%)を女性が占めている。彼女たちの昇進はもちろん奨励されているが、実際には中堅ポストの多くは男性が占めており、さらに上級のポストには手が届かない状態だ。
 米ビジネス誌『フォーチュン』が発行する全米上位500社のリスト『フォーチュン500』に掲載されている主要企業のうち、トップが女性である割合はわずか2%だという。企業でも役員職に就いている女性は全体の13%にも満たず、コンサルタント会社や銀行の幹部の多くは、いまだに男性である。
 それに、先進国で増えているシングルマザーは生活のために働く以外、選択肢がないのが現実だ。既婚女性でも生活レベルを維持するために働かざるを得ないケースが多い。また職場で女性の向上心が充分満たされていない点も指摘されており、急速な変化にこれまでの社会の在り方が追いつかず、歪みが生じているのだ。

 そこで問題なのは、働く女性に『出産』と『仕事』のどちらかを選ぶよう強いる社会システムが、いまだに残っていることである。
 英米では、フルタイムで働く女性の平均収入は、男性の80%に留まっている。こうした収入格差は、多くの職場で男女が旧態依然の尺度で評価されている結果でもある。例えば、成長企業では経験は給与上昇につながり、労働時間も長くなる。将来、経営に携わる者は、様々な部署や国での経験が求められるために、異動や転勤もあり得る。キャリア志向の女性は『出産』か『仕事』かという2つの選択肢のうち、いずれかを選ばざるを得ないのだ。
 そうしたことから、働く女性の多くが母親になることを完全に諦めているのだ。スイスでは働く女性の40%が子供を持たないという。子供を持とうとしても、近年では出産年齢を遅らせるあまり、体外受精に頼らざるを得ない人も増えている。
 シカゴ大学の研究チームが同大の卒業生の進路について調査した結果、卒業から10~16年後、出産を経験した女性の半分強が出産後もフルタイムで働いているが、パートタイムで働いている女性が4分の1、残りの4分の1は完全に仕事を辞めていた。また米国の別の調査によると、出産を機に職場を離れた女性の93%が出産後も働きたいと考えているのに対し、労働市場に復帰できた女性は74%、フルタイムで働いているのは半数以下の40%だったという。
 英国のNPO『チルドレン・ソサエティ』によると、同国では60%の親が「子供と過ごす時間があまりない」と答えている。また、米国の同様の調査でも、74%の親が同じ回答をしている。だが育児を優先して仕事を辞めることは、リスクを伴う。家計が苦しくなり、養育費も削ることになるからだ。

各国の取り組み

 それでは、各国の対策はどうなっているのだろうか。
 オーストリア、チェコ、フィンランド、ハンガリーでは、母親は最長3年まで有給育児休暇を取ることができる。ドイツでは母親が家庭に残れるよう支援する手当を設けている。また就学前の教育を重視する国もある。ニュージーランドや北欧諸国では、女性が職場に復帰しやすくするために、保育施設のサービスを充実させている。
 英国やドイツ、日本、スイス、オランダでは、いまだに母親はパートタイムで働くことが好まれている。チェコ、ギリシャ、フィンランド、ハンガリー、ポルトガル、韓国にいたっては、母親は働くこと自体困難だ。アイスランドなどの北欧諸国では、父親の積極的な育児参加を増額するなど、新たな試みがなされている。
 米国ではそもそも有給の産休制度がない。無給で休めるのも最高でたった12週間だ。現在では少なくとも145ヵ国に有給休暇の制度があるが、米国では家族が深刻な病気の場合のみ、無給で休みが取れる仕組みだ。さらに同国では公的な家族手当がOECD基準から見ても低く、子育て支援に充てられる予算はGDPのわずか0.5%だ(ちなみにフランスは1.3%、デンマークでは2.7%)。
 日本では7割もの女性が出産を機に仕事を辞め、子育てに専念している。日本の出生率は1.37(2008年時点)で、少子化は深刻な問題になっている。この国では婚外子を持つのは不道徳と見なされている。また子供を持つ上で高額な教育費も障壁となっている。大学卒業までに、最低約1800万円もかかるというのだ。さらに、晩婚化も進んでいる。
 政府はこうした状況を改善するために、子供手当を支給する計画だ。だが育児休暇を取得する男性はわずか1.56%(2007年時点)に過ぎず、女性の負担が軽減する兆しは見えない。
 ユニセフの07年の報告によれば、英米の子供の幸福度は先進国中、最低レベルだった。また進歩的な国だと思われているスウェーデンも雇用現場の実情はさほど模範的とはいえないという。上級管理職のうち、女性は1.5%(米国では11%)。女性の4分の3は公務員だが、男性の4分の3は民間企業で働いている。

進み出した対策

 それでも注目すべき対策が出始めている。
 ドイツでは1999年に男女同権推進法が施行されて以降、女性の不利益をなくすためのあらゆる努力がなされてきた。
 フランスでは上場企業500社の女性役員の割合は8%に過ぎないが、こういった現状を解消すべく、フランスの国民議会は1月20日、企業の取締役会での女性の割合を40%に上げる、という法案を可決した。これにより公営企業や株式会社は6年以内に女性役員の割合を引き上げるべく、努力が強いられることとなる。
 さらに、2003年に同様の法案が可決されているノルウェーでは、全体の7%に過ぎなかった女性役員の割合が08年には40%にまで引き上げられた実績があり、今後の成果が期待されている。
 韓国は2001年に日本の省に相当する女性部が新設されてから、女性の焦点を絞った政策が数多く打ち出されている。昨年には、出産、育児などをきっかけに退職した女性の再就職をサポートする『女性再就職センター』が全国74ヵ所に設置された。同センターの主な業務は女性求職者への職業訓練、就職先の斡旋・情報提供などだ。さらに、昨年1年の間に登録した8万5771人のうち、4万2488人が就職することができ、政府は2012年までに100ヵ所に増やす方針を明らかにしている。

 企業自身からも対策が出始めている。
 英国に拠点を置く国際的な会計事務所『アーンスト アンド ヤング』では、出産で一時的に職場を離れた女性と連絡を取り続け、復帰しやすいシステムを構築している。
 ドイツやスウェーデンでは、企業の90%以上が、従業員たちが時間のやりくりをしやすいようにフレックス制を導入している。
 人々の労働時間を新たな方法で振り分け始めている企業も少なくない。英国の金融大手バークレイズは、5年間の無給休暇制度を設けている企業の一つである。また同国の小売大手ジョン・ルイス・パートナーシップは、25年勤務した従業員を対象に、6ヵ月間の長期有給休暇を提供しているという。

<参考資料>
・「地球は「働く女」で回っている」
エコノミスト(UK/COURRiER Japon 2010.4)
・「職場への復帰を望む 専業主婦をサポート
週刊東亜(韓国/ COURRiER Japon 2010.4)
・「あのフランスでもまだまだ問題が…」
リベラシオン(フランス/ COURRiER Japon 2010.4)
・「仏記者が驚く日本の“意外”な道徳観」
リベラシオン(フランス/ COURRiER Japon 2010.4)
・「「男性を差別するな!」」
フォークス(ドイツ/ COURRiER Japon 2010.4)

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