サイバー戦争が始まった(上)

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 ITの発達で生活には様々な快適さが訪れている。生活に娯楽に仕事にとあらゆる方面で、ボタン一つで行うことができるようになっている。もはや、パソコンといったツールとインターネットだけで、(食事など除いて)外に出ずに生活できるといっても過言ではない。今や、世界のインターネット人口は20億人という。
 しかし、その反面、ITには思わぬ落とし穴が存在する。ウイルスやハックといった形で攻撃され、私たちの生活に混乱をきたし、ひいてはめちゃくちゃになることもある。しかも、それは今や、国家といったレベルにまで発展している。
 現在、パソコンを使用する際は、セキュリティーソフトをインストールして使うのが一般的だ。しかし、セキュリティーソフトだけでは安全ではない。ウイルスやハックといった手口は日々、進化しており、まさにいたちごっこな状態だ。つまり、現実に犯罪とそれを取り締まるのと同じ状況だ。

 それでは、サイバー攻撃の手法にはどのようなものがあるのだろうか。考えられる懸念を挙げていくと、DDoS攻撃、ロジックボム、トラップドア、バックドア、スタクスネット、マルウェアといった手口がある。
・DDoS攻撃とは、分散型サービス拒否攻撃というもので、ハッキングによる情報の盗み出しと、標的のコンピュータ・ネットワークに大量のデータを送りつけてクラッシュさせるというものだ。
・ロジックボムとは、外部から決まった信号が送られると起動する秘密プログラムのことで、不正プログラムを仕込んでおけば、新たにハッキングすることなく敵のネットワークを支配することも可能である。
 他にも、あらかじめIT機器やソフトウェアのコードに製造過程で不正プログラム(マルウェア)や秘密の抜け道になるトラップドアやバックドアを密かに埋め込む方法がある。
 上記で挙げた手法で紹介していなかったスタクスネット。これは、特殊な処理を行うのを検知した時のみ、起動するというものだ。
 イランの核燃料用遠心分離機が攻撃されたのは、このスタクスネットだ。このスタクスネットには2つの攻撃要素があった。1つ目は、ウイルスのプログラムの一部が長期間休眠した後、機械の速度を上げるよう設計されている点で、この動作により遠心分離機の回転するローターはぐらつき、破損する。そして、2つ目は、コンピュータの世界で「中間者攻撃」と呼ばれるもので、偽のセンサー信号を送り出し、システムに万事順調だと信じ込ませるものだ。つまり、遠心分離機の破壊が進んでいても、データ上は全て順調であるかのように見えるのだ。

社会に混乱をもたらすサイバー攻撃事件

 これらのようなサイバー攻撃の手法が問題となっているが、その攻撃の手法は、他にもあるだろうし、今後も生みだされていくだろう。そして、それだけ私たちの生活にも大きな影響を及ぼし、それが国家レベルになれば、さらに深刻な影響が出ることになる。実際、これらのサイバー攻撃で大きな混乱を期した事件も出ている。
 まず、最も攻撃の対象となるのはアメリカだろう。2008年に米軍のネットワークが外国情報機関の侵入を受けた。他にも防衛大手ロッキード・マーチンのネットワークへの不正侵入など、米軍の兵器に関する機密情報を持つ防衛産業へのサイバー攻撃。さらには近年、スマートフォンが普及していることから、10年夏頃から、グーグルが開発したスマートフォン向け基本ソフト「アンドロイド」を狙うウイルスも出回り始めた。
 ITインフラが進んでいる韓国では、今年3月4日、韓国ソウル市とその周辺にある政府機関など数十のウェブサイトが、DDoS攻撃にあい、大統領府や国防情報院といった政府機関などのウェブサイトがアクセス不能に陥り、銀行決済もストップするなど大混乱になり、回復するまでに3日から1週間かかった。他にも、09年7月7日には政府機関や金融機関、マスコミなど相次いで接続障害を起こすサイバー攻撃を受けた。他にも同年、韓国陸軍第3軍司令部のネットワークが不正アクセスされ、国立環境科学院化学物質安全管理センターに接続できる暗号が盗まれ、同院のシステムに侵入。化学物質生産企業や関係機関の住所などのデータが盗まれた。さらに、今年4月にも農協のコンピュータが不正侵入された。
 イランでは、核燃料用遠心分離機の約5分の1を使用不能にし、イラン初の核兵器製造の完成を遅らせることに成功した、スタクスネットというコンピュータ・ウイルスが問題になった。

 セキュリティー会社のシマンテック社によると、昨年新たに発見したウイルスは、2億8,600万種だったといい、ウイルスによるパソコンの感染は計31億件に上ったという。トレンドマイクロ社によると、2010年に見つかった新種のコンピュータ・ウイルスは2,000万種類で、1.5秒に1つがばらまかれた計算になる。さらに、利用者が拡大するスマートフォンを狙ったウイルスも、今年5月末までに57種のウイルスが確認されている。
 サイバー攻撃の問題は日々、深刻になっている。サイバー攻撃を仕掛けるハッカーの存在は、攻撃される側にとっては脅威なものだ。そのハッカーとはコンピュータに習熟し、企業や政府の枠に縛られず、プログラミングなどの技術を追求する人々のことだ。しかし、ハッカーは攻撃するばかりではなく、「ジェイルブレイク(ろう破り)」と称して企業の情報システムに侵入することもあるが、システムの欠陥を企業に教える場合もある。ハッカーたちは難解なプログラムを破って腕を競ったり、盗んだ情報を売買することで金銭を得ようとする、といった背景がある。そのハッカーの攻撃手段は年々、巧妙に、悪質になっているという。
 これらのように、サイバー攻撃の問題は国家のレベルでも深刻になりつつあり、今後のサイバー対策に力が入れられることになるだろう。

(つづく)

【参考資料】

・「世界中のコンピュータに埋め込まれた 中国製「破壊ウイルス」が突如動き出す」
黒井 文太郎(軍事ジャーナリスト)(SAPIO 2011.7.20)
・「実行部隊3000人!金正恩の実績作りで 増強される「北朝鮮サイバーテロ部隊」の実力」
高永喆(元韓国国防部北朝鮮分析官)(SAPIO 2011.7.20)
・「コンピュータウイルスで核施設が機能停止!? サイバー戦争の脅威」
William J.Broad,John Markoff,David E.Sanger(The New York Times)(USA)(COURRiER Japon 2011.7)
・「クローズアップ2011 「ウイルス作成罪」新設 データ差し押さえ制度 サイバー犯罪に歯止め 改正刑法・刑訴法きょう成立 捜査権限拡大 懸念の声も 「実害の発生に先手」 警察関係者期待 条約加盟推進 国際協力参画へ」
(毎日新聞 2011年6月17日(金))
・「サイバー戦でも“専守防衛”が障害になる 自衛隊「サイバー空間防衛隊」は日本を守れない」
井上 和彦(軍事ジャーナリスト)(SAPIO 2011.7.20)
・「米国防総省が初の戦略 サイバー空間も「戦場」 同盟国・民間との連携強化 軍事報復 排除せず」
芦塚 智子(ワシントン)(日本経済新聞 2011年7月12日(火))
・「民主化デモ防止の“最終兵器” 官製インターネットへようこそ」
(ウォール・ストリート・ジャーナル)(USA)(COURRiER Japon 2011.8)
・「News Edge 「テロとの戦い」ネットへ 情報流出、米軍・FBI・企業が共闘 公聴会、ソニーを教訓に 法整備議論に熱」
岡田 信行,山田 剛良(シリコンバレー)(日経産業新聞 2011年6月6日(月))
・「サイバー攻撃を防げ 新種ウイルス1.5秒に1つ 利用者20億人の脅威」
(日本経済新聞 2011年5月30日(月))
・「人材不足につき“戦士”急募! 就職にも役立つサイバー戦線」
(クリスチャン・サイエンス・モニター・マガジン)(USA)(COURRiER Japon 2011.8)

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