エネルギーと原子力発電所と安全(5)

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 アメリカの原子力産業は今、新たな成長の時代を迎え、原子力発電推進へ加速している。バラク・オバマ大統領は昨年1月の一般教書演説で、原子力をエネルギー安全保障の重要な柱にする意向を示した。そして、翌月には原発の新規建設に総額80億ドルの融資保証を付けると発表した。
 技術の進歩のおかげで、1986年にソ連のチェルノブイリ原発(現ウクライナ)で発生したようなメルトダウン事故の可能性は低下した。今では安全対策が何重にも講じられており、原発の管理担当者が装置を止められなくなった場合でも、原発のシステムが自動的に停止するようになっている。

 しかし、いいことだらけではない。核物質からエネルギーを抽出した後に残る、使用済み核燃料が問題になっている。キャンディーほどの大きさの黒い円柱(燃料ペレット)だが、中身は高熱を放出するウランやプルトニウムなどの混合物だ。使用済み核燃料は放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」の原料にもなる。その使用済み核燃料は約1万年の間、危険なレベルの放射線を出し続けるという。現在のアメリカのシステムでは、これを冷却水のプールやセメントで固めたドラム缶に入れ、各原発で保管することになっている。
 それでは、使用済み核燃料の対策はないのだろうか。あるといえばあるが、それも万全ではない。
 具体的な改善策として、イギリスやフランス、日本、中国などが取り組んでいる使用済み核燃料の再処理という方法がある。再処理とは、使用済み核燃料から未利用のウランとプルトニウムなどを抽出し、再び核燃料に加工することだ。
 しかし、ほぼ純粋なプルトニウムの抽出が世界的な核兵器の拡散につながることが懸念される。それに、再処理した使用済み核燃料の発電コストは、通常の原発より10%ほど高いという経済的な面もある。
 エネルギー省の調査委員会は現在、海底や宇宙空間への投棄、新たな処分場建設など複数の案を検討中だという。

安全性テストで対策をうってはいるが…

 2009年のある日、武装したテロリストの集団がアメリカ南部の原発に侵入。鎖と鉄条網のゲートを破り、警備チームとの戦闘に突入し、原発の操業に不可欠なシステムの一部を動作不能にした。
 これは、高度な訓練を積んだ政府のスタッフが、テロリストに扮した安全性テスト。アメリカ国内にある104基の原発では、警備体制の弱点を探るためのテストが3年置きに実施されているという。
 テストは綿密に計画され、原発の管理者には2か月の準備期間が与えられる。侵入の手順も前もって決められているが、それでも過去5年間に実施された100回前後のテストのうち、8回はテロリストに警備網を破られた。
 このテストで重要なのは、警備の穴を見つけ、それを塞ぐこと。警備上の問題が解決されるまで、担当検査官を現場に張り付けており、アメリカの原発はかつてなく安全になったと、政府側は主張する。しかし、アメリカでは近いうちに寿命を迎える原発が増えているが、既存施設の警備の詳細は極秘とされており、どの原発がテストに不合格だったのか、どの原発が修理を行ったのか、不明で懸念の声も出ている。
 それに、警備や安全確保の施策に関する情報の透明性はほとんどない。これには、原子力規制委員会(NRC)は、「(警備上の情報を)ほぼ完全に保護することが安全を保つ最善の道だ」と主張している。
 05年、いくつかの原発で安全性テストの約半分が不合格だったことが判明すると、米議会はNRCに検査体制の改善を要求。国連の国際原子力機関(IAEA)は昨年10月、NRCのやり方を高く評価したが、アメリカの原子力産業は「継続的な改善」の余地があるとも指摘した。

インターネットからの脅威

 原発への安全性は重要なテーマで、世界中で多くの議論がされている。アメリカでもこのように安全性を高めるために、対策をうっているが完全とはいえない。
 その原発への脅威は、こんなところからも出ている。
 イラン南部のブシェール原発がコンピューターウイルス「スタックスネット」に感染した事件があった。この感染は、1986年4月に旧ソ連のウクライナで起きたチェルノブイリ原発事故級の大惨事につながる可能性があったという。
 ブシェール原発は昨夏以降、サイバー攻撃を受けてウイルスに感染し、原子炉が一時制御不能になり、崩壊する恐れがあった。その場合、小型核爆弾1個ほどの威力だったという。

 このように、原発への脅威は、施設内部やテロリストによる侵入だけではなく、昨今、普及しているインターネットといったITからも大きな影響を受けている。

(つづく)

<参考資料>

・「アメリカの原発はやっぱり危険!?」
ダニエル・ストーン(ワシントン)(Newsweek 2011.1.12)
・「イラン原発 あわや 大惨事 サイバー攻撃受け 一時崩壊の恐れ」
鵜塚 健(テヘラン)(毎日新聞 2011年2月2日(水))

<ピックアップ記事>

・「日本のマスコミは、原発について正確に伝えているのだろうか?」/雑感

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