サイバー戦争が始まった(中)

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 サイバー攻撃問題は国家レベルまでに発展している。そのため、サイバー攻撃に対しての取り組みが強化されている。各国のサイバー戦略も動き出している。
 サイバー戦略の最先端は超大国のアメリカ。それに続いて、ロシア、中国。そうして、フランス、イギリス、ドイツ、イスラエル、インド、パキスタン、オーストラリア、台湾、イラン、韓国、北朝鮮などが続く。

 そこで、各国のサイバー戦略の取り組みを取り上げる。
 アメリカは1990年代から空軍や海軍を中心にサイバー部隊が整備されてきたが、2009年10月にはそれらの合同機関として「サイバー司令部」が創設され、昨年5月から活動を開始。このサイバー司令部は米軍核攻撃部隊を統括する「戦略軍」の傘下に置かれたが、サイバー司令部の司令官は国防総省の通信傍受機関「NSA(国家安全保障局)」の長官が兼務していることから、NSAと連携している。このサイバー軍は他国に対するサイバー戦に加え、他国からのサイバー攻撃に対する防御も統括している。
 アメリカはサイバー攻撃に対して非常に注目しており、2010年初頭のQDR(4か年国防検討報告書)で、陸・海・空・宇宙に加え、サイバー空間を「第5の戦場」とし、サイバー攻撃も通常兵器の攻撃と同等とみなし、軍事的報復も含めたあらゆる選択肢を排除しない姿勢をとり、サイバー戦争にもジュネーブ条約やハーグ陸戦条約など既存の戦時法が適用されるとの考え方を盛り込む方向だという。これらの他に、警察当局も連邦捜査局(FBI)がサイバー部門を通じて、サイバー犯罪の取り締まりを進めるという。
 さらに、他にもこんな取り組みなされている。今年4月、米国テキサス州のサンアントニオで「全米大学サイバー防衛選手権」が開催された。このイベントに全米から109の大学が参加した。学生たちが企業用コンピュータ・ネットワークをハッカーから守るのを競い合うといったもの。今、米国は「サイバー戦士」をあと1万人は必要だという。

 アメリカ政府から、サイバー戦能力強化を非常に警戒され、将来のサイバー戦の仮想敵ナンバーワンと位置づけられているのが中国だ。サイバー戦部隊は「網軍(ネット軍)」と呼ばれ、総参謀部第3部(技術偵察部)が統括している。
 北朝鮮も注目。北朝鮮のハッキングは、米国防総省の機密文書の暗号を解読する目的で始まったという。軍指揮自動化大学(5年制、現・金一軍事大学)が、1986年に100人のコンピュータ専門要員を教育し始めたのが最初とされる。91年、湾岸戦争で米国と連合軍が勝利すると、金正日はサイバー戦の重要性を認識し、コンピュータ専門要員をロシアや東ヨーロッパにある北朝鮮の大使館に派遣。そこを拠点にハッキングを行うようになった。
 専門のハッカー部隊が創設されたのは95年とされる。当初は労働党作戦部の傘下に置かれていたが、2009年に組織改編され、現在は人民武力部の工作機関である偵察総局の傘下に統合された。サイバーテロ部隊を統括しているのは、朝鮮人民軍曹参謀部の「情報統制センター」で、指揮下には実行部隊である「偵察総局121局」、情報・心理戦を担当する「偵察総局204局」などが置かれている。

 そして、気になるのは日本の体制である。
 防衛省は、陸自に「システム防護隊」や統合幕僚幹部に「自衛隊指揮通信システム隊」を、それぞれ05年と08年に新編するなどして、監視の強化、サイバー対処技術の強化を行ってきた。昨年度からは、統合調整官を新設するなど、サイバー攻撃隊諸能力の強化を図っており、12年には「サイバー空間防衛隊」を新設する予定としている。
 しかし、これらの体制は基本的に、防衛省・自衛隊の指揮通信システムなどを守るためで、政府機関や他省庁や通信・公共交通機関などの社会インフラを守る組織ではないという。つまり、他省庁をはじめとして、民間通信会社や公共交通機関は、サイバー攻撃に対して、警察等の協力を得ながら自らで守るしかないという。

官製インターネット構想

 イランもサイバー対策を行っている。もともとイランはイスラエルに次いで1998年代初めにインターネットを導入するほどのインターネット先進国だ。現在では国民の11%が日常的にアクセスしているというデータもある。
 はじめはイスラム的価値観を世界に広げるものとして当局からも歓迎されたが、反体制派がブログで活動を活発化させるにつれ、政府の検閲体制は強化されることに。そして、今では「官製インターネット構想」が動き始めている。この構想は、普段使っているインターネットとは違い、独立した国内線用ネットワークであり、これによりユーザーにとって利用コストが下がり、またイスラム的価値観を西洋の乱れた道徳や思想から守ることを目的としたものだ。要するに、これまでのインターネットという世界を利用できなくし、政府が認めた範囲の新たなインターネットの世界になるということだろう。この構想は、アフマディネジャド政権が誕生した05年頃に発案され、まず国内の3,000の学校や400の役所で導入された。08年には関連するインフラ投資は10億ドル(約800億円)が割り当てられたとされ、この構想が進んでいると見られる。

 これらのように各国でサイバー体制が展開されている。イランのような体制は中国ではさらに進んでいるとされる。
 サイバー攻撃は年々、増加する一方で、それは国家レベルの問題となっている。それだけ、サイバー対策に力を入れる必要性が高いことがうかがえると同時に、サイバー戦略が今後、重要な位置になってくることも示唆している。
 サイバー戦略の成功が今後の国際情勢の行方を担ってくるといっても過言ではないかもしれない。

(つづく)

【参考資料】

・「世界中のコンピュータに埋め込まれた 中国製「破壊ウイルス」が突如動き出す」
黒井 文太郎(軍事ジャーナリスト)(SAPIO 2011.7.20)
・「実行部隊3000人!金正恩の実績作りで 増強される「北朝鮮サイバーテロ部隊」の実力」
高永喆(元韓国国防部北朝鮮分析官)(SAPIO 2011.7.20)
・「コンピュータウイルスで核施設が機能停止!? サイバー戦争の脅威」
William J.Broad,John Markoff,David E.Sanger(The New York Times)(USA)(COURRiER Japon 2011.7)
・「クローズアップ2011 「ウイルス作成罪」新設 データ差し押さえ制度 サイバー犯罪に歯止め 改正刑法・刑訴法きょう成立 捜査権限拡大 懸念の声も 「実害の発生に先手」 警察関係者期待 条約加盟推進 国際協力参画へ」
(毎日新聞 2011年6月17日(金))
・「サイバー戦でも“専守防衛”が障害になる 自衛隊「サイバー空間防衛隊」は日本を守れない」
井上 和彦(軍事ジャーナリスト)(SAPIO 2011.7.20)
・「米国防総省が初の戦略 サイバー空間も「戦場」 同盟国・民間との連携強化 軍事報復 排除せず」
芦塚 智子(ワシントン)(日本経済新聞 2011年7月12日(火))
・「民主化デモ防止の“最終兵器” 官製インターネットへようこそ」
(ウォール・ストリート・ジャーナル)(USA)(COURRiER Japon 2011.8)
・「News Edge 「テロとの戦い」ネットへ 情報流出、米軍・FBI・企業が共闘 公聴会、ソニーを教訓に 法整備議論に熱」
岡田 信行,山田 剛良(シリコンバレー)(日経産業新聞 2011年6月6日(月))
・「サイバー攻撃を防げ 新種ウイルス1.5秒に1つ 利用者20億人の脅威」
(日本経済新聞 2011年5月30日(月))
・「人材不足につき“戦士”急募! 就職にも役立つサイバー戦線」
(クリスチャン・サイエンス・モニター・マガジン)(USA)(COURRiER Japon 2011.8)

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