米オバマ大統領が誕生 「チェンジ」は達成されるか (4)

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 バラク・オバマ上院議員が大統領選挙に勝利したことは、様々な影響を与えている。

 まず、あげられるのは、黒人大統領が誕生するということでの黒人への影響だ。長らく、アメリカでは黒人への人種差別が残されており、それは、同時に他の人種にしてもいえることだった。
 人種差別の問題への希望が黒人大統領の誕生がいかに歴史的なことかは、数字が物語る。黒人は米人口の13.5%を占める。しかし、選挙前の政治勢力では、連邦下院議員は40人で約9%、上院議員は100人のうちオバマ氏のみ。50州のうち選挙で当選した知事はマサチューセッツ州のパトリック氏だけ。閣僚もライス国務長官1人しかいない(*1)。
 それに、選挙区が小さい下院では黒人住民が多い地域で勝てるが、白人が多数派となる州単位の上院・知事選では黒人の当選は極端に難しい。ましてや全米が対象の大統領選では不可能とみられていた。唯一、有望といわれたパウエル元国務長官は妻が暗殺を恐れて出馬を見送らせたといわれている(*1)。
 オバマ氏は母がカンザス州出身の白人、父はケニアの黒人で、先祖に奴隷を持たず、黒人候補としてはむしろ異端。差別是正を声高に叫ぶ従来の候補者像と違ったことが、白人の抵抗感を和らげた。ブッシュ政権への失望や金融危機もオバマ氏には有利に働いた(*1)。

 オバマ氏への支持はこんな形でもあらわれる。
 オバマ氏は6億ドル(約6百億円)異常の過去最高の資金を集め(*2)、アイオワ州で民主党登録者が22万人を超えたのに対して共和党登録者は14万人など、各州で民主党が勢いをみせ、期日前投票は最終的に全投票の3割を占め、前回の22%、前々回の15%から大幅に上昇する見通し(*2)を11月5日付けの日本経済新聞の記事からもうかがえた。

 国内にも大きな影響を与え、現在も与えているバラク氏は、国外にも大きな影響を与えている。
 ニコラ・サルコジ仏大統領は、オバマが今夏にパリを訪れた際には盛んに2人で写真に納まり、大いに宣伝に利用し、アンゲラ・メルケル独首相率いるキリスト教民主同盟の党員たちは7月、ベルリンに20万人強の聴衆を集めたオバマの演説に詰めかけた(*3)。
 EUまとめ役の両トップの振る舞い方からもわかる。

 オバマへの期待は大きいものの、問題は山積みだ。
 オバマ・ブームが世界に広がる中、人種問題や民族間の緊張など、世界各国が抱える社会問題が改めて注目されている(*4)。世界でオバマがこれほどまで注目されるのは、アメリカ以外の国が人種や民族に関して根深い問題を抱えているためで、こうした国々では、マイノリティー出身の一部の政治家や活動家が、「進歩的」なアメリカと自国の旧態依然たる違いを強調し、変革にはずみをつけたいと考えている(*4)。そして、多くの活動家は、オバマのように地域支援活動に従事した経験を持っている(*4)。
 ヨーロッパのほぼすべての国が人種差別問題を抱えているが、実態はそれぞれ異なる。(*4)
 例えばイギリスでは、60年代に多文化社会の建設を目指して採用された政策が、民族ごとに分断されたコミュニティーを生んでしまった。05年には、こうしたコミュニティー出身の若者たちが地下鉄爆破テロを起こした(*4)。
 フランスでは昨年、公的記録に人種や宗教についての項目を設けようというサルコジ政権の努力が違憲とされて頓挫。アラブ系の名前を持つ人や、移民居住区の住民が差別されることは日常茶飯事だというのに、人種問題の正確な把握さえ困難な状況だ(*4)。
 ドイツでは90年代まで、トルコ系労働者とその子供たちは市民権を得られず、公職に就けなかった。現在も多くのドイツ人が、トルコ系を同胞とみなすことに抵抗を感じている(*4)。
 イタリアのベルルスコーニ政権はここ数カ月、少数民族ロマを排斥する姿勢を強めている。ロマの子供たちには、予防接種と諮問捺印を強制。過去1年で、イタリアのロマ人口の1割が出国を余儀なくされた(*4)。
 政界で活躍しているマイノリティー出身者は、選挙で選ばれたのではなく、任命された人が多い。いい例がサルコジが閣僚に任命した3人の女性。アルジェリア人とモロッコ人の血を引くラシダ・ダティ司法相と、アルジェリア系ベルベル人の血を引くファデラ・アマラ都市政策担当閣外相、セネガル生まれのラマ・ヤド外務・人権担当閣外相(*4)だ。

 バラク・オバマへの期待はこんな形にも表れていた。
 世界の1億3400万人の聴取者向けに45ヵ国語で放送を行なっているボイス・オブ・アメリカ(VOA)。パキスタン向けに第1回テレビ討論会の音声を流したところ、予想外の反響があり、急きょ全3回の討論会をすべてほうそうすることにした(*5)。
 民主党候補バラク・オバマゆかりの地ケニアとインドネシアは、オバマ優勢のニュースに沸き返った(*5)。共和党候補のジョン・マケインがベトナム戦争に出征し、捕虜となった経歴をもつことから、ベトナムの人々もこの選挙には注目していた(*5)。
 選挙戦の終盤、国内でのオバマの支持率は平均50%で、44%のマケインを終始リードしていた。ほぼすべての国でオバマの支持率がマケインを上回り、多くの国では大差とつけた。ドイツでは70%、中国では75%という人気ぶりだ(*5)。
 フランスのニコラ・サルコジ政権唯一の黒人閣僚、セネガル移民のラマ・ヤド外務・人権担当閣外相は仏紙ル・パリジャンにこうかたっている。「オバマのような人が出てくるところが、アメリカという国の素晴らしさだ」(*5)っと。
 米国内で語られる大統領選と、世界が見守る大統領選はまったく別もののよう。アメリカのコメンテーターは、今回の選挙も前回や前々回と同じように扱ってきた。彼らが語るのは、日々の支持率の変動であり、激戦州(のなかでも激戦区)の色分けや有権者登録と資金集めの状況、スポット広告、ネガティブキャンペーンの影響など、地域ごとの「戦況報告」だった(*5)。
 一歩国外に出ると、世界に通用する21世紀のリーダーと、いまの時代の政治的・経済的な危機に対応できない冷戦時代の生き残りの戦いだったとも言える(*5)。
 国内でのオバマは、とくに終盤に入ってから、肌の色や知性、エリート的なイメージ、進歩的な考えを前面に出さないようにしていたようだ。しかし、世界で支持が高まったのは、まさにこうした資質のおかげだ(*5)。
 アジアの人々にとってインドネシアで子供時代を過ごしたオバマは身近な存在であり、アフリカの人々もケニア人を父にもつオバマに親しみを感じている。モロッコでニュース雑誌を出しているアフメド・ベンチェムジによれば、中東の人々もフセインというミドルネームに親近感をもつ(*5)。
 今回の大統領選は「変革」をめぐる戦いだと、世界は見てきた(*5)。
 英紙ガーディアンのコラムニスト、ジョナサン・フリードランドは、この7年間に世界は米政府の決定がどれほど重大な影響を及ぼすかを、嫌というほど思い知らされたと書く。「二つの戦争と世界的な金融危機。これらの出来事は、少なくとも部分的にはワシントンの決定に端を発している」(*5)。
 誰が米大統領になるかが、世界の人々の生活に直接的な影響を及ぼすようになった。世界におけるアメリカの地位が揺るがないかぎり、誰がなってもアメリカの大統領イコール世界の指導者という図式はある程度成り立つ(*5)。
 英調査会社ユーガフによると、北欧ではオバマの支持率が70%を超え、エジプト、サウジアラビヤ、アラブ首長国連邦でも50%を優に上回っている。イギリスでは5月以降13ポイント上がって、62%に達した。フランスではオバマ応援クラブが次々に誕生、「フランスはオバマを推す」というロゴ入りのTシャツもネットで売られている(*5)。
 ヨーロッパでは、オバマの登場をきっかけに人種的な少数派が声を上げはじめた(*5)。

 世界中がバラク・オバマへ大きな期待を持っていることが伺えた今回の選挙。もうすぐ、ブッシュからオバマへ、政権交代が行なわれる。
 果たして、オバマが大統領に就任し、オバマ政権が発足。大きな数多くの問題が待ち受けているわけだが、解決していくことができるだろうか。

つづく

<参考資料>
*1 日本経済新聞 2008年11月6日(木)『米国社会 成熟 初の黒人大統領 移民急増が背景に』
*2  日本経済新聞 2008年11月5日(水)『2008年米大統領選 異例ずくめ 選挙戦に幕 現職「正副」不出馬・予備選は最長… 大混戦反映 地盤変化も』
*3 Newsweek 2008.11.12 『ヨーロッパが夢から覚める日』
*4  Newsweek 2008.11.16 『世界に広がるオバマ・フィーバー』
*4  Newsweek 2008.11.12 『世界の大統領 その名はオバマ』

<参考記事>
・「日米間では選挙の手法もかなり違いますね」/ひっそりと語ってみる

・「【米大統領選挙】祝バラク・オバマ」/gujin blog

・「人種のるつぼ合衆国に新しい風が吹く!」/〇い玉子も切りようで口

・「オバマ大統領誕生」/東大生TOEIC講師の日記

・「オバマ大統領誕生は米国にどのような変革をもたらすのか」/ハズレ社会人

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