自然エネルギーへの転換は可能か(4)

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 エネルギー問題が深刻になるとともに、環境問題も深刻になる。そして、CO2(二酸化炭素)を大量に出す化石燃料から再生可能エネルギーへと注目度が高くなっている。ただし、3・11の東日本大震災の影響で、原子力発電に対する目は厳しくなった。そこで、太陽光や風力、地熱といったエネルギーに対する注目が高くなっているわけだ。
 ただし、これらの再生可能エネルギーが実現可能かどうか、コストや技術などから普及させることは可能かどうかは、現在、取り組まれている最中だが、一般的にはまだ広まっていない。取り組んでいる側と化石燃料に頼っているといった側とで格差が大きい。
 環境を考えて再生可能エネルギーの普及に力を入れたいが、現実的にエネルギー供給は今のこの瞬間も求められている。そのため、再生可能エネルギーが確立するまで、エネルギー供給を我慢することはできない。それでは、エネルギー供給はやはり、これまでのエネルギー源で賄うしかないのだろうか。

 これまでのエネルギー供給源でもあるが、石油よりは二酸化炭素を排出しない「天然ガス」が注目されていている。
 2008年に米地質調査所が発表した報告書によると、北極海に埋蔵されている天然ガスは、世界の未発見埋蔵量の30%にも及ぶと推定されている。ちなみに石油は、未発見埋蔵量の13%にのぼるという。
 天然ガスは石炭よりも環境負荷が小さいことが注目を浴びることにつながった。ただし、コストは石炭より高く、再生可能エネルギーよりはクリーンではない。しかし、天然ガスに注目が高まる背景には、
・中国やインドで工業化が進んでエネルギー需要が急拡大していること
・福島の原発事故により、「原子力ルネサンス」の先行きが不透明になったこと
・中東産油国で政治的混乱が生じていること
といったことがあるからだ。
 そんな天然ガスだが、さらに注目を後押しすることがあった。それは地中深くの硬い岩盤の中に眠る「シェールガス」という天然ガスだ。これまで地中深くの硬い岩盤の中に閉じ込められていることと、在来型天然ガスのようにまとまって存在せずに、分散していることから、敬遠されていた。しかし、新たな掘削技術が開発されたことで大量の天然ガスを抽出することが可能になったのだ。
 その技術とは「水平杭井掘削技術」と「水圧破砕技術」だ。まず掘削装置で地面と垂直に深さ数千mの穴を掘る。そして、頁岩層に達すると、徐々に穴を水平方向に曲げていく。水平に1,600mほど掘り進めたところで、穿孔用の器具を杭井の末端まで降ろし、爆発を起こす。すると、頁岩層に細かい亀裂が生じる。そこで、水に砂と少量の化学物質を混ぜた液体物を高圧で杭井に注入して、頁岩層の亀裂を広げる。圧力により液体物は杭井を逆流し、ガスも亀裂からパイプへと流れ込むという仕組みだ。さらに現在では、一つの垂直の杭井から、複数の水平の杭井を樹木の根のように延ばす技術も開発されている。
 在来型天然ガスの備蓄は2068年には底を突くといわれている中で、このシェールガスは魅力は大きい。米国のエネルギー情報局は今年、国内のシェールガス可採埋蔵量を23兆m3と見積もった。これは、1年前の推計の2倍以上に相当し、米国全土で1年間に消費される天然ガスの34倍以上にあたる量だという。しかも、在来型の天然ガスと合わせれば、米国には100年分に相当するガス資源が存在することになる。ちなみに、米国の石油埋蔵量は9年分の消費量にも満たないというから、シェールガスの魅力は実に大きい。
 しかも、このシェールガスは英国やインド、中国、東欧諸国にも埋まっている可能性がある。

シェールガスの課題

 世界最大級のシェールガス埋蔵量を誇るのが、米国北東部の「マーセラス・シェール」だ。その中心部はペンシルベニア州とニューヨーク州にまたがっており、世界2位の天然ガス田になるともいわれている。
 ペンシルベニア州では、06年から10年末までに2,400の杭井が掘削され、今年に入って3ヶ月間でさらに約300ヵ所が増えた。
 ただ、不透明な部分もある。マーセラスは、米国北東部の人口密集地のすぐ近くにあり、北極圏やブラジル沖の深海、そしてニューヨーク市の河川地域さえも、掘削の対象になるかもしれない。さらに地中深く、暗くて危険な場所へ、そして人口密集地へと杭井を拡大していけば、世界経済を動かすのに必要なエネルギーを充分に手に入れられる規模になるが、果たして環境と社会がどんな犠牲を被るのか、まだ予想もつかない。
 シェールガスに関わる(関わりそうな)問題は少しずつ浮かび上がっているかもしれない。ペンシルベニア州北部ウェルズボロ郊外では、昨年の夏に杭井からの排水漏れが起きたと見られ、飼っていた牛が放射性元素であるストロンチウムで汚染された水を飲んでしまったという事件が発生した。
 他にもいくつか問題が浮かび上がってきている。マーセラスの杭井では、水圧で頁岩層に亀裂を入れるために、平均1,900万リットルもの水が使われる。それらの水に化学物質が混ざったこの液体物が何らかの形で付近の地下水を汚染してしまうことが懸念されている。化学物質は液体物の0.5%しか占めないとされているが、1,900万リットルの0.5%であれば9万5,000リットルの量になる。ガス業界は液体物の中身について詳細情報を公開する義務がなく、ハリバートンなどの掘削企業は情報公開に消極的なため、どのような化学物質が含まれているのかはよくわかっていない。それに、マーセラス・シェールにわずかな放射性があることも懸念されている。
 杭井は、どんな気体や液体でも決して途中で漏れ出すことがないようにセメントで確実に固める必要がある。このセメント固定は掘削で最も難しい作業だ。しかも、時間とともに劣化が進むことも考えられるという。
 そして、最後に汚染物質の流出の問題だ。ペンシルベニア州の環境保護部門によると、今年調査を受けたマーセラス・シェールの1,944ヵ所の杭井で、ガス漏れや廃棄物処理など1,218件の違反が報告されているという。杭井が破裂した事例や、流出したメタンの爆発で家が壊されたという例もあり、掘削する杭井が増えるほど、問題が起きる可能性も高くなりそうだ。しかも、水圧破砕で一つの杭井が掘削されてから閉鎖されるまでに、塩分を含む有毒な廃水が380万リットルも発生する。

 シェールガス以外に「メタンハイドレート」も注目されている。これは、メタンガスが凍ってシャーベット状になった固体結晶で、火をつけると燃焼するため「燃える氷」とも呼ばれ、燃焼時のCO2排出量は石油や石炭の半分程度で、燃え尽きた後に残るのは水だけだ。このメタンハイドレートは海底の地下100~300m前後の地層に埋蔵されている。これが日本近海の新潟沖や東部南海トラフに確認されたという。ただし、難点はメタンガスの温室効果と採掘が難しいということだ。

 このように、石油や石炭といった環境にはクリーンでないものから、再生可能エネルギーへと転換しようとする中で、再生可能エネルギーの普及に関しての実現度など、現実的な対処への壁がある。そこで、天然ガスといった再生可能エネルギーよりはクリーンではないエネルギー源が注目されている。
 3・11で福島原発事故により原発の注目度も低下しつつ、これからのエネルギー源をどうしていくかは本格的に行動しないと、どうしようもない事態になりつつある。

(おわり)

【参考資料】

・「寒い北極海で資源をめぐる“熱い戦い”が起きている 北極海の天然資源の宝庫?」
フィーリン・ポリシー(USA)(COURRiER Japon 2011.7)
・「注目の新資源 シェールガスが起こす エネルギー革命」
Bryan Walsh(Time)(USA)(COURRiER Japon 2011.7)
・「長年の難題を解決した シェールガス抽出の新技術」
(COURRiER Japon 2011.7)
・「地熱発電、メタンハイドレートが有力! 「日本ならではの新エネルギー」最前線」
池上 彰(ジャーナリスト)(SAPIO 2011.6.15)

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