チェルノブイリの今

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 これまでは環境に良いというイメージを前面に出し、小さな原料で大きなエネルギーを得られるというメリットなどから、原子力発電推進政策が進められてきた。しかし、ここにきて、原発の恐怖が新たに加わり、世界の原発政策を二分するという大きな話題にまで発展したのが、福島第1原発の事故だ。
 そこで、原発の恐さが分かる意味では、大きな判断材料にもなるであろう、チェルノブイリ原発事故。チェルノブイリ原発事故は現在も解決はしていない。そのチェルノブイリ原発に関して、「廃墟と放射線と野生動物と… 「25年後のチェルノブイリ」」(COURRiER Japon 2011.6号)の記事が大きなヒントになる。

 1970年、チェルノブイリから約14kmの都市「プリピャチ」に、当時としては欧州最大となる原発を建設するというソ連の計画が始動した。そして、問題の事故は、86年4月26日午前1時過ぎに発生。チェルノブイリ原発の4号炉で爆発が起き、約360kgの鉛の塊が飛び跳ね、100tの原子炉が爆発で破壊された。この事故による放射性物質の放出量は、広島の原爆の400倍だったという。
 爆発直後に31人が死亡し、2日後にはバス1,100台が到着し、プリピャチの住民全員が避難した。その後、ソ連の指導部により作業員60万人を投入する汚染除去作戦が実施された。汚染除去作業は、爆発そのものより死をもたらし、癌や甲状腺関連の病気により、その後の人生を不如意に過ごした人も少なくなかった。事故後の数年間、被爆の影響で死亡した退去住民と汚染除去作業員の数は数千に達したという。

 爆発から数週間後、モスクワの官僚が、約2,850km2の「立ち入り禁止区域」を設定。さらにその後、約4,300km2に拡大され、現在はそのゾーン内で約5,000人が働いている。
 「チェルノブイリ立ち入り禁止区域」(通称「ゾーン」)は86年以降、人が暮らしていない広大な区域で、端から端までの距離は長いところで約100kmに達する。ゾーンに入るには、今でも分厚い書類を5部用意して、それら全部にハンコが押されない限り何も進まない。
 放射能汚染は人間の感覚ではほとんど感知できない。得体の知れない恐怖が襲いかかるが、「被爆」は日常生活の一部でもある。太陽や地球内部からも放射線が出ており、食べ物も放射能を帯びている。全ての生物は、カリウム40という放射性物質を持っており、地上で浴びる放射線の平均線量は0.03マイクロシーベルト毎時だ。地球の一部には、1マイクロシーベルト毎時の放射線を浴びる場所もあるという。
 しかし、どれくらい浴びると人体に危険が及ぶのか、という判断は難しい。人間が1年間に浴びる放射線量は約3,600マイクロシーベルトに達する。人体は年間10ミリシーベルト程度なら安全に対処できるとのこと(科学者の通説)だが、年間300ミリシーベルトを超えると、広島や長崎の生存者と同じで、癌罹患率が上昇するという。
 原発というと、様々な放射性物質が挙げられるが、まず(核反応の結果生ずる)プルトニウムやウランなどの核分裂性物質がある。これは、
・放射性ヨウ素
・セシウム137
・ストロンチウム90
などのことで、現在のチェルノブイリを汚染しているのは、主にセシウム137とストロンチウム90、そしてプルトニウムだという。
 これらの危険性があることから、チェルノブイリ事故によりゾーン内立ち入り禁止になっているが…、ゾーンの奥深くに位置するウパチッチという小さな村がある。公式には誰も住んではならないということになっているが、爆発事故の数カ月後から、数百人の村人が先祖代々の土地に戻り始め、今に至るまでひっそりと暮らし、政府もこれを黙認しているという。

ゾーン内の生物に異変

 強制退去の後、ゾーンから消えたのは人間と家畜だけではなく、人類と共生してきた生物(ハト、ツバメ、ネズミなど)も大量に姿を消すことになった。それから野生の生物の生態系が復活することになった。現在、ゾーン内に生息する生物が増えたという。
・イノシシの個体数は約5,000頭で、狼の群れも25~30ほど生息し、成獣の数は計180匹ほど
・ヨーロッパヤマネコや狐、アナグマの数も昔と比べて格段に増加
・アカシカの頭数は数百、ノロジカやヘラジカの頭数は数千に達している
といったことがゾーン内で見受けられ、この地域の動物相の構造は、全体的に変わったという。
 ゾーン内では一見、野生動物が繁栄しているかのようにみえる。しかし、動物の体内を調べると、多くの種の動物のDNAが不安定化しているというのだ。恐らく、セシウムやストロンチウムに汚染された食べ物を大量に食べているからなのだと。
 この問題は深刻で、遺伝子の不安定化を目に見えるかたちで示す実例も出てきている。鳥類に関しては、
・色素欠乏症が顕著になっている
・非対称の羽根を持つことが通常よりも20%ほど高い
・癌になる確率が高い
など。ネズミの一種は、放射線への耐性を備えるようになっているという。つまり、細胞が傷ついても、それを修復できるシステムが、遺伝子を通して次の世代へと伝わるようになっている。
 さらに、事故後の放射性粒子にまみれた松の森は、緑から赤に変化したという。この「赤い森」に生える小さな木々は、様々な遺伝的異常を示しており、針葉が通常よりも顕著に長いものもあれば、木ではなく、藪のような形状になる松も少なくないというのだ。
 これらのことから、ゲノムの変化はもはや予測不可能な段階で、一世代ごとに異なるゲノムになっているという。しかも、早かれ遅かれ、進化によって新種が生まれることになるのではないかという。
 このように、放射性物質の影響は自然界に大きく影響していることがわかるだろう。

 現在のチェルノブイリ原発の問題はまだ解決していないことがわかるが、原発の建物自体もまだ問題が残っている。
 事故のあった4号炉は高さおよそ60mの巨大な煙突が突き出ている。25年前からセメントの石棺に包み込まれているが、封印は完璧ではなく、裂け目から危険な放射性物質が漏れ出している。現在、ここでは新たに鋼鉄製の「鉄棺」が建設が進められており、完成すれば世界最大の可動式構造物になるそうだ。

 長い年月が経っている事故からでも、これだけの影響が出る原発事故。長期的な視点を考慮しての政策の進め方が求められるだろう。今後の原発に対して、どうしていくのか。私たちの生活でも大きな存在となっている電気の役割という、生活という身近なところを見つめていくことになる。

【参考記事】

・「廃墟と放射線と野生動物と… 「25年後のチェルノブイリ」」
Henry Shukman(アウトサイド(USA))(COURRiER Japon 2011.6)

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