原子力発電というエネルギーの進路(下)

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 日本の原子力発電ビジネスは、ベトナムの大規模原子力発電導入のパートナーとして有力候補となるなど、昨年あたりから政府の支援を得て、国際展開を本格化しようとしていた。昨年、東京電力など電気事業社9社とプラントメーカー3社及び産業革新機構、計13社による共同出資会社「国際原子力開発」を設立し、原子力発電所を新規導入する新興国に対し、ニーズを踏まえた提案活動を行っていくこととなっていた。
 そして、2030年に向け、三菱重工業は加圧水型軽水炉(PWR)、東芝、日立は沸騰水型軽水炉(BWR)と、それぞれが協力して、次世代原子炉を開発。世界最大級となる180万kW原発など、オールジャパンとして売り出そうとしていた。そこに、福島原発事故が起こり、「国際原子力開発」の全体の20%を出資していた東京電力が、海外事業を見合わせる方針になった。
 こうしたことから、日本の国際市場における競争力は弱まっている。

 現在、原子力発電開発の国際的な事業展開を行っている主流原子力産業は、
・アレバ:フランス
・ウェスティングハウス・エレクトリック(WH):米国
・ゼネラル・エレクトリック(GE):米国
・東芝:日本
・日立:日本
・三菱:日本
・AEP:ロシア
・斗山重工業:韓国
といった具合だ。
 福島原発事故後、アレバのCEOがやってきたことはニュースになったが、このアレバはウラン採掘から燃料製造・発電・送配電までの全部門に関わる世界最大の総合原子力企業である。
 世界で最初に原子力技術を開発した米国は、1970年代まで政府が積極的に原子力産業の国際発展に関与したが、その後は停滞期に入り、米国を代表するWHは、2006年に東芝に54億ドルで買収された。GEは同じ06年に日立と原子力事業における戦略的提携を結び世界市場の拡大を目指している。

 これまで、アレバと三菱、東芝とWH、日立とGEが世界の原発事業展開を活発化してきたが、ロシア、韓国の原子力産業が勢いを見せている。
 ロシアは旧ソ連時代から軍事用核開発と並行して、独自の原子力技術を開発・確立し、強力な原子力産業を築いてきた。07年、原子力産業を再編・国営企業として統合し、国際展開を積極的に行い、世界8カ国にロシア製原子炉を導入している。
 韓国は09年、アラブ首長国連邦(UAE)における原発新規建設プロジェクトを落札。韓国企業初の海外での落札で、中東産油国における最初の大型原子力案件だった。韓国の建設単価は1,556ドル/kW。運用実績において74年に導入以来、一度も大事故を起こしていないという。ちなみに、フランスの建設単価は3,860ドル/kW、日本は3,009ドル/kW。

中国の懸念すべき原発政策

 現在、世界で商業用原発を持つ国は30か国で、原発を持つほとんどの国は福島原発事故を受け、自国の発電所の安全総点検を実施。福島原発事故で世界に原発のリスクを改めて考えさせることになったわけだが、経済でも勢いのある中国の原発事情に勢いと懸念が浮かび上がる。
 現在、稼働中の原発は13カ所。6月15日から広東省の嶺澳原発で新たに1基が商業運転を開始。2020年までに新たな稼働を予定している原発は28か所、批准段階の計画も含めれば100か所を上回り、さらに50年までには230基へ増やすという計画もあるという。国内の原発の稼働状況は順調で、フランス、カナダ、ロシアから技術を得て国産化。WHから4基を導入し、それを元に別の改良型を開発中である。さらに原子炉の輸出国を目指しており、既にパキスタンとの間で協力関係を進めている。
 今のところ、中国の原発で事故が起きたとの客観的事実は見つからない(中国では事故レベルが比較的軽い「一級」から「三級」に属するものを「事件」と呼ぶ)。ただし、「事故や事件の情報が伏せられているのではないか」との疑念が消えない。昨年、香港からわずか50kmの距離にある大亜湾原発で、放射性物質が漏れる事故があったが、これを当局はメディアが騒ぐまで隠していた。1991年に中国独自で設計した原発第一号(秦山原発)が誕生して以降、現在までに「手抜き」が原因となった深刻な事故は起きていない。
 しかし、中国の原発政策の疑問はこんなところからも出てくる。原発銀座と呼ばれる中国沿海部の浙江省には、2013年に世界初の加圧水型原子炉(第3世代)の完成が予定されているが、原子炉からわずか数百mの距離に5ツ星ホテルが建てられていることだ。
 それでも原発政策が進むのは、電力需要が高まっているからだ。経済発展が急拡大している中国だが、それだけ電力需要も高くなっており、今夏はおよそ3,000万kWの電力不足に陥るという電力問題が浮上している。世界中の石油を買いあさっても、まだ旺盛な電力需要に追い付かないのが中国の実態といえる。中国ではかねてから、電力不足が経済発展のボトルネックになっており、今や各省が激しい電力の奪い合いをしているという。

 世界各国でそれぞれの原発問題を抱える一方、日本の今後はどうなるのだろうか。福島原発事故により福島第1原発は廃炉へと向かう。しかし、その費用と期間は凄まじい。
 日本の金融機関の環境情報を発信する市民団体「FGW(Finance Green Watch)」は約7兆円と試算している(5、6号機も含めた6基分)。米国会計検査院(GAO)は破局的事故が起きた場合の損害を1基当たり150億ドル(約1兆2,000億円)と、1986年に米議会に報告(スリーマイル島事故で実際にかかった費用に基づいて算出)していることからも、今回の福島原発の費用は厳しい額になるだろう。それに、79年に炉心溶融事故を起こしたアメリカのスリーマイル島原発の廃炉には12年が費やされ、86年に爆発したチェルノブイリ原発はまだ処理は終わっていないことからも廃炉完了までの道のりは長い。

 日本の原発政策はかなり厳しくなっているが、世界では原発維持の方針をとっている国はある。今回の事故で原発の安全対策に注目が高まったのと同時に、新たな原発の技術にも注目が高くなっている。
 まずは、劣化ウランを燃料とする「進行波炉」(TWR)。TWRは福島第1原発の軽水炉とは異なり、高速炉の技術が用いられる。TWRの利点は2つ。
・使用済み核燃料プールがいらない
・電源が無くなっても、冷却機能が失われない(冷却材として水ではなく、液化ナトリウムが用いられる)
 そして、冷蔵庫サイズの小型原子炉「原子力電池」。米ロスアラモス研究所から分離した電力会社ハイペリオン・パワー・ジェネレーションが開発。低価格で小型、移動も容易にでき、25MWを出力できるという。ちなみに、一般的な商用原子炉の40分の1の発電量に相当。
 これらの新技術は、新たなエネルギー技術として注目されるだろうが、メリットばかりではないだろう。デメリットもあるだろうから、デメリットもきちんと探ることは必要になってくる。

 原発から得られるエネルギーは非常に大きな存在だ。その原発にはチェルノブイリやスリーマイル島原発事故のようなデメリットもあること。そして、今回の福島原発事故を受け、改めて世界にメリットの大きな技術に対して、デメリットもきちんと考えさせることになっただろう。
 現在、原発の安全対策に強い関心が持たれているが、今回のキーワードは重要なことだ。過去にチェルノブイリやスリーマイルの事故後にも、安全対策に関心が高まったが、それも一時期を過ぎれば、また意識が他のことで低くなってしまうということだ。
 深刻な影響を風化させないように、安全など対策を行っていかなくてはならない。

おわり

【参考資料】

・「大国フランスをロシア、韓国が猛追! 日本撤退でますます激化する「世界原発ビジネス戦争」」
村上 朋子(SAPIO 2011.6.15)
・「「手抜き工事」「汚職」「続発する小さな事故」から「隠蔽」まで…原発ラッシュ・中国の「コワ~い話」」
富坂 聰(SAPIO 2011.6.15)
・「[原発のゴミ]が引き起こす地獄絵図」
(SPA! 2011.5.24-31)
・「“悪ガキ教授”の「もっとヤバい経済学」 第5回 原発は本当に危険な存在なのか?」
(COURRiER Japon 2011.7)
・「“iPhone原子炉”が世界を変える!? 米国で開発が進む「原子力電池」」
タイム(USA)(COURRiER Japon 2011.7)

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