インターネットと体制From中国(中)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 チュニジアやエジプトでの抗議デモが独裁体制を崩壊させるといった出来事が北アフリカ・中東で起き、全世界に大きな影響を与えた。その波は、リビアやバーレーンにも影響し、イランや中国も警戒を強めている。
 そんな中、その抗議デモの背景に大きな役割を果たしたというのが、フェイスブックやツイッターといったインターネットサービスだ。日本でもソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が大流行しており、特集が組まれるなど注目度が高まっている。

 2009年の春、モルドバ共和国で1万人の市民が共産党政権に対する抗議運動を行った。その抗議運動にはツイッターが使われたことから、「ツイッター革命」と評された。そして、チュニジア、エジプトなどといった抗議デモでも、フェイスブックやツイッターが使われ、大きな話題になった。
 しかし、ここにきてこうしたSNSの役割に一つの疑問が。確かに、SNSの存在は大きいかもしれないが、どこまで重要なものになるのだろうか、ということだ。
 実際、モルドバの革命では、国内におけるツイッターの影響力は微々たるものだったという。モルドバでツイッターのアカウントを持っている人は少数だったというのだ。
 モルドバの数カ月後には、イランの首都テヘランで学生による抗議運動が起こった。この運動でもツイッターの活躍があったというが、ツイートしていた人も、そのほとんどが西側諸国の住人だったという。イランの現場にいる人と接触できなかった西側諸国のジャーナリストが「#iranelection」のハッシュタグがついた英語のツイートに目を通していただけという話もある。つまり、イランで抗議活動を組織する人がツイッターを使う場合、ペルシャ語でツイートするのではと、疑問が出ている。

デモ成功のカギは「その問題から近いかどうか」

 果たして、SNSといったネットが革命を起こすことができるのだろうか。答えはまだまだ不明確だが、SNSだけでは革命が難しそうだ。
 フェイスブックは、疎遠になりがちな人とも近況を伝え合うことができ、知り合いを効率的に管理でき、新たな出会いにもつなげることができるツールだ。知り合い(友人ではなく)は、私たちにとって新しいアイディアや情報を得られる貴重な存在で、ネットはそんな弱いつながりの力を引き出すことに脅威的な威力を持つ。つまり、ソーシャル・メディアのプラット・フォームは「弱い絆」を土台にして築かれている。もちろん、身近な強い絆の人もいるが、弱い絆を簡単に築きやすいことが大きな要素になっている。

 しかし、ハイリスクの社会運動は「強い絆」が重要になってくる。抗議デモといったものは危険がつきまとい、弱い絆では対応できなくなってくる。
 フェイスブックなどはネットワークを構築するためのツールであり、それは構造の面でも、性質の面でも、ヒエラルキー(階層性や階級性)の対極にある。ルールや手続きを重視するヒエラルキーとは対照的に、ネットワークは中央に位置する単一の指導部によって統括されない。意思決定は集団全体の合意によってなされ、人々を集団に結びつける絆は弱い。
 体制を変えることが組織の目的であり、戦略的に思考しなければならない場合、絆が弱いことは大問題になる。強力な社会的権威に立ち向かうためには、組織の構造はヒエラルキー型が強い力を発揮する。

 こうしたことから、ハイリスクな社会運動が必要な革命は、危険と隣り合わせの社会運動に身を投じることができる人が必要になってくる。それでは、そうした人がいるのはなぜなのだろうか。
 スタンフォード大学の社会学者、ダグ・マクアダムは、ボランティアの脱落組と残留組を比較調査した。その結果、両者の大きな違いは、意外にも運動への熱心さではないことが分かった。重要なことは、公民権運動の関係者とのつながりの強さだったという。つまり、社会運動に関わっている人が身近にいること、対象者であるということだ。
 1970年代のイタリアのテロ組織「赤い旅団」では、加入する新メンバーの70%が、組織内に親しい友人を一人以上持っていたという研究結果がある。アフガニスタン紛争時、ムジャヒディンに加わった男性たちにも同じことがいえるという。

 このようなことから、SNSで革命を起こることは難しいのではないだろうか。
 SNSはあくまでも手段であり、目的ではない。しかし、その手段を有効に使うことは可能だといえる。そうした事例が、チュニジアやエジプトでの抗議デモがあげられる。ただし、SNSがあるから成功だとは簡単にはいえないということだ。

民主主義を啓発する活動が静かに

 SNSがきっかけで起こった抗議デモに注目が向けられる中で、北京や上海など沿海部を中心に大学生やインテリ中間層による対話を通じて民主主義を啓発する活動が静かに広がっている。この動きは建国60周年を迎え、当局による言論統制や住民監視が強まった2009年頃から広がり始め、10か所を超える省・自治区・直轄市で20団体を超えるという。「経済発展の陰で停滞した民主化運動の再興」を掲げ、20~30歳代の学生や会社員らが集まるようになり、参加者は数十から、北京には1千人超のグループもあるという。
 中国では一定規模の集会への規制が厳しいため、主な活動は「読書会」として開く啓発会議という形をとっている。月に数回、50人ほどが学生や弁護士、民主派知識人とともに現行の政策や社会問題を研究・討論する。イスラム国家の金曜礼拝のように自然と人々が集まる機会がなく、集会を危険視する現状では、啓発会議から始めるという方針を採らざるを得ないことが背景にある。
 こうした活動の多くは穏健な方法による国民の政治参加の実現を目標にしており、内陸部の人々に欧米型民主主義を紹介するためメンバーを派遣し、地元の学生らと討論会も開いている。
 ただ、公安当局は各グループに工作員を潜入させるなど活動を監視。2月18日には遼寧省瀋陽市での会合を阻止するなど、党の指導体制を根本から覆す動きがあれば徹底鎮圧する構えをとっている。

メディア・ネット規制が厳しいものに

 それでも、同時にメディア・ネットへの警戒は依然として高まっている。
 中国のメディアを監督する共産党中央宣伝部(中宣部)は政治・経済・社会問題の報道を厳しく制限する指示を中国にメディアに通知(1月5日、全10条からなる報道規制)して、抗議デモへの警戒を高めた。その報道制限の対象は、暴動発生や政治改革から住宅問題までと幅広いもの。中宣部は日常的に国内報道を管理しているが、複数の報道分野に及ぶ言論統制を同時に実施するのは異例とみられる。

 メディアに加え、インターネットの規制も強める。中国のネットで北京など複数の都市での集会が呼び掛けられたことを受け、中国当局は民主化要求に絡むネット情報の監視を強める構えを見せている。
 ネットでの抗議デモは、2月20日に集会を呼び掛けたが、ネット検閲官による書き込みの削除などで、開催は阻止された。ネット上で「民主化」を掲げた呼びかけが北京など都市部で治安当局の出動を招いたのは異例。
 中東の反政府デモでは、フェイスブックやツイッターなどを通じたネットワークが大きな役割を果たしたが、中国では当局が検閲官数万人を動員した監視システム「金盾工程」を使い、有害と判断したサイトへの接続を遮断しているため、いずれのサービスも中国では利用できない。
 海外サイトとの独自の接続ルートを確保するのは困難なため、大学生やインテリ中間層らが組織する民主派グループは、集会などの呼びかけや民主的な意見表明に中国企業が提示する類似サービスを利用する。しかし、ここにも検閲官の眼は光り、20日午後に13都市での集会の開催を呼び掛けた書き込みは、18日頃から反体制派のニュースサイトに掲載されたが、転載分も含め次々に削除された。
 こうしたことから、北京では多くの人々は集会の計画自体知らず、南部の広州と東北部の瀋陽などでは呼び掛けた時間になっても参加者は集まらず、徹底したネット監視システムが集会を未然に防いだ。
 さらにネット空間だけでなく、現実の場でも監視体制も強化している。20日の抗議デモでは、政変を起こしたチュニジアのジャスミン革命に倣い、共産党一党独裁の廃止などを求めるはずだったが、各地の公安当局が多数の警察官を配置し、集会やデモを未然に防いだ。
 さらに、交流サイトに工作員を登録させ、民主派グループに接近したり、ネット上の「友人」となって活動状況の把握を進めているという。北京の集会場所は指定されていたのは繁華街の王府井通りだったが、21日から「王府井」と入力しての検索だけでなく、王府井の文字を含む書き込みや携帯メールは発信できなくなった。それに加え、寄りかけを掲載した反体制派のニュースサイトは閲覧できない。
 しかし、抗議デモを呼び掛ける側は当局の目をすり抜けるため、エジプトは「ミイラの国」、デモは「散歩」など隠語が活用され、削除された論文も人海戦術で繰り返し転載するといった形で活動している。

 当局は国内メディアの報道体制も強化し、21日付の中国各紙は集会に絡む騒ぎを一切報じず、20日に国営新華社が「北京と上海に集まった群衆を警察が解散させた」と英文で伝えたのみ。共産党に近い中国系香港紙、文匯報は21日、「中東(の政変)と同じ事態が中国に起こることは不可能」とする論評を掲載。
 メディアへの報道規制はさらに加速。中国共産党宣伝部は21日、国内メディアに当局の強制による立ち退き問題など庶民の不安をあおりかねない報道をしないよう新たに通知。さらに、中国当局はネットや携帯電話のショートメールの規制も強化し、ショートメールを同時に複数の宛先に送信できる携帯電話会社のネットサービスも20日から使用が停止されたという。

(つづく)

<参考資料>

・「“つぶやき”では革命は起こせない」
The New Yorker(USA)(COURRiER Japon 2011.3)
・「大学生らが草の根組織 共産党改革派とも連携 民主派、中国で拡大 対話を重視、デモとは一線」
尾崎 実(北京)(日本経済新聞 2011年2月21日(月))
・「抗議デモから住宅問題まで 言論統制を中国が強化 「文革以来の弾圧」の声」
尾崎 実(北京)(日本経済新聞 2011年1月17日(月))
・「中国、ネット監視強める 検閲官数万人 有害情報を遮断 民主派グループ 隠語ですり抜け」
尾崎 実(北京)(日本経済新聞 2011年2月21日(月))
・「中国、一斉集会封じ込め 全人代控え北京緊張 ネット規制や世論誘導 民主化機運を引き締め」
尾崎 実(北京)(日本経済新聞 2011年2月22日(水))
・「中国、報道規制 社会不満あおる内容 民主化集会警戒」
(北京・共同)(毎日新聞 2011年2月23日(水))

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)