インターネットと体制From中国(上)

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 インターネットが腐敗政権を倒す。そんな夢物語がエジプトで起こった。市民の連帯を支えたのは、ツイッターやフェイスブックといったネット空間であった。もちろん、それまでの不満が鬱積していたことは言うまでもない。
 過去にエジプトで発生した抗議デモが成功した背景には、不満も大きいが、ネットといった情報伝達手段が利用された背景もあった。

 インドネシアのスハルト政権では、1997年夏のアジア経済危機で国民生活が悪化し、翌年2月、首都ジャカルタ郊外のインドネシア大学の学生や教員が大統領辞任を求め、デモを開始。当初、500人程度の小規模なものだったが、他大学の学生らも参加して、徐々に拡大し、5月には数万人規模に膨らみ、デモ隊は国会を占拠。そして、デモ開始から3か月で政権崩壊が実現した。その背景には、学生たちが情報伝達にポケットベルのメッセージ機能を使い、デモの時間や場所などを伝えていたことが成功に導いた一つの要因としてあげられる。
 フィリピンでは、83年8月のアキノ元上院議員暗殺事件を機にマルコス政権に対する抗議行動が始まり、86年2月にフィリピン政変がおこった。政権を追い込む流れをつくったのは、大統領に反旗を翻した国軍改革派将校を支援するよう、国民に呼び掛けたカトリック教会のラジオ放送だった。
 それぞれの政変の過程で、情報伝達手段が重要な役回りを演じており、今回のエジプトでも同様のことが伺える。

中国のネット規制が激しい

 今回はネットという情報伝達手段が大きな威力を発揮した。そのネットを警戒する動きも当然強くなる。
 米欧のジャーナリストが中心になって設立した非政府組織「国境なき記者団」(本部パリ)は、ネット規制が特に厳しい国々を「インターネットの敵」と名付け、そのリストを毎年、発表している。
 最新のリストは、
<中東>チュニジア、エジプト、サウジアラビア、イラン、シリア
<アジア>中国、北朝鮮、ミャンマー、ベトナム、ウズベキスタン、トルクメニスタン
<中米>キューバ
の12か国。
 リストの中でも、中国のネット規制の厳しさは中東諸国の比ではない。3万とも10万人以上ともいわれるサイバー警官をはじめ、大規模な人海戦術でネット空間を監視・規制する一方、90年代後半から国家事業としてネット検閲システム作りを進めてきた。その結果、ネット企業の大半は共産党政権の情報統制に協力しており、フェイスブックやツイッターは、特殊な仕組みで当局の妨害を迂回しなければ利用できない。
 さらに、このシステムを参考にしようとする動きがアジアで広がっており、アジアでは「民主ドミノ」どころか、「中国式ネット規制のドミノ」を警戒する声が強くなっている。
 ネット規制は、長期的には国の成長を締め付ける可能性がある。サービス業などにとって自由なネット利用は、グローバル展開に不可欠なツールだ。さらに、ネット上でビジネスと政治を分けて制限することは事実上できない。

 このように、ネットは大きな影響を与える存在になっている。そして、ネットを制限すればそれだけデメリットも大きくなっている。
 経済協力開発機構(OECD、本部パリ)によると、反政府デモの拡大を阻止するため、エジプト政府がネットを遮断したことによる経済的損失は9,000万ドル(約73億円)にのぼるという。ハイテク企業などへの影響が大きく、1日当たり1,800万ドルの損失と試算。
 それだけ、ネットの活用が普通になり、存在感も大きいことがわかる。ネットが利用できないということは、様々な面で被害を被ることになるわけだ。

メッシュネットワーク

 さらに、大きな存在になるかもしれない。
 人々の情報伝達をさらに便利に、身近にするために、普通のノートパソコンをインターネットルーター化するソフトがある。このソフトを使って、パソコンからパソコンへメッセージを順次送っていく形の通信網「メッシュネットワーク」をつくろうというのだ。これはルーター機能を使えば近くに人との通信が可能になり、ネットワーク内の1台がダウンしても、別のパソコンを通じたルーターを探してメッセージを伝達できる。つまり、ネットワーク内の誰かが外部との通信手段を得られれば、それをネットワーク内の人たちと共有することもできる。

 こうした動きがこれから多くなり、インターネットによる活動が活発になっていく。同時に、ネットを制限・規制する動きも強くなる。制限すれば制限するほど、新たな方法が出てくるものだ。

(つづく)

<参考資料>

・「発信箱 崩壊の速度」
藤田 悟(大阪社会部)(毎日新聞 2011年2月22日(火))
・「激震エジプト 4 ネット規制 連鎖の兆し アジア、安定・発展両立探る」
飯野 克彦(編集委員)(日本経済新聞 2011年2月17日(木))
・「ネット遮断 損害73億円 OECD試算」
会川 晴之(ロンドン)(毎日新聞 2011年2月4日(金))
・「独裁者に挑むハッカーの「人海戦術」」
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)(Newsweek 2011.2.16)

<ピックアップ記事>

・「2010年中国 インターネットユーザー数が2億に」/中国インターネット&モバイルニュース

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