エネルギーと原子力発電所と安全(4)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 自然災害による原子力発電への影響は大きな懸念の一つになっており、東海大地震が起こる確率も日々、高くなっている。そして、3月11日、東日本大震災が発生し、福島第一原発も大きな被害を受けた。そんな中、原発の安全性、地震への対策はいったいどうなっているのだろうか。
 原子炉が大事故を起こさないためには、いかなる大地震の揺れが襲っても、いかなる地盤の傾きがあっても、ウランの核分裂が行われている原子炉の冷却機能が損なわれていない、ということを実証しなければならない。

 東海大地震が発生するとどうなるのか。
 御前崎にある浜岡原発の敷地が1~2mというとてつもない隆起を起こし、1~2分という長時間に及ぶ地震動の揺れが襲いかかる。これにより、最もこわいのは、原子炉から出る熱を奪うはずの水蒸気と水の流れが、断ち切られることだ。
 ウランが核分裂して原子炉の熱は、大口径の配管によって、水蒸気としてタービンに送られ、発電機を回転させた後、復水器と呼ばれる熱交換機によって海水で冷やされ、液体の水になり、原子炉の方に戻ってゆく仕組みになっている。
 その途中にあるパイプが、1か所でも地震により、一瞬で折れるようなギロチン破断が起こると、この巨大な熱の流れが断ち切られる。すると原子炉から熱を奪うことができなくなり、炉心融解(メルトダウン)という末期的な事態に突入し、炉心の底が抜ければ地下水にぶつかって大爆発を起こしてしまう。
 そこで、これを食い止めるために、緊急事態ではECCS(緊急炉心冷却装置)という予備装置が作動して、原子炉に冷水を投入することになっているが、大地震ではECCSの配管も折れてしまう可能性がある。また、この冷却系配管は、原子炉建屋とタービン建屋という別々の建物の中に、巨大な蛇のように通り抜けている。
 これが何を意味するのか。原子炉建屋とタービン建屋は、基礎工事から異なる別物で、地震の揺れは両者で互い違いに上下動することが予測される。たとえ原子炉建屋が頑丈でも、耐震性の低いタービン建屋が破壊され、配管系が熱を奪われなくなる可能性は極めて高いと言えるかもしれない。

 原発の大事故は、原子炉の熱の上昇を抑えられなくなることによって起こる。その原子炉の熱の上昇を抑えるのは海水であるが、ここにも不安要素がある。
 地震が発生すると津波の危険性がある。津波は押し寄せた後、とてつもないエネルギーで引き波を起こし、陸上のものをさらってゆく。その時、原子炉の熱を冷やす海水が海岸線からなくなってしまうため、原子炉を冷やせなくなる。その対策として、原子炉の水蒸気を冷やす復水器の前には、取水槽という大きなプールがつくってある。海水は取水トンネルを通じて、この取水槽に引かれているため、地震が起こった時にはこの取水槽に貯めた海水を使って冷却する。しかし、問題はその時間は、わずか20分間であるということだ。東海大地震では、1時間も続く恐れがあるからだ。

ステーション・ブラックアウト

 新潟県中越沖地震では、柏崎刈羽原発の運転人たちは、揺れがおさまってから初めて原子炉の状態を確認する作業に入ることができたという。
 原子炉は、たとえ万一運転を自動的に停止できたとしても、その後ウランの燃料棒が永遠に崩壊熱を出し続けるので、それを除去し続けなければ、水の沸騰とメルトダウンを食い止めることができない。
 さらに、地震による影響は電源系統の破断が考えられる。原発の大事故を防ぐ全ての鍵を握っているのは、コントロールルーム(中央制振室)にいる発電所の職員だ。この人たちが地震に気づいた時、ただちに非常用のボタンを次々に押し、原子炉を無事故に導く操作に全てがかかっている。しかし、電気系統が切れていれば何もできない。このように配線が寸断され、発電所内が完全停電となる恐怖を、ステーション・ブラックアウトという。
 地震があれば原子炉は全てストップし、一切の発電をしなくなるため、非常時の操作は全て、外部電源に頼ることになる。事故を食い止めるためのコンピューター回路は、電気によって動く装置である。大地震ともなれば、送電線の鉄塔の倒壊や送電線の破断、あるいは発電所内部の電源回路の破断は起こる可能性は大きい。
 2009年6月17日、東京電力の福島第1原発2号機で、地震もないのに電源喪失事故が起こった。あわやメルトダウンに突入かという重大事故が発生した。原因は外部から発電所に送る電気系統が4つとも切れてしまったことだった。
 東海大地震で浜岡原発の発電所内の電気の配線が切れてしまわないか、という不安は新潟中越沖地震の際、柏崎刈羽原発で現実となった。この地震では、一帯の送電線が既に地震で遮断され、停電になってしまった。そのうち、原発への送電がかろうじて生きていたため、幸運にも送電することができた。所内では、3号機の変圧器の地盤が大沈下して、変圧器が火災を起こしてしまったため、これも外部からの送電不能の状態だった。緊急時に最後の頼みの綱となるのは、非常用ディーゼル発電機だが、この地震では非常用発電機用の燃料タンク周辺の土地が陥落していた。

制御棒落下事故による不安

 大地震が起これば、ウランの核分裂を停止させるために、ただちに制御棒を挿入しなければならない。だが、浜岡原発のような沸騰水型原子炉では、名前の通り原子炉の水が沸騰して水蒸気を上から取り出す構造になっている。そのため、制御棒を上から落下させる構造にできずに、駆動力を使って、下から挿入しなければならない。制御棒が下から挿入するため、大地震の激しい揺れがあった場合、すぐにも落下することが予測される。
 沸騰水型では福島第一原発3号機で、1978年11月2日に5本の制御棒が落下して、7時間半も危険な臨界が続いた。石川県の志賀原発1号機では、99年6月18日に運転停止時に制御棒が3本落下して、やはり臨界事故が発生した。臨界事故とは、86年にソ連のチェルノブイリ原発事故で起こったことと同じように、原子炉が原爆化することだ。現在までに、制御棒落下事故は、これら以外の原発で合計10回も起こっているという。
 しかも、問題の浜岡原発では、91年5月に3号機で、定期検査中に制御棒3本が脱落し、2000年12月に1号機で、これも定期検査中に制御棒が3本脱落する事故を起こしている。09年の駿河湾地震では、運転中だった浜岡原発4、5号機が自動停止したが、5号機ではわずかマグニチュード6.5の地震で制御棒約250本のうち約30本の駆動装置が故障した。
 この沸騰水型原子炉の制御棒は、実際には棒ではない。2枚の板を直交して組み合わせた4つのブレードを持つ十字形である。それを燃料棒と燃料棒のごく狭い隙間に挿入しなければならないのだが、東海大地震では縦揺れと横揺れが同時に襲ってくるわけで、これが正常に挿入されなくなる危険性は、高いのではないだろうか。

 耐震性に求められる強度は、機器の重要性に応じて、どの程度まで耐えられればよいかというランクが定められている。原子炉建屋側にあって、ウラン燃料が核分裂をする圧力容器(原子炉)そのものや、緊急事態に対処するための制御棒システムや、原子炉を包み格納容器など、危険な大事故に直結するものは「最も重要なAsクラス」。次いで、大事故を防ぐために緊急事態で冷却水を送り込むECCSなどは「Aクラスの機器」に分類されてきた。設計用最強地震とは、こうしたAクラス以上の重要危機が受ける可能性のある最大の破壊力のことである。
 原発の敷地において「起こり得ると想定される最強の地震」を設計用最強地震S1、「起こりそうにもないが、万一を考えて想定した地震」を設計用限界地震S2とし、この揺れに対する耐震性の数値を採用してきた。
 機械工学的に言えば、「起こる可能性がある最強の地震」に耐えられる最強地震S1とは、その想定地震が起こっても、原発の構造物が弾性限界(永久歪みを起こさない)範囲内におさまり、完全に元の形に戻らなければならない、という基準である。「起こる可能性はあるが起こりにくい大地震」に耐えられる限界地震S2とは、その地震が発生した時に、原発の構造物がどれほど変形しても破壊されなければよい、という最後の大事故回避のための限界である。
 当然、その破壊力に対して、重要な機器や施設は、大きな力を受けてもパイプなどの金属製構造体の結晶内部に、重大な破壊に至る変形を起こさない範囲にとどまらなければならない。

設計用最強地震S1超えの大きな不安

 浜岡原発で最大の不安は、最新鋭の日本最大出力の5号機が、ごく小さな駿河湾地震で記録した異常に大きな揺れである。浜岡原発5号機は、1~4号機と同じ敷地の地盤にありながら、駿河湾の小地震でこれらより3~4倍も揺れ、しかも1階の東西方向では、絶対に超えてはならない設計用最強地震S1をあっさり超える488ガルを記録してしまった。さらに、原子炉は3階にまで達しているが、ここでは548ガルの揺れを記録した。
 浜岡原発5基のうち1、2号機は、耐震性の大きな不安があることから、運転を停止し、現在は廃炉の準備に入っている。現在は3、4号機が存在するが、5号機は駿河湾地震でとてつもない揺れを記録したことから、停止が続いたが、現在稼働中だ。運転中の状態にあるのは3、4、5号機だけである。
 この3基(3、4、5号機)の合計出力は361.7万キロワットで、うち5号機はその4割近くを占める138万キロワット。加えて、事故とトラブル続きで浜岡原発の稼働率はおそろしく低く、過去8年間を平均すると50%が精一杯だという。

 浜岡原発の敷地内には海岸線に並行して、たくさんの断層がある。東海大地震で動くのはプレートだけではない。多くの地震学者・地質学者によれば、プレートの内部で大破壊が起こるため、海底から数限りない分岐断層が発生して、地上めがけて亀裂を拡大させてゆくと予想されているので、これら敷地内の断層が、一斉に大きく動くことは間違いないという。

(つづく)

<参考資料>

・「特集 浜岡原発 爆発は防げるか」
広瀬 隆(DAYS JAPAN 2011.1)
・「耐震指針のからくり」
(DAYS JAPAN 2011.1)

<ピックアップ記事>

・「新潟県中越沖地震で、柏崎刈羽原子力発電所が被災しましたね」/あやか@iza
・「静岡沖地震、東海地震でないのは小生にも解るが、今回の地震が東海地震に繋がる余震の可能性は否定できない」/チョクのブログ(iza版)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)