エネルギーと原子力発電所と安全(2)

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 アメリカの電力のおよそ半分を供給するのは石炭である。しかし、その石炭を採掘するためのコスト・リスクは決して低くない。昨年4月5日には米ウェストバージニア州の炭鉱で爆発事故が起きた。1907年には同州でアメリカ史上最悪の炭鉱爆発事故が起きている。石炭の採掘は危険と隣り合わせな状況だ。
 アメリカには250年分の石炭の埋蔵量があるという。石炭は、今後も重要な電力供給減であり続けるだろう。しかし、アメリカ国内に今後20年間で原子炉を100基新設すれば、電力より安価になり、外国に対するエネルギー依存度も減り、環境に良いと原子力発電の注目度が高まっている。

 アメリカで電子力発電が始まったのは約55年前。以来、原発の事故で死亡した人の数はゼロだという。米海軍の原子力潜水艦などの乗組員が被曝によって健康被害を受けたケースも皆無だという。
 原発はアメリカの電力の20%、低炭素型エネルギーの発電量の69%を占めている。フランスは電力の8割を原子力で賄い、中国は3カ月ごとに新たな原子炉の建設工事が始まっている。
 アメリカの電力の1.3%を供給する風力発電は300億ドル規模の税制優遇措置の対象で、各種助成金の総額は1メガワット時当たり18.82ドルに上る。これは、他の全ての発電システムに対する助成金の1メガワット時当たり金額の25倍だ。
 他には太陽光発電があるが、アメリカの電力に占める割合は1割未満で、発電用のソーラーパネルや集光ミラーも場所を取るという課題がある。

 こうした中で原発の注目度は高まっているが、同時に危険性も排除できない。79年にはペンシルベニア州で起きたスリーマイル島原子力発電所事故が大きな話題になった。
 42年9月、米政府はテネシー州東部の原野に急ピッチで町を建造し、最先端の科学施設を置いた。アメリカの原子力研究の中心都市オークブリッジの誕生である。そのわずか2年10カ月後、ニューメキシコ州の砂漠で世界初の原爆実験が行われ、原子力時代が幕を開けた。
 現在のアメリカの技術力があれば、使用済み核燃料の質量を97%削減し、放射性物質の残存期間を98%短縮する再処理法も見つかるだろう。

原子力発電の普及にかじを切る世界の国々

 現在、世界には400基を超える原発がある。フランスは、米国に次ぐ最多59基を占め、国内電力の約80%が原子力で賄われている。70年代から始まった石油ショックを発端に、資源不足に悩まされてきたこの国は、石炭・ガス・石油といったコスト高燃料の打開策を求めてきた。反原発の風潮が世に蔓延した80年代後半からも、フランスは長期保守政権のもとで、曲りなりにも原子力エネルギーを堅持していく方向性を貫いた。
 ドイツが、11年ぶりとなる中道右派政権誕生によって、これまで掲げていた「脱原発」の旗を降ろした。2021年までに原発を全面停止する脱原発法の制定などEU(欧州連合)の中で最も「反原発」色が強かったこの国が、運転延長の法改正で一致したのだ。他にも、スウェーデンが30年ぶりに脱原発の方針を撤廃。イギリス、イタリア、スイスも新規建設に動く。
 特にEUでは08年夏から、原子力推進の動きが加速し、新規発電所が次々と計画・建設され始めた。09年7月、イタリアが保有ゼロから4基建設にかじを切り、英国は大規模増設を計画。スイス、スロバキア、ブルガリアも停止していた建設を再開している。
 さらに、フランスはそのドイツを始め、イタリア、スイス、ベルギー、イギリスなど周辺国に余剰電力を輸出(輸出額年間約4,050億円)。周辺国がフランスの原子力エネルギーに頼っているという現状だ。
 石炭・ガス・石油といった従来の化石燃料は、40年から50年の間になくなるという。現在、世界では500万tのウラニウムが発見されていて、専門家の間では1,500万tが存在するという。

 CO2(二酸化炭素)の排出量は、世界中で年間約290億t。その中でフランスは年間3億7,000万tを排出している。EU域内における国内1人当たりの年間平均排出量を見ると8.2tだが、主に原子力から電力供給しているフランスは、6.2tと平均を大きく下回る。脱原発路線を敷いてきた隣国ドイツは9.7tだ。
 代替電源として、風力や太陽光などの再生可能エネルギーに注目度が高まってくるが、供給安定性を欠くばかりか、発電コストがかかり過ぎてしまう。このまま反原子力政策を貫いていれば、30年の予測では石炭22%(現在40%)、原子力0%、天然ガス22%(同15%)、再生可能エネルギー15%(同10%)という依存度が予測される。
 フランスのCO2排出量は、1980年から90年までの10年間で24%と激減しているが、それは同期間に原子力発電量が5倍に増えている事実が挙げられる。70年代には6基、80年代には43基が建設されていた。国民1人当たりのCO2排出量も、前述した通り、欧州先進国の中でも6.2トンと低い。
 欧州の国々は、ロシアのガスエネルギーに依存している状況だ。現在、フランスの電気代はEUで最も安い方だという。

 2006年からEUの委員会、議会、評議会は、原子力の有用性、設備と廃棄物管理の安全性における共通の法的措置の必要性に迫られた。EU首脳会議や閣僚会議においては、加盟国の原子力政策の足並みがなかなか揃わないことから、EU共通の原子力推進策はうちだせないのではないかという悲観論もあった。
 それが09年6月25日、原子力安全に関する基本的な義務事項や一般的な原則を規定するEU委員会の「原子力安全指令案」を環境閣僚理事会がついに合意。長年、議題となってきた問題に一応の解決が見られ、一歩前進したといえる。

原発が与える環境へのメリット

 原発を推進するメリットとして、稼働率が4%上がると、CO2排出量は1%減少する効果を得られる。
 稼働率は08年度の60%から10年度には69%に上昇。もし、地震で停止中の柏崎刈羽原発や浜岡原発が本格的に稼働すれば、さらに77%に上がる見込みだ。CO2排出量が約2%、約2,000万t抑えられることになる。
 しかし、CO2排出量の抑制が進まないのは、家庭や運輸部門などの取り組みが遅れているという構造的な問題があり、09年度は産業部門からの排出量が90年度比19.9%減だったにもかかわらず、家庭部門は26.9%の大幅に増加し、運輸部門も5.4%増となった。
 このようなことから、環境対策としての原発への注目度は高まっていたが、3月11日の東日本大震災により福島第一の事故で、大きな衝撃を与え、世界の原発の見方が変わることになる。

(つづく)

<参考資料>

・「原子力こそ究極の電力だ」
ジョージ・ウィル(本誌コラムニスト)(Newsweek 2010.6.2)
・「エネルギー先進国フランスが切り開く「原発“エコ”ルネサンス」」
宮下 洋一(SAPIO 2009.12.16)
・「原発稼働率がカギ 4%上昇で排出1%減」
(日本経済新聞 2010年12月24日(金))

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