電子書籍の行方 製作側編~5~

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 日本は電子書籍分野では、世界を大きくリードしている。いわば、電子書籍大国ともいえる。ただし、日本の電子書籍市場は携帯電話向けが中心である。
 「電子書籍ビジネス調査報告書2009」によると、08年度の日本の電子書籍市場は約464億円と推定されているが、そのうちパソコン向けが62億円、携帯電話向けが402億円。特に圧倒的なシェアを持っているのがコミックで、402億円のうち、330億円は電子コミックとされている。
 電子コミックは携帯電話の小さな画面で、漫画を1コマずつ読んでいくスタイルなので、携帯電話に向いている。それに、電子書籍は書店に行かなくても、どこででも簡単に手に入るという利便性がある。さらに、電子データなので「売り切れ」の心配もない。電子コミックは1話当たり50円程度で提供しており、まとめて購入することで割安に読めるパック商品なども揃っている。

 これまで電子コミック市場は、携帯電話ユーザーの増加やパケット通信料金の定額化によって、順調に成長を遂げてきた。しかし、過去に紙の本として販売してきた人気作品を相次いで電子化してきたため、既に著名な作品はほとんど電子化済みとなり、新たな作品がなかなか市場に入ってこないという悩みを抱えるようになった。
 利用者が著名な作家の作品ばかりを集中して購入するようになり、若手や新人の作品は売れない傾向が強くなってきた。漫画の世界は、週刊や月刊のコミック誌を安価に売り、人気作品を単行本化することで儲けるビジネスモデルになっている。コミック誌は1冊の中に様々な作品が載っており、人気作家の作品で客を呼び込み、若手や新人の作品も併せて読んでもらうことで、次世代を担う作家を育ててきたわけだ。
 そこで新たな試みとして、マンガ雑誌出版のコアミックス(東京都武蔵野市)が手がける「週刊モバイルパンチ」が注目される。毎週金曜日に発売している週刊コミック誌を携帯電話向けにまるごと配信し、月額525円で1か月分の全作品が読める。これは、週刊で販売されている雑誌は定価280円ということから、仮に1か月4週だとして4冊1,120円分を525円で楽しめる計算だ。
 しかし、この問題はまだまだ深刻なようで、著名作家の作品ばかりが指名買いのように売れて、若手や新人作家が不人気になると、漫画業界の将来が危うくなってしまう。週刊コミック誌を毎週欠かさずに購入する読者も年々減っているという。

多言語対応でグローバルビジネスに

 こうした電子書籍の登場で、混乱を招きつつも試行錯誤している中、奮闘している会社も目立ってきている。
 アップルの端末の特徴をうまく生かしてユニークな展開をしているのが、小学館「月刊IKKI」の江上英樹編集長。10年5月28日に国内のiPadが発売されると同時に、編集プロダクション「ウィブックス」を経営する倉持太一社長と共同作業で、松本大洋原作「ナンバーファイブ(吾)」のアプリをアップストア上で販売し始めた。
 このアプリの斬新な点は、多言語に対応している点である。iPadの言語設定を「英語」にすれば吹き出しの中には英語のせりふが表示され、「日本語」にすれば日本語のセリフが表示される。現在は日本語と英語のみの対応だが、将来的にはさらに多くの言語に対応していく予定だという。ちなみに多言語対応に向いているのは、言葉が少ないマンガと写真集といえる。
 多言語に対応する効果は実に大きい。海外で出版する場合、現地出版社と契約し、ライセンスして翻訳され、場合によっては10年近くかかる場合もあったという。日本の漫画雑誌は、かつて海外へのライセンスで潤っていた時期がある。しかし、この内外時間差を許容できないマニアがボランティアで日本語の原作を翻訳し、セリフ部分だけを書き換えた上で配布するようになってしまった。つまり海賊版が広がるようになり、版権ビジネスの規模は急速に小さくなった経緯がある。
 こうしたことから、一つのコンテンツが最初から多言語に対応し、ネットを通じて世界に同時発売できれば、最初からグローバルビジネスになるわけだ。

どうやって才能を育成していくか

 そうやって様々な試みをしているわけだが、まだまだ未開拓な状況だ。
 電子上で新しい才能を育成するエコシステムを生み出していくことが、これから重要になってくる。かつてその役割を担ってきた漫画雑誌は90年代をピーク時に部数の減少が続く。90年代半ばには100万部超の漫画雑誌は9~10誌あったが、今では100万部超を続けているのは集英社の「少年ジャンプ」と講談社の「少年マガジン」のみ。広告収入も減少して採算は厳しくなり、新人を育成する機能は急速に低下しているという。そこで、漫画の世界を再び活性化する必要があり、主に旧作を電子化していく手法から脱却し、新人を発掘して育成する機能も、電子市場の上に築いていく必要があるだろう。
 パソコン向け電子書店・イーブックジャパン。同社が扱うコンテンツは約3万5,000点で、このうち漫画が8割を占めている。新人発掘の場としてウェブマガジン「KATANA」を発行し、ここに新人作家の作品を連載している。電子出版の場合には印刷代、紙代などのコストがないためデビューさせるのが容易というメリットがある。実際に「KATANA」の連載からは既に単行本が複数生まれているという。

 電子化するメリットは他にもある。紙の本は大量に在庫すれば保管費用がかかる上、紙質も劣化していく。そのため短期勝負になる。それに対し、電子版は10年前にスキャンした作品も全く色あせることがない。つまりロングテールで長期間販売できる。データ管理の方法を注意すればいい。

積極的にビジネス参入して活性化していく

 次々に登場する新しいデバイスやメディアを使ったビジネスに積極的に参入しているのが、広告代理店国内最大手の電通だ。iPhoneアプリの提供をはじめ、任天堂との提携によるゲーム機「Wii」への映像配信事業、日本テレビ放送網、セブン&アイグループと共同展開する小売り事業など、その領域は幅広い。プラットフォーム戦略の代表格が、「MAGASTORE」(マガストア)だ。iPhoneやiPadなどの携帯電話で電子雑誌を購入・閲覧できる有料配信サービスを、デジタルコンテンツ配信技術を持つヤッパと共同で運営している。同サービスへ参加している出版社の数は31社、閲覧できる雑誌は60誌に上る。
 紙媒体ではトーハンなどが行っている出版取次の仕事を、ネットでは電通が担うのがマガストアの仕組み。
 ソフトバンクも10年6月に開始した携帯端末向けコンテンツ配信サービス「ビューン」を開始した。マガストアは書店と同じ1冊ごとの値段であるのに対し、ビューンは30日で定額450円(iPadの場合)払えば、新聞、雑誌など13社31コンテンツを自由に閲覧できる。
 インターネット検索最大手の米グーグルの日本法人は、有料の電子書籍サービス「グーグル・エディション」を日本で始める。パソコンや高機能携帯電話(スマートフォン)など様々な機器から利用できるようにし、「特定企業に依存しないサービスの展開を目指す」としている。
グーグルは現在、世界3万人以上の出版社が登録した書籍の内容を一部のネット利用者が検索して閲覧できる「グーグル・ブックス」を展開中で、これまで書籍の内容の2割を無償公開してきた。新サービスでは出版社の同意を受けた書籍を1冊丸ごと有料配信し、読めるようになる。インターネットに接続できる全ての端末で利用可能だという。

 日本の電子書籍への取り組みは活発になり、日々、電子書籍の魅力が高まっている。

(つづく)

<参考資料>

・「電子コミックで日本は世界をリードしている」
石川 温(ジャーナリスト)(エコノミスト 2010.6.1)
・「紙を脱いだマンガは世界市場へ飛び出す」
(東洋経済 2010.7.3)
・「電通が狙う“ネットの伴走者”」
(東洋経済 2010.7.3)
・「電子書籍の配信 年明けに日本で グーグル」
(日本経済新聞 2010年7月9日(金)
・「グーグルも参入」
(毎日新聞 2010年7月9日(金))

<ピックアップ記事>

・「キンドル、iPadの日本上陸と迎え撃つ?国内出版業界」/HAKODADI Vol.2 (IZA!版)

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