電子書籍の行方 製作側編~3~

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 インターネットが活発になるにつれ、紙媒体のメディアの土台を揺るがし始め、紙媒体のメディアもインターネットを活用しようと試行錯誤してきた。新聞はこれまで、ウェブで紙面と同じコンテンツを無料で公開してきた。そこに広告収入を得ることも計算に入れていたが、紙の新聞と比べて広告料の水準は低く、満足のゆく収益にはつながっていないのが現状だ。

 電子書籍専用端末のキンドルは、万人向けではないが、現在のところ世界中から130紙(そのうち米国からは75紙)の購読ができ、課金が基本だ。紙の配達が月10~15ドル(約4,600円)に対し、半分以下の場合が多い。日本からは「朝日新聞」と「毎日新聞」の英語版(ともに月額5.99ドル)が読める。
 キンドルのメリットは大きく、新聞社からすればキンドル配信はノーリスクな上に初期費用もゼロ。コンテンツさえ提供すれば、アマゾンが全て面倒をみてくれるという。キンドルで購読者が多い「ウォールストリート・ジャーナル」(WSJ)は09年末で3万人だったので、単純計算(月刊購読料が14.99ドル)すれば月間45万ドルの売り上げになる。
 ただし、いいことだけではない。アマゾンの配分率が6~7割と高い。それでも配信コストゼロで収入が入るため、新聞社としてはキンドル配信を簡単にやめることができない。

 キンドルは配信ファイルの上限を2メガバイトにしているため、写真などを多用した記事はご法度である。それに比べ、iPadはファイルサイズの制限がないため、ヘビーなコンテンツでも自由に配信できる利点がある。キンドルでは通信費をアマゾンが負担するが、iPadでは利用者が払うため、無制限になっている。このように各端末でそれぞれ特徴があり、メーカー側もそれぞれのビジネス形態をとっている。
 ハードウエアとしての満足度が高いiPadだが、新聞社側からはアップル商法への不安が出ている。アップルは購読料の30%、そして広告収入の40%を自身の取り分にするという。実際、iPad向けアプリを提供している米紙は「USAトゥデー」(無料)、ニューヨーク・タイムズ(NYT)(無料)、WSJ(週3.99ドル)の3紙だけである。iPadでは記事や写真に加え、音楽や映像を組み合わせることができるため、雑誌により向いているといえるが、出版社側は紙の誌面以上のものを提供することに慎重になっているともいう。

大きな懸念材料

 驚異的な勢いを見せる電子書籍。その代表的な存在の一つ、iPadに対する懸念が大きいのも事実だ。
 アップルのiPadのプロセッサ、OS(基本ソフト)や本体だけでは飽き足らず、iTunes経由でコンテンツを販売して売り上げの30%を手するビジネスモデルをとっている。iPad専用アプリを販売するアップストアの売り上げの30%も、アプリ内広告の売り上げの40%も手にするという。
 さらに、iPadではフラッシュが使えないことから、顧客は無料ウェブサイトを利用せず、iTunesストアで映画やテレビ番組を購入するようになり、アプリ開発業者もアップストアで製品を流通させるようになるわけだ。
 さらに、アプリ内広告iAdシステムでも、アプリ開発業者と交わす合意書のただし書きには、iAd以外の広告システムは広告効果を測るために必要な個人データを集積できないと示唆する文言もある。アプリ開発業者がiAd以外を使うと、かなり不利な状況に置かれることになるという。
 現在のアップルは80年代より、さらに力強い企業に成長している。全てを支配することによって、ユーザーに快適さも提供しており、業績も文句のつけどころがない。

 そのアップルの土台は、iPhoneで成功したビジネスモデルだ。言い方が悪いが、大いに儲かっている、同社のアプリケーション販売サイト「アップストア」に消費者を縛り付ける方式である。
 同社がアップストアを通じてオンライン・コンテンツに通じやすくすることで、新聞や雑誌などのメディアが救われることになる。アップストアという市場への新しい参加手段を提供し、クリエイターのコミュニティを育て、消費者はよりシンプルで、より自然なユーザー体験を楽しめる、といった見方もできる。
 10年1月5日、アップルはアップストアからのアプリケーションのダウンロード件数が、開設からわずか18ヵ月で30億本を超えたと発表した。同年7月で、2万8,000以上の開発者が作成した14万本以上のアプリがダウンロードできる状態になっている。米国の市場調査会社ガートナーは、09年におけるモバイルアプリの収益は、世界全体で42億ドル(3,780億円)に達したと算出している。そのうち99%以上がアップルの懐に入るという。ガートナーの予測では、モバイルアプリの総収益が総額300億ドル以上に達し、アップルがそのシェアの半分でも確保できるようならば、アップストアの収益は150億ドルにも上る。その内訳は、35億ドルがアップル、115億ドルがアプリの開発者という配分になるという。
 この数字には、iPadやアップルTV、MacBookなど、アップストアにひもを付けられる他のプラットフォームのアプリが生み出す収益は含まれていない。電子書籍やオンライン新聞、映画など、これらの新しい機器で利用するメディアからも分け前が入ってくる。

 こうしたことから、アプリやコンテンツに大金を注ぎ込んだ消費者は当然、アップル以外の製品を買うのを躊躇するようになる。その上、iPhoneのビジネスモデルでは提携先の携帯電話のキャリアからの助成金のおかげで、ハードウエアの価格を高いまま維持できる。
 このビジネスプランは、マイクロソフトがパソコン市場で成功したウィンドウズによる、囲い込み戦略に似ている。
 アプリの開発者は2万8,000人を超え、さらに増えている。iPhone用アプリの開発を始めたい人は、開発したゲームを直接、アップルに申請すればいい。承認されれば、他の会社と同じように、アップストアを通じて売ることができる。そのため、アップルの承認を得てアップストアで販売しようと、毎日約1,000件近くの申請が集まるという。
 アップストアの開発以降、政治性や性的な内容を理由に、あるいはアップルが提供しているものと競合するかもしれない。提携先を怒らせるかもしれないといった理由に、アップルがアプリ申請を拒否したというニュースが次々と飛び込んでくるという。
 それでも、アップルが開発者に対して圧倒的な力を手にしているという事実は変わらない。

成功モデル

 アマゾンとアップルは、それぞれインターネット上の販売サイト「アマゾンストア」と「アイブックストア」から、キンドルとiPadを通じて電子書籍をダウンロード販売している。このビジネスモデルは、もともとアップルがiPodを利用した音楽販売で構築したもの。「ハード(端末)」「OS」「アプリケーション(応用ソフト)」「ストア」を四位一体で運営し、全てを自前で提供する垂直統合型のビジネスモデルである。
 アマゾンは、このアップルの音楽販売戦略を徹底的に研究して電子書籍ビジネスに応用した。自社専用書籍端末のキンドルから、簡単に電子書籍を買えるのは全く同じ。価格設定も1冊9.99ドルからと、iTunesストア1曲0.99ドルに倣っている。
 この9.99ドルという販売価格は、仕入れ価格よりも安く、逆ザヤになっていて、アマゾンは書籍販売自体では赤字になっているという。その代わりにキンドルというハードを売って帳尻を合わせ、市場シェアを握るという戦略を取って成功した。
 アップルは、電子書籍では売り上げから一定の率でマージンをとる方式に変更して、出版社に有利な条件を提示して、先行するアマゾンに揺さぶりをかけている。これを受け、不満を持つ大手出版社がアマゾンに価格設定の変更を迫り、一部で値上げを勝ち取っている。

「オープン」VS「クローズド」という構図

 電子書籍ビジネスの次のラウンドは「クローズド(閉じた)モデル」と「オープン(開かれた)モデル」が激突する構図がうかがえる。
 アップルやアマゾンは、書籍コンテンツを出版社や著者などと契約して独自に揃え、自ら開設したネット上の店で販売する。さらにそれを読む端末は、自社製のiPadやキンドルを原則としている(ただし特別なソフトを利用することで、iPadでもキンドル用の書籍を読むことは可能)。つまり、自社でコンテンツを囲い込み、自社のサービス・端末の中でビジネスを完結させる「クローズド」な戦略を展開している。
 インターネット検索最大手のグーグルは、クロームOSでネットブック市場に乗り込もうとしている。グーグルは、他社が参加できる「オープン」な戦略をとった。電子書籍のコンテンツは自ら揃えるが、誰でもそれを販売できるようにして、読む端末もメーカーも問わない仕組みをつくろうとしている。
 書籍コンテンツの供給・販売から端末の製造・販売まで自社で全てを担えば、それだけ儲けは大きくなるが、1社で全てを行おうとすれば、投資負担も大きく、何より激しい競争の中で、優位を維持し続けるのは極めて難しい。電子書籍市場では今後、かつての携帯音楽プレーヤーのように新しい安価な端末が続々と登場するだろう。多くの企業を巻き込むオープン方式のメリットが生かせる可能性がある。
 しかし、デメリットもある。サービスが統一感を欠いて、端末ごとに使い方がばらばらになるといったことが出る恐れもある。徹底的に自社でコントロールするアップル方式の方が、ユーザーにとって快適で使いやすいサービスになることもありうる。

 グーグルは09年11月、モバイル広告配信大手の米アドモフを7億5,000万ドルで買収すると発表。アップルも、次期モバイルOSに広告機能「iAd」を搭載することを明らかにし、両者とも次世代のモバイル広告への準備を急いでいる。

(つづく)

<参考資料>

・「ペーパーレス時代へ 新聞・雑誌の明日 米国 無料のウェブで苦戦 端末配信での課金に期待をかける」
石川 幸憲(在米ジャーナリスト)(エコノミスト 2010.6.1)
・「「すべてを支配したい病」が命取り」
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)(Newsweek 2010.6.2)
・「自由だったアップルはどこへ…ユーザーを縛る「囲い込み戦略」」
(COURRiER Japon 2010.07)
・「オープン対クローズド ビジネスモデルが激突」
三好 豊(ITジャーナリスト)(エコノミスト 2010.6.1)

<ピックアップ記事>

・「電子読書端末は、電気羊の夢を見る?」/雑多な日々

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