電子書籍の行方 製作側編~1~

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 電子書籍元年と言われた2010年。11年となる今年は電子書籍の勢いはどこまで伸びていくのだろうか。
 これまで電子書籍のブームは何回か到来したが、ブームは長続きはせず、電子書籍という形態が定番化しなかった。しかし、いくつかのブームで、少しずつ電子書籍の土台は作られ、今日に至っている。それに、読者の側の変化や活用方法も増えてきている。

 そのきっかけとなったのが、アップルのiPhone。世界中で大ヒットした携帯電話で、タッチパネルで操作するという新しい概念を確実にしたものだ。その影響は日本にも大きく、携帯電話市場で一大勢力になった。そして、様々な活用方法が可能になり、地図を見たり、メールはもとより、インターネットの世界も満足に楽しめるようになった。そして、そこに読書という機能が身近になった。
 これまでノートパソコンを使っている時は、パッパッとクリックして次から次へと移ることが多く、なかなかゆっくりとコンテンツに目をとめることはなかった。しかし、iPhone購入者はアプリを立ち上げて10分から15分間もじっくりと腰を据えて読む傾向になった。つまり、電子媒体でもゆっくりと読書を楽しめるようになったというわけだ。新聞や雑誌を読む時は、大体30分から40分ほど時間をかけてじっくりと読むもの。iPhoneの登場で、ウェブとは全く違う形で、紙(誌)面を体感しているのだろう。
 これにより、紙の読書のような感覚を楽しめ、さらには広告媒体にもメリット出てきた。「テレビとウェブ、紙の広告をミックスした新しい広告表現」を目指した、ある広告キャンペーンを試験的に実施された。テスト段階では、ユーザーはそれらの広告をはじめは従来型の広告と同じように、サッと読み飛ばしたが、しばらくするとそれを見るために戻ってきたという。読者はコンテンツを読むのと同じくらいの時間をかけて、広告を楽しんだという結果も出ている。

提供するメーカーの判断がキーポイントに

 そんな明るい電子書籍。09年10月に日本で販売を開始したアマゾンのキンドル。画面は白黒であり、雑誌のような複雑なレイアウトに対応していないことなどが弱点であるが、小説といった文字だけの読書には向いている。
 大ヒットを記録したアップルのiPadは簡単にいえば、アップルの多機能携帯電話、iPhoneのサイズを拡大し、汎用性を高めた「新しいコンピュータ」といえる。そして、電子書籍はその1ジャンルに過ぎない。
 代表的な電子書籍を2つあげたが、他にも端末はいくつか登場し、これからも登場していく。
 そこで、端末を買う・利用する側の読者に一つの懸念が浮かび上がってくる。それは規格の違いにより、端末を利用して読書をするソフトの利益がどれだけあるか、ということだ。例えば、ゲームやビデオ、DVDといったことだ。ゲームの場合、ハードウエアであるゲーム機の違いはゲームソフトの違いになる。そのため、ハードメーカー同士の戦いは熾烈で、ユーザーもどのハードが勝つかを気にする。これが電子書籍端末にも出てこないかという懸念だ。
 電子書籍に関しては、その懸念は大きくないかもしれない。その理由は、電子書籍の流通が、ゲームソフトやディスクといった物理的なメディアを経ないからだ。アマゾンはiPad用に「ソフト版キンドル」を無償提供しており、これを使えばiPadでキンドル用書籍が読める。米国の電子書籍市場でアマゾンを追いかけるシェア2位のソニーも、iPhoneやアンドロイド携帯向けの電子書籍ソフトを開発中で、同様の展開を検討しているという。
 電子書籍はネットワークを介して配信される。データを表示する「ソフトウエア」を機器に搭載しさえすれば読めるのだ。それを可能にするか否かは、電子書籍と端末を提供するメーカーの判断次第になるが。

 電子書籍ビジネスを展開する企業にとっては、ハードウエアは1つの「要素」に過ぎない。例えば、アマゾンにとってキンドルというハードウエアを販売することは、もちろん大きな売り上げを伴う。しかし、259ドル(約2万4,000円)で販売されるキンドルの原価は200ドルはするため、利益率はそこそこでしかない。それでも、1台のキンドルで何十冊もの本が読まれることになるため、売り上げと利益は長期的に伸びていくという計算だ。
 アマゾンにとっては、電子書籍が売れるには、「その電子書籍が読める機器」が普及していることが必要になってくる。キンドルにこだわると、キンドルが売れた台数分しか、電子書籍を売るパイがないからだ。
 キンドルの正確な販売台数は不明だが、2009年中で300万台程度だったと言われる。ソフト版キンドルが使われるという前提に立てば、そこにiPadの販売台数が追加される。さらに、ソフト版キンドルはiPad版だけではなく、PC版やiPhone版もあり、それらの機器でも電子書籍が読まれると考えれば、市場はさらに広がるわけだ。

電子書籍への戦略が大きな影響力につながる

 こういった戦略がアマゾンにもあり、iPadにも戦略がある。
 電子書籍のビジネスにとって重要なのは、電子書籍を売るための「プラットフォーム」をいかに運営するか、ということだ。
 アマゾンは「最強の通販会社」としての立場を使い、買いやすさやシェアを背景に勝負を賭けている。アップルはiPadという優れたハードウエアを生かし、単純な電子書籍だけでなく、アニメーションなどの高度な機能や、中のデータを更新する通信機能を持つ「書籍アプリ」を販売することで差別化する。
 ソニーは「フォーマット」(規格)だ。ソニーは電子書籍のフォーマットとしてePUB形式を、著作権保護方式にACS4を使っている。この形式はグーグルや米国の最大書店チェーンであるバーンズ・アンド・ノーブル、サムスン電子なども使っているもので、会社を隔てず利用できる。この規格は、もともと業界団体IDPF(国際電子出版フォーラム)が定めた規格だったが、ソニーがグーグルに採用を交渉し、利用が広がった。アマゾン以外は皆、ePUBを採用しているのが現状だ。

 出版社にとってもメリットはある。出版社にとって「どこかの企業だけ電子書籍を提供する」ことはリスクとなり、1社に書籍を提供するより、複数に提供した方が販売機会が高まる。
 しかし、メリットがあるということはデメリットもある。出版社として怖いのは、販売・プロモーションの手法や「どんな電子書籍を販売するのか」といったビジネスモデルの点で、アマゾンなどの電子書籍販売サービス側に主導権を握られる恐れがある。電子書籍は定価販売を維持する再販制度の対象ではないため、出版社が決めた価格で取次会社に卸せば、取次チャネルや価格戦争はじめビジネスモデルを真剣に構築することが、出版社の浮沈を決める。
 その脅威は、もちろん日本にも影響する。日本国内の電子書籍販売サービスとして、アマゾンやソニー、アップルといった「これまでとは違う勢力」が支配力を発揮することになると、取次や書店は居場所を失うことになる。それに、電子書籍サービスは、設備や機器等の初期投資が少なくて済むだけに、様々なサービス・様々な企業が入り乱れる可能性がある。新たなチャンスであるが、脅威にもなる。

日本の土台

 日本での電子書籍の流通はBitwayなどが行っているが、その市場規模はエロ系だけで550億円にものぼる巨大市場である。漫画も含めると、現在の規模は750億~800億円市場といわれ、つまり、日本では電子書籍が既に売れており、土壌が十分にあるといえる。
 国内での電子書籍の総売り上げは、年々増加の一途を辿っており、その規模は08年に463億円に到達。今後、iPadやキンドルなどの電子書籍リーダーが普及すれば、さらに数字が伸びるだろう。
 電子書籍の存在が大きくなっていく中で、今度は紙の存在に危機感が強くなる。といっても、すぐに紙の本と入れ替わる可能性は低く、完全な世代交代までに15年はかかるという。タレントの芸能活動にマネジャーが必要なように、書き手もマネジャー(編集者)の存在抜きには、作品を流すことはできてもそれを広める(=売れる)ことには繋がらない。訴訟を回避するためにも、エージェント的なパートナーが必要になってくるからだ。
 これまで出版社の書籍のプロモーションは、書店営業、取次との交渉、出版広告、書評を書いてもらう、の4つしかなかった。良い作品が埋もれてしまいがちな電子書籍の時代では、ツイッターやブログなどソーシャルメディアを利用して読者に作品の良さを伝えることが重要になってくる。つまり、情報の流れている場を利用できなくては、どんなに良い本でも埋もれてしまう。
 しかし、電子書籍の存在によって、雑誌のブランド力や作家の著名度にとらわれない、読者、作り手の双方にとっての新しい文化の幕開けになるものかもしれない。

 そうした未開拓で新分野の電子書籍には、これから様々な活用・楽しみ方が出てくるだろう。
 現在、雑誌ビジネスでは、タブレットに対する取り組みが二極化している。その進歩派と保守派を決定的に分けているのが、「ソーシャルネットワーキング」に対する考え方である。タブレットで読む雑誌をソーシャルネットワーキング化する方法を模索中で、例えば、記事の横に読者の感想をリアルタイムに配信するインターフェースなどがある。読者はコンテンツに対して意見や感想を投稿できる他、幅広いコメントに触れることができる。
 しかし、これにもいいことだけではなく、ソーシャルネットワーキングの結果、雑誌と利害関係のある広告クライアントなどとの間に軋轢が生じることを危惧する出版社もあり、タブレット版からウェブリンクを貼ることを躊躇する出版社も現れるかもしれない。

 電子書籍元年と言われた年は何度か訪れ、2010年も電子書籍元年と話題になった。確かにキンドルやiPadの大ヒットで大きな革新を経たと感じるものの、高い壁も存在するのも事実だ。しかし、電子書籍の活用方法や楽しみ方はこれから、様々な方法があみだされていくことになるだろう。

(つづく)

<参考資料>

・「新聞や雑誌、広告がどう変わる? アップルが切り開くメディア新時代」
Wired(UK)(COURRiER Japon 2010.7)
・「「最強通販会社」と「端末会社」として共存共栄」
西田 宗千佳(ジャーナリスト)(エコノミスト 2010.6.1)
・「iPad キンドルで 業界の未来はどうなる?」
(SPA! 2010.6.9)

<ピックアップ記事>

・「電子書籍元年ですか」/先っちょマンブログ

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