地球環境をめぐる(7)

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 「環境」はいまや最大の社会的・経済的テーマの一つであり、食やデザインといった我々のライフスタイルの隅々まで深く関わっている。しかし、大量消費社会への扉が開かれた20世紀を通じて、人類は地球に対して多大な負債を負ってしまった。そして、世紀が明けてみれば9・11とその後の悲惨な戦争。21世紀は最悪の状況からスタートしているという認識がある。

 CO2は経済活動と密接な関わりを持っており、物を作っても、運んでも、売っても、買ってもCO2は出る。
 最近ではCO2排出を抑制することを諦めて、火力発電所で出たCO2をそのまま地中に埋めてしまったり、南極の海に鉄を撒いて、特殊なプランクトンを増殖させCO2を吸収させたりする『ジオ・エンジニアリング』なる発想も生まれてきている。
 日本人が一人で車を運転している時に排出しているCO2は、江戸時代の殿様が大名行列をするのに匹敵する排出量だという。たった150年ほどで、国民一人一人が大名並みの消費者になったということだ。

CDM

 そうした中、様々な組織や個人が、国連の枠組みとは別のところで、「自発的に」森林を保護する試みを始めている。コンサルタント会社エコシステム・マーケットプレイスは、この「自発的」市場だけでも、07年には3億3,500万ドル(約300億円)、08年には7億500万ドルの規模に達しているという。
 樹木を守ることに対して現金で報いるという方法が有効であるかは疑わしいところもある。現在、クリーン開発メカニズム(CDM)に寄せられている批判の一つは、森林資源は乱開発している好ましくない途上国に、そんな悪行をためるだけで「炭素排出を食い止めた」として支払いをするのは、逆説的に乱開発に対して報いていることにならないという点だ。
 現在の国連のシステムでは、森林を守ることに対して対価を支払うような仕組みになっていない。確かに、CDMという取り決めのもと、先進国が吐き出した排出ガスは、途上国がCO2排出を抑えることによってオフセットされることになっている。ただし、これには植樹することでのオフセットは含まれているが、既に存在する森林を伐採から救うための動機付けにはなっていない。古い森林の方が新しい植樹林よりも炭素保持効率が高いということを考えれば、ますます馬鹿げている。既存の森林を気候変動対策に導入し、グローバルなカーボントレーディングの対象に含めようというわけだ。

REDD

 REDDという名称は「途上国の森林減少・劣化に由来するCO2排出の削減(Reduced Emissions from Deforestation and Degradation)」の頭文字をとったものである。伝統的に森林資源の開発によって経済活動を進めてきた途上国の森林を保護しながら、いかにして経済開発を促すのか、という発想に基づいている。これは、国連による温暖化防止への取り組みの一環でもある。
 REDDには、何か大きな副作用はないのだろうか。REDDがきちんと効果を上げるためには、熱帯雨林を保有する諸国に有能で責任ある統治能力が必要である。しかし、こうした国々では既に、森林活動が巨大な金脈を生むかもしれないという可能性が大きな波紋をもたらしている。
 REDDの内容が充分に整備されたら、倫理的投資家に生物多様性と共に土着の人々の暮らしも守る機会を与えるという、カーボンオフセット界の「グルメなニッチ」市場が生まれることになるだろう。REDDの設計を誤れば、「リスク面で最悪のジャンクフード」になってしまうかもしれない。
 望ましいREDDの形は、これまでの森林乱開発を改めた国だけではなく、以前から森林保護に熱心だったガイアナのような国にも報いるものでなければならないだろう。また、炭素保全以外の生物多様性や保水などの点に対しても報いる制度作りが求められている。

 REDDとはこれまで減少していた森林を保護することで、放出されるCO2の量を削減し、それをクレジット(排出権)化するスキームである。失われた森林を再生させるための植林も大切だが、現存する貴重な森林を開発や破壊から守ることへの重要性も改めて認識されているからだ。
 しかし、いい点だけではない。問題点として、例えば広範囲な森林がきちんと保護されていることを確認するための人工衛星等によるモニタリング技術の問題や、国全体でのモニタリングを実施する際のコスト・労力の問題などである。他にも「森林が減少していたペースをどう設定するか」「クレジットの収益をどうやって適切に心配するか」などといった課題があり、議論は今も続いている。
 REDDのクレジットは、カーボンオフセットなどへ活用されることに適している。カーボンオフセットとは、自国で排出するCO2のうち、どうしても削減しきれない分を途上国など他の場所での排出削減や森林吸収によって埋め合わせることをいい、日本でも2007年頃から徐々に浸透しつつある概念である。カーボンオフセットは義務ではなく、自発的に取り組む行為であり、この分野は『ボランタリーマーケット』と呼ばれている。
 京都議定書の下、削減が義務付けられている国・企業が取り組む排出権取引は『コンプライアンスマーケット』と呼ばれる。このマーケットにおいてはこれまで、クレジット価格が原油価格やリーマン・ショックなどの情勢に合わせて大きく乱高下してきた。森林保全がマネーゲームにさらされ、「食い物」にされることを回避するためにも、まずはボランタリーマーケットの下で健全な市場や適切な技術を確立することが先決だろう。

 環境対策が進められていく中で、EUも動き出している。
 5月26日、欧州連合(EU)の欧州委員会は、域内の温暖化ガス排出量を2020年までに1990年比で20%削減する費用は年間480億ユーロ(約5兆3,000億円)で、30%削減する場合なら同810億ユーロ(約8兆9000億円)になるとの試算を発表した。
 20%削減の費用は08年時点の試算で同700億ユーロだった。08年に起こった金融危機後の景気後退で産業界の排出量が減少。これまでよりも少ない負担で温暖化ガス削減の目標を達成しやすくなったことを示す。
 EUの温暖化ガス削減目標は少なくとも90年比で20%減で、他の先進国がEUと同等の努力をすることを条件に最大30%減まで引き上げる二段構えである。

<参考資料>
・「そろそろ人類も新しい段階に移行してもいいのでは?」
(COURRiER Japon 2009.11)
・「国連主導の森林保護策“REDD”ってなんだ!?」
エコノミスト(UK/COURRiER Japon 2009.11)
・「REDDの健全かつ効果的な発展を望む」
水谷 伸吉(COURRiER Japon 2009.11)
・「温暖化ガス EU「30%減可能」 欧州委試算 景気低迷で費用低下」
瀬能 繁(ブリュッセル/日本経済新聞 2010年5月27日(木))

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