存在感が強くなる中国(4)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 金融危機による影響もいち早く抜け出した中国。今後も勢いは続き、中国が世界に与える影響は大きくなっていく。というのが、多くの人の中国の見方だろう。
 実際、欧米先進国では経済が急降下し、金融機関が軒並み破綻の危機に瀕している中、中国経済は成長を続けている。国内の金融機関はわずか数年前には破綻状態に近かったが、今では欧米の銀行が羨むほど健全な経営状態と時価総額を誇っている。10年には、中国の経済成長率は9%になると予測され、そうなれば間もなく日本を抜いてドル換算で世界第2の経済大国になる。

 そんな中国であるが、中国自身が世界の舞台での役割をどう担うのだろうか。
 中国政府の高官は重要な国際会議にほぼ必ず参加している。しかし、見解や支持を強く求められても、目立つことは避けている。ひたすら国益の保護に務めるだけだというのだ。09年4月にロンドンで開かれた20ヵ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)でも、中国が興味を示したのは、タックス・ヘイブン(租税回避地)の『ブラックリスト』に香港を入れないようにすることだけだった。ドルに代わる国際的通貨は求めても、世界の金融システムの改革については語らない。09年12月のコペンハーゲンで開かれた国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は、京都議定書以後の地球温暖化対策を話し合う重要な場だったが、ここでも中国がリーダーシップを発揮することはなかった。

ツケが返ってくる可能性も

 09年上半期に中国の銀行は、将来的に不良債権化しかねない約1兆2000億ドルもの融資を行った。国有企業は融資された金の大半を不動産や株式投資に回し、いたずらに事業拡大に走った。北京のコンサルティング会社ドラゴノミクスの予測によれば、08~10年の融資のうち最大で6分の1が不良債権化する恐れがあるという。しかし、中国政府は融資を止めようとしない。この資金がないと成長を維持できないことが露見するのを恐れているためだ。
 中国は回復の過程で将来に大きな傷を残しかねない代償を払っている。さらに、不良債権の種をまいただけではない。投資重視の景気刺激策は、経済の不均衡をさらに増大させた。工場などの生産拠点は新たに生まれたが、消費者の購買力は向上しなかった。テレビや自動車や玩具がさらに量産されても、それを買う消費者がいないのだ。それに、銀行のずさんな融資は、ほとんど国有企業に向けられた。効率の悪い巨大な国有企業はさらに事業を拡大し、大盤振る舞いの恩恵にあずかれなかった民間企業はその陰で犠牲になっている。
 世界経済が好調で、アメリカがこれらの製品を大量に買っていた時代には、中国の輸出部門は2桁成長を続け、経済成長の4分の1近くに貢献していた。しかし、アメリカの消費者は借金まみれで、財布のひもを固く締めてしまった。もう中国製品に飛び付くことなど期待できない。
 この変化に対応するために、中国政府は痛みを伴う改革を行う必要があるだろう。多くの輸出向け工場を閉鎖し、今もGDP(国内総生産)の40%以下に低迷する消費者支出を促進するために社会的なセーフティーネット(安全網)を強化すべきだろう。

 中国指導部は資源確保の目的で、これまで外国の油田や鉱山などの支配権を手に入れようとしてきた。指導部はそれが中国の長期的な『安全保障』にとって重要だと考えている。だが欧米の政治家や即得権益を持つ企業、用心深い途上国の政府の反対によって、この計画はうまく運んでいない。中国政府の方針に基づき、国有企業がカネにあかせて買収などを試みたが、おおむね阻止されているという。
 その例が、国有の中国アルミ業公司(チャイナルコ)は09年2月、英豪系資源大手リオ・ティントに195億ドルの追加融資を行い、持ち株比率を2倍にする暫定的な合意を結んだと発表。しかし、株主の激しい反対とオーストラリア当局の警戒によって成立には至らなかった。

中国国内の深刻な問題

 しかし、国内でも心配の種は増えている。各地で反政府運動や抗議デモが増加している。汚職が蔓延し、09年には公安当局副局長や国有企業トップなど十数人の公人が逮捕された。12年に引退する胡錦濤国家主席の光景をめぐる権力闘争も始まっている。
 最も懸念されるのは、豊かな資源がある内陸部で少数民族の分離独立運動が再燃していることだ。09年7月に新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで起きた暴動では、200人近くが死亡し、1000人以上が負傷した。過去30年で最悪の民族暴動である。
 チベット問題もくすぶり続けており、ウイグル人も依然として中央政府の統治に反旗を翻している。

 中国自身も様々な問題を抱えているわけだが、土台を揺るがす問題もある。
 中国の成人男女の識字率は93%で、世界全体の平均より高いが、都市部で働く季節労働者の子供の教育がおろそかになっていることなどが原因となり、識字率は近年伸び悩んでいるという。
 世界全体の成人男女の識字率の平均値は84%。これは基本的な読み書きができない人口が、7億7400万人もいるという。読み書きができない人口の6割以上が女性である。ユネスコによると、アフリカ諸国の成人男女の平均値は63%。中でも開発が遅れる西アフリカのマリやブルキナファソ、ニジェールなどは識字率が23~30%と極めて低い。途上国全体の成人男女の平均値は79%。途上国では、成人男性の識字率が85%なのに対し、成人女性は73%と、10%以上の開きがある。ちなみに、中国と同じく高い経済成長で注目されているインドの識字率は66%とかなり低い。

『高齢社会』が中国を襲う

 さらに深刻な問題が中国を襲っている。
 中国は65歳以上が全人口に占める割合が2005年の時点で7.6%だったという。65歳以上が全人口に占める割合が7%を超えると『高齢社会』という。中国は01年から既に高齢化社会に移行したというのだ。中国のこの現象の背景には、一人っ子政策のため出生率が低いことがある。
 中国で「一人っ子政策」が始まって30年になる。最近、この「一人っ子政策」を見直すべきではという声が強くなってきた。その背景には、人口の高齢化があげられる。政府の予想では、2030年には中国の60歳以上の人口は3億5500万人に達するという。もし、そうなれば、若い世代で高齢者を支える構造を持つ老齢年金の運営に支障が出る可能性がある他、高齢人口の増加で、国内の消費能力が低下することが懸念される。
 実は85年以降、山西省南部の翼城県ではひそかに「第二子を認める」実験が行われ、二人目の出産を認めても、人口の急増は起こらないことが証明されている。82~00年の国勢調査では、人口増加率の全国平均は25.5%だったが、翼城県ではむしろそれを下回り、20.7%に止まったのだ。同県では、一人っ子政策下で問題になる新生児の男女比の不均衡も見られなかったという。都市部では子供を作りたがらない夫婦が増加しており、出生率が0.7~0.8と低い上海市では急速に高齢化が進んでいる。

 急増する若者を吸収する労働市場が必要なことは不況に苦しんでいる国もそうでない国も大きな課題である。当面は経済に関与できる15~65歳の『生産年齢人口』が増えるといえ、この人口の割合の高い国は、経済成長の潜在力があるといえる。これを『人口ボーナス』という。
 そして、この人口構成の変化にうまく対応できれば先進国をキャッチアップすることができる。そのためには、先ほども述べた若者を労働市場に吸収しなければいけない。
 ちなみに、日本は高度経済成長期にほぼ完全雇用を達成することで人口ボーナスを活かした。

 中国を人口構成からみると、人口ボーナスが始まったのは1965年から70年頃で、当時は社会主義国家建設の真っ只中であり、非効率的な生産体制にあったため、65年から78年の成長率はわずか3.9%だった。改革・開放政策以降、高成長を続けるものの、冴え遺産年齢人口は2015年には早くも減少に転じた。
 人口ボーナスは、日本では90年代に終わったが、中国は韓国や台湾と同様に15年頃に終わる見込みで、韓国や台湾の所得水準は既に先進国レベルにあるが、中国の1人当たりGDPはまだ4000ドルにも満たないという。つまり、中国は開発途上国レベルで人口ボーナスが終了するころになるということだ。
 高齢化社会から高齢社会に移行するまでに要した年数は、フランスが115年、イギリスが47年、ドイツが40年であったのに対し、にほんは24年。これは日本が異常に速いスピードだといえる。国連人口推計では、中国は24~26年に高齢社会へ移行するという。

<参考資料>
・「中国の世紀がまだ来ない理由」
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケナ大学教授、中国専門家/Newsweek 2009.12.30/2010.1.6)
・「News IQ 42 中国の成人男女の「識字率」は何%?」
グローバリスト(USA/COURRiER Japon 2009.8)
・「世界で初めて途上国のまま「高齢社会」に突入する超大国の「末路」」
大泉 啓一郎(日本総合研究所/SAPIO 2009.6.24)
・「少子高齢化する中国で高まる「一人っ子政策」見直しの声」
南方週末(中国/COURRiER Japon 2010.7)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)