存在感が強くなる中国(3)

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 中国の影響力が大きくなっている昨今。その要因の一つに中国のしたたかな戦略がある。米兵が命懸けで戦っている国でも、中国はビジネスにいそしんでいる。つまり、アメリカが軍隊を送り込み、イスラム過激派が実権を握るのを阻止しようとしている地域で、中国はビジネスに励み、貪欲な自国経済に原材料を供給している。

 アフガニスタンで中国が巨費を投じて採掘権を得た首都カブール南のアイナク銅鉱に通じる道路を、駐留米軍が警備している。これはあくまでも反政府勢力タリバンを首都に進入させないためだが、おかげで中国は道路を舗装することができた。中国はこれで今後20年間、急増する銅の国内需要を賄える見込みだという。
 パキスタン南西部バルチスタン州のアラビア海に面した港町グワダルに、中国は石油タンカー用の巨大な港湾設備を建設した。褐色の砂漠の中に褐色の家並みが並ぶ地方都市があり、先端部がハンマーのようにアラビア海に突き出している。近い将来、イランのサウスパーク・ガス田とパイプラインで結ばれ、中国のタンカーがインド洋とマラッカ海峡を通ってガスを中国南部に運ぶことになる。
 皮肉なことにアメリカが度重なる無人機による攻撃のせいで敵視されているのとは対照的に、中国はパキスタンでは良きパートナーと見なされている。とはいえ、アメリカがパキスタンの内部崩壊を防ごうとしていればこそ、中国はビジネスに精を出せるのではないだろうか。
 つまり、力仕事はアメリカ、その成果を手にするのは中国というのが今の現状である。

『水』の問題が昔から中国を悩ませている

 だが一転、中国国内では深刻な問題が昔から存在している。
 中国では『水』は貴重な資源である。水がなくなることは、中国にとって経済発展の失速に繋がるだけではなく、飲み水の確保すら脅かす可能性を示唆する問題であるのだ。
 中国大陸に生きるということは、水の問題と格闘する運命にあるということでもあるからだ。降水量の乏しい乾いた大地が広がる北部では、慢性的な水不足が悩みの種であり、水資源が豊富な南部では、時に文明の母である大河が氾濫して人々を苦しめた。そもそも農業には大量の水が必要だ。だが中国の場合、農地の約4分の3が水不足に悩む北部に偏っており、その同じ土地で全人口の約35%を支えなければならなかった。
 1949年10月、新中国の歴史が幕を開けた時から、中国共産党は一国の首都が水不足に悩まされるという治水の難題を古代から引き継いだ。首都を北京に定めたためだ。
 改革開放政策の下では、首都北京や天津といった都市への人口流入によって歪みが拡大し、続く行動経済成長期には、工業分野での水の需要が急増した。都市部では住民の収入が増加するにつれて生活スタイルも変化し、一人当たりの水の消費量は毎年6~7%という高いスピードで上昇した。さらに、環境破壊が水質汚染を引き起こし、水資源が逼迫する都市が悲鳴を上げた。
 もし、北京の人口が現在のペースで増え続ければ、2010年の北京の人口は従来予測を300万人も上回り、たちまち北京の水の需要は供給量を上回るという。

 そこで、水対策として『南水北調』プロジェクトが立ち上げられた。
 『南水北調』とは、読んで字のごとく南の水を北に調達するというプロジェクトで、長江から東線と西線、中央線の3本の運河で水を運ぶ計画だ。水資源における南北の格差を「運河」によって平準化させようという中国の永年の悲願であると同時に、時の為政者を常に魅了し続けてきた大手術である。計画が具体的に検討されるようになったのは毛沢東時代だったが、実際に基本調査が始まったのは90年代半ばで、着工は02年12月だ。沿海部を通る東線は既に完成しており、その西側を走る中央線は間もなく開通するとされていたが、ここにきて突然、工期が5年間延長されたという。
 北部の水不足を解消するウルトラCとしてスタートした南水北調だが、運河の上流と下流が相思相愛とはいえない状況に陥っている。そもそも北部の農業を救う目的も大きかったプロジェクトだが、事業費だけが当初予算や農業に使用するには高すぎる水準にまで達してしまったといわれている。

 懸念材料になっていることは他にもある。実は、中国の河川は黄河に代表されるような濁流が多く、清流は稀少だ。その中で、青い清流を満々と湛える長江は、中国人にとって水資源の象徴である。それだけに、長江の流れを人工的に変えることによる影響を心配する声は絶えず、プロジェクトへの抵抗も強い。実際、流水量の減少が生態系に影響を及ぼす可能性がある他、洪水や干魃を引き起こすとの予測がある。長江の水量が減少することによる、河口での海水の逆流を懸念する声も上がっている。
 運河によって漢江沿岸の地下水位は下がっており、襄樊市の市街地に住む100万人以上の飲料水に影響が出つつあるという。運河ができて水量が減少すると、流量、水位、流れの速さなど、水環境全体が悪化する恐れがあり、汚染物が増加し、魚類の棲息環境も破壊されることが予想される。南水北調の工事が始まってから、襄樊の魚資源は概算で3分の1以上減少、天然魚の漁獲高は60%減となっており、襄樊の漁業経済に重大な影響を与えているという。
 この他、運河の開通によって川の流量が減れば水位が下がり、場合によっては船舶の航行に影響が出るなど、深刻な事態を引き起こしかねないという。北部の死活問題となっている水不足を考えると、実施は仕方がないことかもしれない。しかし、信用するに足る水質ではなく、水質汚染に対する対策が講じられるか否か、不安が拭えない。せっかく南から運んできた水が汚染されていては使えない。
 天津には、やはり海水の淡水化を本気で検討する必要があるという。つまり、南水北調は、供給側も受ける側にも不満の残る結果となってしまっている。

環境問題・気候変動が与える悪影響

 中国自身も問題を抱えているが、他にも中国に悪影響を与える問題がある。それは気候変動の影響である。
 気候変動の影響は地域によっても異なるものだが、この影響はインドと中国に不利な状況である。07年の国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告によれば、中国とインド(特に北部)などの経済成長地域では21世紀末の気温上昇が実に5度前後と予想されている(西ヨーロッパなどでは2度程度とされる)。
 これがどういうことか。温暖化が進むと集中豪雨が起きやすくなり、降雨パターンが変わる。そのため中国やインドでは、洪水や干ばつの頻度が増えることが予想される。既に中国南部と西部では、1950年代に比べて洪水の件数が7倍に増えている。
 そして、中国でもインドでも新鮮な淡水の入手が困難になる。どちらの国も、農業用水や飲料水の大半をチベット高原やヒマラヤ山脈の氷河に頼っている。氷河から溶け出た水が長江や黄河、ガンジス川やインダス川を潤している。ヒマラヤ山脈の気温は世界平均に比べて3倍の速さで上昇しており、氷河はどこよりも急速に溶け出し、35年後には消滅する可能性がある。季節によってガンジス川やインダス川が干上がるようになるのも時間の問題だ。中国とインドに住む数十億の人が使える水の量は、今世紀中に20~40%ほど減ってしまいかねない。今も中国では過去半世紀で最悪の干ばつが起きていて、3億人が水不足に悩み、2000万ヘクタールの農地に被害が出ているという。稲の生息期の最低気温が2度上がることに、アジアのコメ生産量は10%減るとの予測もある。さらに、農業生産高は30年までに10%ほど減る恐れがあるという。

 米大気研究所の気象学者ジェラルド・ミールによれば、気候変動がモンスーン(季節風)に及ぼす影響はまだ解明されていない。インドのモンスーンは陸地と海面の気温差から生まれる。夏には陸地の気温がインド洋上の気温より高くなり、湿った空気が海から陸へと吹いて地上に大量の雨を降らせ、農作物に恵みをもたらす。
 だが温暖化で陸地と海面の気温差が今以上に大きくなると、モンスーンの威力も一段と増し、悲惨な犠牲が増えるかもしれない。現に04年のインドでは、モンスーン被害で2200万人が死亡している。モンスーンの時期がずれれば、農作物の収穫に好ましくない影響を及ぼす恐れもある。ただし、中国では、モンスーンの規模が弱まるかもしれない。温暖化の影響は地域によって異なるからだ。
 今までに人類が排出し、現在大気中に存在している膨大な量の温室効果ガスのうち、中国とインドが排出した分はそれぞれ10%と3%に過ぎず、先進諸国全体の75%に比べれば微々たるもの(世界資源研究所調べ)だという。しかし、環境を考えれば、そうもいっていられない。

<参考資料>
・「タダ乗り中国の大躍進は続く」
マイケル・ゴールドファーブ(Newsweek 2010.3.31)
・「中国メディアの「裏」を読む! 23 長江にメスを入れた巨大事業は、積年の水不足を解消するか?」
富坂 聴(COURRiER Japon 20101)
・「中国とインドが払うツケ」
シャロン・ベグリー(サイエンス担当/Newsweek 2010.9.9)

参考記事
・「天安門の戦士 ウアルカイシさん逮捕」/なっちょ?

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