イラク、アフガニスタン問題(1)

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 イラク、アフガニスタンの問題が依然として深刻な状況である。
 アフガニスタンに始まった戦争は、イラクへと発展。テロとの戦いとして始まった戦争の出口は依然として暗い。

 アフガニスタンはユーラシア大陸のへそであり、シルクロードの中心地点に位置する。それ故、歴史上、常に多民族から狙われてきた。紀元前6世紀にはこの地をペルシャ帝国が編入し、紀元前4世紀はアレクサンダー大王が征服した。その後もあらゆる帝国が興っては消え、征服しては滅亡させられた。新しい王が登場しても、すぐに暗殺されてきた。アフガンはこれまで、各国の占領と国内の暗殺がつきまとう歴史を歩んできたわけだ。
 そのアフガンは交通の要衝であると同時に、難攻不落の要塞ということで魅力的な地域であった。7000m級の急峻な山岳地帯を攻め落とすのは容易ではなく、あらゆる外敵がてこずったわけだ。1747年には最も多い民族であるパシュトゥン人によるドゥラーニー王朝が成立し、バラクザイ王朝時代の1838年にイギリスとの間で第1次アフガン戦争が始まる。イギリスはカブールまで乗り込んだものの、やはり山岳地帯の戦いに手を焼き、敗走。第2次アフガン戦争(1880年)ではイギリスの保護国となるが、第3次アフガン戦争でアフガンは勝利し、1919年に独立を達成する。結局、イギリスはアフガンを手中に収めることはできなかった。
 78年には軍事クーデターにより共産主義政権が誕生した。政権への抵抗運動がアフガン全土で発生し、政権はソ連に介入を要請した。一方で、抵抗運動の武装兵士はムジャーヒディーンと呼ばれ、アメリカのCIA(中央情報局)は巨額を注ぎ込んで彼らを支援した。その際、CIAはパキスタンの情報機関ISIを通じて援助を行った。
 アフガニスタン紛争は10年にわたって続いたが、89年、遂にソ連が撤退することとなる。ソ連は第2次世界大戦で使用された全ての爆弾よりも多くの爆弾をアフガンに落としたといわれるが、それでも攻略することができなかった。

 その後、ムジャーヒディーンの1人であったオサマ・ビンラディンはイスラム原理主義に傾倒し、アメリカに同時テロをもたらし、ムジャーヒディーンの集団はタリバンの原型となり、96年にタリバン政権が誕生した。
 01年10月7日、当時のブッシュ大統領は米軍をアフガンに侵攻し、アフガンの反政府武装集団、軍閥の集まりである北部同盟と手を組み、特殊部隊を投入してタリバンを首都カブールから一掃した。大量破壊兵器に関するCIAの誤情報に乗せられて(というより、それを信じたくて)、イラク戦争に突入し、バグダッドは崩落。
 しかし、ブッシュはイラク戦争に戦力を取られ、アフガンをおろそかにした。その間にタリバンの息の根を止めるチャンスを失ってしまったのである。山岳地帯に逃げ込んだタリバンは、少数でもヒット&アウェイの戦法で米軍に打撃を与えることができた。
 08年のアフガンでのテロの発生数は04年と比べると7倍以上で、タリバンが勢力を盛り返し、明らかに治安は悪化している。

アフガンからの撤退による影響は

 9・11同時多発テロから8年がたち、バラク・オバマ米大統領は2011年末までにイラクから軍を完全撤退させ、アフガンに2万1000人を増派するという。しかし、米軍の司令官は、各国の治安部隊の規模は12年までに23万人規模まで拡大するが、それでも不十分だと述べている。
 撤退問題が大きな話題となっているわけだが、完全に撤退するということは難しいかもしれない。それでは、残った兵士にはどんな役割が与えられるのだろうか。
 その役割を巡って、様々な案が出ているようだ。地方に散らばり、屋内外でイラク治安部隊の訓練を行うという案や、米軍を都市のすぐ外側に配置し、対ゲリラ戦の訓練や任務を支援するといった案もある。他には、国内の反乱対策を主要任務とするイラク軍を補完するため、米軍を国境方面に移動させ、非友好的な一部の国による侵攻の可能性に備える案もある。

 それでは、撤退をする場合、それに伴いどんな影響が出るのだろうか。
 まず、撤退を開始すると、かつての友軍が現地で力を持ちそうな勢力と手を結び、情報を集め始める。イラクの場合、この勢力はイランになるだろう。
 さらに、撤退する部隊の補給線が長く延びると、最後に残った兵士は大量の物資と共に移動することになり、攻撃や嫌がらせを受けやすくなる(イラク駐留米軍の補給線が長くなるのは確実)。悲惨な事例として、歴史上よく知られているのは、1842年にアフガニスタンのカブールから撤退しようとした英軍である。この時は1万6000人が東ジャララバードへ向かったが、生き延びたのは1人だけだったという。
 1970年代にベトナムから手を引いたアメリカ、80年代末にアフガニスタンから撤退したソ連、82~2000年にレバノンから段階的に兵を引いたイスラエル。過去の歴史を見る限り、厳しい事態が予想されるだろう。

 さらに、アフガニスタン撤退に深刻な問題を投げかけてくることがある。
 アメリカは02年以降、60億ドル以上を投じてアフガニスタンにまともな警察をつくろうとしてきた。警察学校を建て、民間軍事会社を雇って訓練にあたらせてきたまではよかった。しかし、その結果は散々で、米政府の調査によると、これまでに警官の訓練用として民間の請負会社から請求され、承認された経費は総額で3億2200万ドルを超えるという。しかも、その使途は極めて不明瞭きている。
 問題なのは、タリバンが使う弾薬の多くは警官からの横流しという指摘もある。警官が持ってくる銃弾や携行式ロケット弾の方が、地下市場に出回っているものより安くて品質もいいのだという。さらに、タリバンの勢力圏に送り込まれた警官たちが、大量の弾薬を必要とする理由をでっち上げるのは簡単だという。そもそも、彼らを監督する立場の人間はほとんど現場に近づかない。それに時には警官部隊とタリバンが偽の銃撃戦を繰り広げることもあるという。そうすれば、弾薬の大量注文をいぶかる上層部が調べに来ても、住民たちは銃撃戦があったと証言するからだ。

アフガンの警察の深刻な状況

 そんな問題を抱える警察部隊であるが、警察部隊の充実は、米軍のアフガニスタン撤退計画に欠かせない要件である。アメリカの支持するカルザイ政権が真に国民の支持を得るためには、何よりも国民生活の安全確保が必要である。しかし国連が昨秋までの1年間にわたって実施した調査では、国民の半数以上が警官の腐敗を指摘した。警察署長が麻薬取引に関与した例もあるというのだ。
 つい最近までタリバンの拠点だったマルジャでも、警察に対する不信感が渦巻いている。村の長老たちはタリバンを掃討したアメリカの海兵隊員を歓迎する一方、ANPには戻ってきてほしくないと言い切る。

 そうした現実から、就任から1年余り、オバマ米大統領は状況の深刻さを改めて思い知らされている。しかも、8年間、彼らを訓練してこなかったという問題が浮上しているのだ。つまり、訓練せずに制服だけ支給してきたというのだ。
 アフガニスタンにタリバン後の国民警察を創設する取り組みには、当初から非現実的な目標や監督不行き届き、ずさんな採用といった問題が付きまとった。パトロール要因は地元で採用され、ろくに訓練も受けないまま任務に就くというわけだ。必要な技術はほとんど実地で身に付ける(もろもろの悪弊と一緒に)というのだ。
 しかも、ウィリアム・コールドウェル米中将によれば、9万8000人の警官はいまだに正規な訓練を受けていないという。これまでの訓練は、ほとんど民間の請負会社に委ねられてきた。そのスタッフの多くはアメリカの元警官や保安官で、彼ら自身が適切な指示をほとんど与えられておらず、彼らを監督する当局側は3000ドル未満の支出なら不問に付しがちで、不正の余地を残した。驚いたことに、訓練プログラムを長期にわたって管轄する機関も個人も皆無だったため、責任の所在がうやむやになっている。

 アフガニスタンを安定させるのはどうすればいいのだろうか。
 大事なのは、アフガン人によるアフガン人のための警察を育てることである。警察は軍隊以上に地域社会に食い込まねばならない。軍隊は拠点を制圧すればいいが、警察に求められるのは『人心の掌握』だ。つまり、住民に信頼される警察が必要だということだ。
 03年、米国務省は迅速化を図るべく、コソボやハイチでの警察訓練の実績を持つ民間軍事会社ダインコープ(バージニア州)への委託を決定した。同社はアフガニスタン各地に訓練所を開き始め、05年に米国防総省も監督役に加わってからは、警察任務とタリバン対策のどちらに訓練の重点を置くかで両省がもめることもしばしばあったという。

 大半の警察志願者は、学校に通ったことのない農村部の住民だ。しかも、薬物検査でざっと15%が麻薬(主にハッシシ)の陽性反応が出ており、車の運転はおろか、歯磨きの仕方も知らない人たちがほとんどで、9割近くは読み書きができないという。
 このような状況の中、国務省と国防総省が設定した訓練期間は8週間だったが、わずか8週間の訓練で有能な警官を育てられるはずがないだろう。しかし、実際、より多くの人員を訓練するために、訓練期間はその後6週間に短縮。それでも、今の状況では、適切な訓練ができているという。なぜなら、訓練生が持ち場についてからも引き続き、『監視、指導、助言』を行い、期間の短縮については1日の訓練時間の延長で埋め合わせをしているからだという。ダインコープは訓練を請け負っているだけで、訓練方針には口を出せないが、優秀な教官をそろえ、委託された業務は「きちんと果たしている」と言う。
 ただし、訓練期間が終われば、訓練生のほぼ全員卒業できるという。射撃試験に不合格でも銃が渡され、任務に就く。誰かを不採用にできるのはアフガニスタン内務省だけで、そうしたケースは滅多にないそうだ。

 確かに国家建設に役立ちたいと思っている警官志願者も大勢いるが、地元の人々からカネをゆすり取るような警官が多いのも事実だ。そういう連中がいれも、ダインコープにはクビにするよう助言できるだけで、クビにする権限がない。
 さらに、ダインコープの中間管理職だったある人物は、国務省と米軍に毎週提出していた多数の報告書を見せて、訓練プログラムは「機能していない」と言い切ったという。それらの報告書は、ほぼ例外なくアフガニスタン人の警官や警察署長の『腐敗』を問題にしている。

負担した多額の予算は

 国務省と国防総省の関係者によると、訓練プログラムの導入後、17万人が訓練を受けたが、そのうち今も任務に就いているのは約3万人だけ。
 警官の基本給と危険な任務に就く場合の特別手当は最近、政府軍の兵士並みに引き上げられたが、それで問題が解決するかどうかは不明だ。つまり、訓練センターを出てしまえば、本人がどうするかは分からない。

 問題の一つに、米政府が負担した多額の予算がどう使われたかということがある。国務省と国防総省が2月に発表したアフガニスタン警官訓練プログラムの監査報告は、様々な疑問点を挙げている。
 国務省は遅まきながら調査チームを送り込み、ある委託業務の費用を調べた。その結果、必要と思われない物品を法外に高く購入するなど、請求書に記載された金額のうち総額3億2200万ドルの使途に問題があることがわかった。しかも、請求書の件数に誤記や計算ミスがあった。
 国務省は「予算が合計で10億ドルを超える2件の委託業務を十分に監督しなかった」と、監査報告は指摘する。
 現地の監督官は、政府が所有する資産の使用を十分監督せず、委託契約書類をきちんと保管せず、請求書と届いた物品を突き合わせる作業を怠ることもあったというのだ。つまり、税金を使って支払いだけ済ませ、購入した物品が実際に届いたかどうかすら確認しなかったということだ。
 これについて、ダインコープは「わが社は国務省との契約で、請求書のチェックを徹底している」と反論する。
 今回の調査で、国務省が現地に派遣する監督官が慢性的に不足していることも明らかになった。ダインコープに委託した総額17億ドルの訓練業務を監督する人員がたった3人だったこともあるという。
 ジョンソン国務次官補は「訓練プログラムは、専門家が作成した明確なカリキュラムに基づいたものだ」と指摘する。つまり、ワシントンに強力なサポート体制を敷いているのだから、現地にいる監督スタッフの数だけで判断してもらっては困るということだ。

 1月末にはダインコープによる訓練を補うため、カブールの警察訓練センターにイタリアの国家憲兵隊35名が到着した。当時、訓練生の射撃や成績は惨憺たるものだったが、問題はそれだけではなかった。訓練生が使用していたAK47やM16ライフルの照準がひどく狂っていたのである。
 さらに、イタリア人は射撃の教え方も違った。ダインコープの教官は、訓練生に弾を20発与えて50メートルの距離から撃たせていたが、訓練生は最初、標的に当たったかどうかさえ分からない状況だった。だが、イタリア人はまず3発の弾を与えて、7メートル先の標的を撃つことから始めさせた。訓練生は撃った後は自分で標的を確認し、再び弾を3発与えられた。
 訓練生が自身を持ち始めると、標的は15、30、50メートルと徐々に遠ざけ、そうした結果、最近の射撃テストでは、73人の訓練生のうち落第したのはたった1人だけという。

 コールドウェルも、イタリアやフランスの憲兵のような準軍事的な警官隊の方が、民間請負会社より仕事をしやすいと言う。現役の警官隊には首尾一貫した規律に基づく指揮系統があるからだ。
 民間請負会社との業務では、異なるタイプの人々を指揮しなくてはならない。州の警官や地方の保安官、ニューヨーク市の巡査もいる。みんな経歴が異なるし、身に付けた行動規範も異なっているわけだ。
 しかも、何事にも請負会社との交渉が必要になる。それは要するに、何かを変えたいと請負会社の担当者に言うと、「それが本当にベストな方法なんですかね」と反論されかねない。だが憲兵隊なら問答無用で動くし…指示もよく伝わるというわけだ。

 コールドウェルとしては、10月末までに10万9000人の警察部隊を教育したいという。これには現在約4900人いる『精鋭部隊』も含まれる。この精鋭部隊はアフガニスタン国民治安部隊(ANCOP)と呼ばれ、マルジャのような危険地域に配置される。
 ANCOPのメンバーは16週間の訓練を受け、少なくとも小学校3年生並みの読み書き能力を要求される。これまでのところ、マルジャでの評判は様々だ。
 大事なのは警官の質である。そして、警官を増やすに当たっては忘れてはならないことは、最終目標はタリバン掃討戦に動員する準軍事的組織ではなく、良い統治を進めるための国民警察を育てることである。
 そもそも今のアフガニスタンに何人の警官がいるのだろうか。正確な数字は誰も知らないという。現地の米軍も、採用者の履歴と配備先を追跡するデータベースの構築を始めたばかりである。こんな状態では、名簿上に名前だけ存在する『幽霊警官』を割り出すことも難しい。警官隊に紛れ込んだタリバン兵を見分けることなど、とても無理だろう。

 07年1月以降、殉職した警官は2000人以上で、政府軍兵士の犠牲者は2倍以上に上るという。警官の殉職の半数程度は銃の誤射と交通事故の犠牲者だという。
 混迷を深めるアフガニスタン。カルザイ大統領は昨年12月8日、首都のカブールを訪問したゲーツ米国防長官との会談後の共同記者会見で、アフガン政府が国軍・警察の維持費を自力で賄えるようになるのは、15~20年かかるとの見通しを明らかにした。自前の治安体制の確立には、装備費や兵士の給与などで国際社会の継続的な資金協力が必要になるとの認識を示したものだ。

周辺国の問題も

 ただ、アフガニスタン内だけで解決はされない。当然、周辺諸国との関係も治安問題にも大きくかかわってくる。
 カルザイ大統領はイランのアフマディネジャド大統領とも結びつきが強く、両国は良好な外交関係を築いている。アフガンは6カ国(イラン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、中国、パキスタン)と国境を接しており、そのうち、核兵器保有国は、開発中のイランを含めれば、中国、パキスタンの3ヵ国である。これは、将来的にタリバンに核兵器が渡る可能性はゼロではなく、そうなれば、アメリカ対アフガン戦略は大きな転換を余儀なくされる可能性が高くなるだろう。

 大統領になった当時、オバマの勢いは非常に強かったが、今では国内でも窮地に立たされている。昨年8月にワシントン・ポストがABCテレビと共同で行った世論調査では、国民の51%がアフガン戦争について「戦う価値がない」と見ている。ブッシュ政権はイラク戦争で5000人を超える兵士を失い、同時に国民の支持を失った。オバマが同じ轍を踏まないとは言い切れないが。

<参考資料>
・「新世界大戦の時代 「カルザイ再選」で、むしろアメリカの「アフガン危機」は高まった」
落合 信彦(SAPIO 2009.9.30)
・「駐留米軍を待つ悪夢の撤退戦」
クリストファー・ディッキー(中東総局長/Newsweek 2009.8.5)
・「60億ドル掛けて育てた「銃も撃てない」ど素人警察」
T・クリスチャン・ミラー(米調査報道機関プロパブリカ記者)、マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)、ロン・モロー(イスラマバード支局長)/(Newsweek 2010.4.14)
・「軍・警察の維持費 15~20年 支援必要 アフガン大統領が見通し」
長沢 倫一郎(ニューデリー/日本経済新聞 2009年12月9日(水))

参考記事
・「混迷のアフガニスタン」/吉備団子の全球北東西南

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