マスコミの明暗(5)

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 現在、出版業界に大きな影響力を及ぼそうとしているのが、電子書籍端末。その代表的なものが、『キンドル』だ。
 アメリカではヒットを生み、日本でもヒットを生み出しそうだ。

 『キンドル』 により、出版業界の既存のルールが大きく揺れている。これは、マスメディア全体にも大きな影響を与えそうだ。
 インターネットにより大きな影響を受けたわけだが、果たして、電子書籍の発展により、どういった方向に向かうのだろうか。

「キンドルの衝撃」

 マスコミ業界が苦しい状況を迎えており、大手の出版社でも、事業の縮小、人員・コストの削減が行われ、休刊になったり、廃刊に陥ったりする出版社は多い。そんな厳しい中、成果を上げている雑誌も存在するわけだが、新たな波を作り出すようなヒットが生まれている。
 それが「アマゾン・ドット・コムの電子書籍端末『キンドル』」。この『キンドル』が米国で大ヒットしている。「日本でも英語版が2009年12月から発売され」、「キンドルの対抗製品として、ソニーは『ソニー・リーダー』を売り出し、米アップルは『iPAD』を発表」した。「米国の調査会社ガートナーは、2010年は米国を中心に世界中で、電子書籍端末が普及すると予測」している。

 「キンドルのコンテンツは、アマゾンが独占販売」できることから、「様々なビジネスモデルをアマゾンが主体性を持ってコントロールすること」が可能だ。
 さらに、「このような新端末の普及は、既存のビジネスモデルを大幅に変えて」しまうかもしれない。「例えば、『ヤバい経済学』の続編、『Super Freakonomics』が2009年10月に発売」になったが、「ハードカバー版の書籍と同時にキンドル版も発売し、ハードカバー版は13.96ドル(アマゾンで買った場合)、キンドル版は11.99ドルと、キンドルの方が14%安く」なっているのです。
 「加えて、キンドル向けの書籍の開発キットまで公開される予定」だという。つまり、「著者がブログを作るかのように、書籍を自分で編集して出版できる時代になってきた」というわけだ。

 これらのことから、キンドルといった電子書籍は大きな影響力を持つ。つまり、「なぜ各社がこれだけ電子書籍に力を入れるかというと、これまで出版社が抱えていた印刷・流通機能を電子書籍端末が代替することで、出版社や取次会社が得ていた付加価値部分を、端末及びコンテンツの流通プラットフォームを作った会社が獲得できる可能性があるため」だ。
 しかし、「このような流れの中で、日本の出版各社の動きは正直、やや鈍い」。「キンドルやiPADはこれまでのバリューチェーン(価値連鎖)や、出版社の役割そのものを根底から覆す潜在能力」がある。

 このキンドル、このままでは終わらないのではないだろうか。つまり、「私たちがパソコンや携帯電話を通じてコンテンツと接触する時間すらも奪うことを狙っている」のではないかということだ。「キンドルやiPADが仕掛けてきた戦争は今後、パソコンや携帯電話も巻き込む形で、いかに生活習慣において、フロントの端末として位置づけられるかというプラットフォーム競争だと理解した方がいい」かもしれない。

<参考資料>
・勝間和代のニュースな仕事術 第35回
「キンドル」
勝間 和代(経済評論家/Associe 2009.03.02)

「電子書籍端末戦争、勃発」

 出版業界に激震が走っている。「アップルが新製品iPadを発表」したのだ。

 「米国の大手出版社マクミラン」はアマゾンに対して、「自社の書籍を電子書籍化する際の価格を上げろ」と迫った。
 この戦いは「アマゾン軍が白旗を揚げた」。「マクミランに対し、電子書籍化の際の価格決定権を引き渡したのだ」。「急成長を続ける電子書籍市場の競争は、iPad参戦によってさらに激化するのは必至」だ。
 「この一件が、電子書籍戦線の火蓋を切った」。
 「これまでの音楽配信や映画のデジタル配信の戦線に次いで、新しい戦争が始まったのだ」。「音楽配信、映画配信に関わったメディア企業はこぞって、従来の収益モデルを破壊されていった」。「そして今、書籍の世界もこの戦いに巻き込まれた」。「電子書籍市場は、一夜にして業界の注目を浴びるとともに、アップルのようなハイテク企業にとって実入りの良い新市場に化けたのだ」。

電子書籍端末による出版社の動き

 「ここで出版社が価格決定権を失えば、生殺与奪の権をわずか数社の大手ハイテク企業に握られてしまうかもしれないのである」。
 「この変化は、世界中で一般向けの印刷書籍の市場が頭打ちになりつつある状況で起きた」。「コンサルタント会社PwCでは、08年に726億ドル(約6兆5000億円)だった印刷書籍市場の規模は13年、719億ドルへと縮小すると予測」。「一方で電子書籍の市場は、同期間で11億ドルから41億ドルへの伸張を見込んでいる」。
 「予想以上に急激に勃興したデジタル化に直面して、出版社は上手を取ろうと一斉に駆け出している」。

 「出版社側は、アマゾンが販売シェア欲しさに電子書籍の価格を不当に低く設定していると非難している」。「大手出版社ハーパーコリンズなどを含むニューズ・コーポレーションを率いるルパート・マードック」も懸念している。
 「そして今、出版社側はアマゾンに専断的に価格を決めさせるのではなく、電子書籍商品の価格をより柔軟に決定できるよう求めている」。
 「今、マクミランは、アマゾン側に現実書店と同じような、委託販売ビジネスモデルを採用するよう、圧力をかけている」。「この場合、販売価格の決定権は出版社側に残り、版元が70%、小売店側が残る30%を取る形になる」。
 「アップルの参入で、出版社にとっては不意にアマゾン以外の選択肢が開けた感がある」。

電子書籍端末のシェア争い

 「電子書籍が占める割合は今のところ大きなものではないが、こうした予測は成長市場を探す出版社にとって、まばゆい一条の光明ともなっている」。「アマゾン、ソニー、そしてバーンズ&ノーブルはいずれも、自社専用の電子書籍店舗を開いている」。「アップルではiPadを3月に発売する暁には、電子書籍オンライン書店iブックストアも開店する予定である」。「さらにグーグルも電子書籍の販売を計画している」。

 しかし、「電子書籍の価格決定権は既に、キンドルの大成功によって市場の80%を握ったと推計されているアマゾン側に実質的に握られている」。
 「アマゾンは印刷書籍の小売業界で得た力を惜しみなく使って、電子出版業界での覇権掌握を狙っている」。
 「そのためにアマゾンは、電子ブック・コンテンツを赤字で販売している」。「大半の米国版書籍は、1冊あたり9.99ドル」。「この低価格で顧客を引き寄せ、デジタル著作権管理ソフトウェアに囲い込むのである」。「そうすれば読者は、アマゾンの専用端末キンドルか、同社が発売するソフトウェアを搭載したその他の電子機器を通じてしか、電子書籍を読むことができない」。
 「これまでのところ、アマゾンやソニーなどの電子書籍の売り手は、独自の電子ブックリーダーを使って取り次ぎのビジネスモデルを展開している」。「印刷版の定価の50%で電子書籍の権利を出版社から買い、消費者向けの配信価格は思いのままに決めるというやり方だ」。「アマゾンが出版社から1冊あたり15ドルで権利を買い、それを5ドル以上の赤字を出しながら販売することも珍しくない」。「アマゾンは電子出版市場での覇権獲得に向けて市場シェアを確保するため、この出血に耐えている」。

 「出版社は、電子書籍の値上げに2つの効果を見込んでいる」。「1つ目は、長い目で見て、このほうが電子書籍の価格水準が高止まりするだろうということ」。「これは市場が成長するにあたって、重要なことだ」。「そしてもう1つ、短期的には、印刷書籍の売り上げ減少の歯止めになるだろう」ということだ。
 「大手出版社6社は、自社の電子出版物を喧伝する一方で、少なくとも今のところはリアルな書店という既存の流通網に依存している」。
 「旧来の出版社は、できるだけ長く、リアル書店というビジネスモデルが続くことを願っている」。「彼らの事業は、書籍小売産業を牽引していくノウハウの上に成り立っているからだ」。

 これらと「同時にアマゾン、アップル、グーグルは電子出版市場のシェア争いで激しいつばぜり合いを演じている」。「アマゾンは好スタートを切って有利に立っているが、だからと言って将来が保証されているわけではない」。「このところアップルがやることは何事も本格的だし、iブックストアで電子出版の大手小売店としての座を本気で狙っている」。「一方でグーグルも、膨大なユーザーベースにものを言わせて大きなシェアを取る可能性がある」。

<参考資料>
・「キンドルを追うiPad、グーグル…「電子書籍戦争」で勝ち残るのは?」
フィナンシャル・タイムズ(UK/COURRiER Japon 2010.4)

「電子書籍の普及で出版にビジネスはどう変わるか」

 出版業界の変革が近づいているのかもしれない。
 「日本の紙の書籍では、平均的な著者の取り分(印税)は書籍定価の10%」。「後の90%は、紙の本の企画、編集、印刷、配送、保管、宣伝などの諸コストと出版社の粗利」である。「書店の棚を見ると一目で分かるが、紙の本は保管にも陳列にも場所を取」り、「流通コストと売れ残りのリスクが大きい」。「お金のかかるビジネスだったため、大手の出版社が規模の利益で優位を持ち、参入障壁を築いて儲けてきた」。

 しかし、「アマゾンは既存の本の電子配信だけでなく、新しい出版ビジネスを考えているようだ」。「同社は、条件に合う電子書籍の場合、著者に販売価格の7割を報酬として支払うと発表した」。「今後、アマゾンと直接契約する著者が出てくる可能性がある」。
 つまり、「電子書籍では媒体が同時に変化しそう」である。

電子書籍の勢いにどう対応する

 「紙が電子データに変わると、製本とコストが下がり、何と言っても在庫のコストとリスクが劇的に下がる」。「本の編集や校正(これなしだと読むに堪えない本が多いはずだ)は必要だが、出版社は既に下請けを使っている」。「今後、編集プロダクションが出版社に取って代わるかもしれない」。

 「この種のビジネスでは、製造・流通のプロセスのどこかを押さえて、規模の利益と知名度・集客を確保した者がシェアと利潤を得る」。
 「紙の本の過去の著作権のストックと著者との関係を持っている点で大手出版社は有力なチャレンジャーには違いない」。「だが、人件費を含めた自らの高コスト体質と紙の本のビジネスとの競合が邪魔になりそうだ」。

<参考資料>
・山崎 元の経済元論 #45
「電子書籍の普及で出版にビジネスはどう変わるか」
山崎 元(Associe 2009.04.06)

「電子書籍に統一規格」

 電子書籍端末キンドルやiPadが話題になっており、日本にも話題が大きくなってきている。
 「政府は17日、本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及に向けた環境整備に着手した」。「国内での流通や著作権に関する共通の規格作りを目指す」。

 「電子書籍の形式は各メーカーが定めており、共通のルール、規格がない」。「端末ごとに読める書籍が限定される他、資本力で勝るメーカーに規格決定の主導権を握られると、出版関連業界は中抜きにされる恐れがある」ためだ。「出版物の管理コードにあたる『書誌データ』も統一規格がなく、一連の基礎的な環境整備が検討課題になる」。

 「出版科学研究所によると、書籍・雑誌の推定販売金額は1996年をピークに減少傾向で、2009年は1兆9356億円と21年ぶりに2兆円を下回った」。
 「電子書籍市場は08年度に前年度の1.3倍の464億円と拡大傾向」にあり、「携帯電話で読む漫画が中心だ」。

 しかし、「国内出版業界では、新刊本やベストセラーなどの電子書籍化には『紙の本が売れなくなる』といった懸念が強い」。

 現在の「日本での電子書籍への対応は遅れている」。「国が関与して国内ルートを整えることで、中小の出版業者の保護を図る狙いがある」。
 「総務、文部科学、経済産業の3省は同日、都内で電子書籍の普及に向けた官民共同の懇談会の初会合を開いた」。「作家や出版社、新聞社、印刷会社、書店、通信事業者、メーカーの代表者も出席」し、「6月に中間報告をまとめる」。
 「懇談会では、国会図書館に収めてある約930万冊の書籍のデジタル化や、電子書籍をどう納本するかに関しても議論する」。

<参考資料>
・「電子書籍に統一規格 流通や著作権、官民で整備 中小出版の保護狙う」
(日本経済新聞 2010年3月18日(木))

参考記事

・「『キンドル』に触れてみた すごっ!」/オフライン&オンライン
・「Amazonの読書端末、キンドル日本上陸」/HAKODADI Vol.2 (IZA!版)
・「キンドルが来た」/花散里
・「アメリカで電子書籍がバカ売れ、ついに紙の本を超える」/花散里
・「電子書籍発売ラッシュ 「書店の敵?」」/オフライン&オンライン
・「ますます拡大する電子書籍市場」/オフライン&オンライン

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