マスコミの明暗(1)

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 マスメディアの状況は厳しいものだ。時代の流れの影響で現在、大きな瀬戸際に立たされている。
 かつては、マスメディアは帝国化するほど大きな影響力を持ったが、今はマスメディアへの懸念が盛んに騒がれる時代になった。

 そんなマスコミの明暗をさぐる。

「新聞のこれから状況」

 「公的な地位にあれば、新聞に異議を唱えたくなることもある」。「だが言論・表現の自由、報道の自由はアメリカの強さを維持するための土台だと信じている」。

 「たとえ不完全でも、アメリカの新聞はニュースの客観的な報道に努めている」。「新聞は紙面が許す範囲でさまざまな立場の見方を提供する」ものだ。
 「健全なメディアによる権力の監視は民主主義に不可欠な要素と考えられている」。「この意味でのジャーナリズムの頂点は、ワシントン・ポストによるウォーターゲート事件の報道だったかもしれない」。「この一連の報道は、74年にリチャード・ニクソンを大統領辞任に追い込む大きな要因になった」。
 「重要な報道は探せばいくらでもある」。「いい例がイラクのアブグレイブ刑務所での捕虜虐待や、イギリスの議員による経費不正請求問題、重要な国際会議の後の記者会見で日本の財務・金融相が示した失態を伝えたものだ」。
 「メディアはスキャンダルを暴くだけでなく、事実のさまざまな見方を提示し、人々の合意の構築を助ける」ものだ。

 「既に多くの問題を抱えていた新聞業界は、過去1年で本格的な危機に陥った」。「販売部数が減少し、インターネットに広告を奪われて苦しんでいるところに、景気後退が追い打ちをかけたのだ」。
 シアトル・ポスト・インテリジェンサーは2009年3月、「新聞発行をやめてオンライン版のみに切り替えた」。「サンフランシスコ・クロニクルは経費と人員の大幅削減でなんとか持ち直したが、一時しのぎにすぎないかもしれない」。
 「ボストン・グローブでは、記者陣は渋々ながら大幅な給与削減など雇用条件の改悪に応じた」。
 「ロサンゼルス・タイムズは人員削減を繰り返している」。「同紙やシカゴ・トリビューン、ボルティモア・サンを発行するトリビューン社は、08年12月に連邦破産法11条の適用を申請した」。
 「ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)などを発行するダウ・ジョーンズ社の経営権を握るバンクロフト家は07年、ルパート・マードック率いるニューズ・コーポレーションによる同社の買収に応じた」。

 「わずか3年前には多くの新聞が利益を上げており、その利益率はフォーチュン上位500社の平均を上回っていた」。
 しかし、「08年10月~09年3月の6カ月間で、新聞は前年同期比7.1%の部数減に見舞われた」。「全米の新聞社の上位25社のうち、僅かながらも部数を伸ばしたのはWSJだけだった」。

 「アメリカの新聞社が景気後退で大きな打撃を受けた理由は、新聞販売による利益よりも広告収入に頼っている体質にあった」。
 「多くの新聞の値段は1ドル未満」。「売り上げ増を狙った値上げは危険な選択だ」。「大衆紙ニューヨーク・ポストは25セントから50セントに値上げして、20%以上も部数が減った」。
 さらに、「インターネット上で記事を無料で読めるようにすれば、新聞社の利益が徐々に減っていくことは以前から分かっていた」。「金を払って新聞を買う人の数はどんどん減っている」。「ウェブサイトでニュースを無料で読めるし、朝まで配達を待つ必要もないからだ」。
 「それでも新聞社は、読者数と広告収入の減少で経費削減に追い込まれ、それが紙面数と記者の削減を招き、そのせいでさらに読者が減るという悪循環を断ち切る努力をしてこなかった」。

 2009年「6月、TPMは報道部員を14人に倍増させたが、ロッキー・マウンテン・ニュースのような地方紙でさえ200人以上のスタッフがいた」。「ニューヨーク・タイムズの記者数は1300人で、アメリカの新聞で最多のスタッフを抱える」。
 「08年にはアメリカのジャーナリスト5900人が日刊紙での職を失った」。「彼ら全員がオンラインメディアで仕事を見つけられるとみる人はほとんどいない」。
 「新聞業界にとって苦しいのは、インターネットの『無料ニュース』ビジネスでは記者の取材活動を支える収入が得られないことだ」。「オンライン版の広告収入だけでは、新聞発行事業の不振の穴は埋められない」。
 「新聞社のニュースサイトの訪問者数も、さまざまな新聞記事へのリンクをまとめてユーザーに提供するグーグルやヤフーなどにはかなわない」。「ハフィントン・ポストやトーキング・ポインツ・メモ(TPM)」、「こうしたサイトが新聞社からかなりの数の読者を奪っている」。
 「インターネットでニュースを読む人々は、自分の見解を裏付けてくれるブログやサイトを支持する傾向がある」。

 「過去1年、特にここ3カ月で危機が深刻化する中、新聞社の業績改善に向けた第1のステップはオンライン記事の有料化だという声が強まっている」。
 「新聞社にすれば、インターネットの可能性を最大限に引き出したい」。「その一方で、世界には質の高い記事を読むためには料金を払っても惜しくないという読者がいる」。「難しいのは、それを実現するための方策を見つけることだ」。
 「アメリカ新聞協会は今年に入って、有料化コンセプトの可能性と落とし穴をテーマにしたリポートを発表した」。「リポートが指摘する第1の問題点は、有料と無料の間には『1セントのギャップ』と呼ばれる心理的ハードルがあること」だ。「1ドルの料金を2ドルに上げるより、無料だったものに1セント払わせるほうが難しい」というわけだ。

 「新聞社は認めたがらないが、記事の内容は十分に独創的なのか、金を払って読む価値があるのかという問題もある」。「今報道の質が落ちつつあるときに、オンライン記事の有料化構想が持ち上がっている」。
 「多くの新聞社は経費削減の一環として、専門的知識を持つ記者に代わって特定の専門を持たない記者に頼るようになり、外国の支局も減らしている」。「オンラインで料金を払っても記事を読みたい、と思わせるような質の高い報道を放棄したのだ」。

 「他に名案もないので、新聞社は有料化を試してみるしかなさそうだ」。「20年前はテレビを見るために金を払う人などいなかったが、今のアメリカでは莫大な人々が有料ケーブルテレビと契約している」。
 「新聞のオンライン版は、様々な番組をパッケージ化して提供しているケーブルテレビのやり方を参考にすべきだ」ろう。

 問題なのは、「新聞をただの商品と考える者たちが、利益に目を付けて業界に乗り込んできた」ことだ。「新聞について十分な知識も関心もない人々が、新聞を極めて脆弱な状態に追い込んだ」。
 「不動産王サム・ゼル」は「07年、アメリカ2位の新聞グループであるトリビューンのオーナーになった」。
 「ゼルは買収先の資産を担保に資金を調達するレバレッジド・バイアウト(LBO)でトリビューンを買収」。
 しかし、「ロサンゼルス・タイムズにおけるゼルの采配は大失敗とされている」。
 「トリビューンは08年第3四半期に1億2200万ドルの損失を計上し、巨額の債務の返済はさらに難しくなった」。「同社は08年12月に連邦破産法11条の適用を申請し、現在は経営再建中だ」という。

 「ニューヨーク・タイムズは09年1月、メキシコの億万長者カルロス・スリムから、優先株(14%の年間配当)の発行によって2億5000万ドルの出資を受けることで合意」。「株主への配当支払いも停止され、新聞の危機の深刻さが浮き彫りにされた」。「同紙は今回は何とかひと息つけたが、根本的な問題は解決されていない」。
 「ニューヨーク・タイムズは値上げで苦境を乗り切ろうとしている(平日版の現在の値段は2ドルで、2年前の2倍)」。「報道の質の高さや固定読者層の存在、ニューヨーク圏外に販売を拡大する努力のおかげもあって、発行部数は104万部を維持」。「93年に比べて12%の減少にとどまっている」。
 「同紙が7月に発表した第2四半期決算によると、広告収入は前年同期比30%減になったが、3900万ドルの純利益を達成したという」。「04年には40ドル以上だったが、現在は8ドル前後に落ちている」。

<参考記事>
・「新聞絶滅へのカウントダウン」
コリン・ジョイス(ジャーナリスト/Newsweek 2009.9.16)

「アメリカの出版危機」

 アメリカの出版業界が危機的状況だ。

 「本の価格帯は決まってい」る。「例えばファッション業界には高級ブランドとカジュアルブランドの区別」があるが、「出版業界ではブランドによって価格帯に差があるわけ」ではない。「本はあくまで本に過ぎず、ベストセラー作家の小説であれ、名もなき詩人の本であれ、定価はさほど変わらない」。

 「出版業界の地盤は、金融危機以前から緩んでいた」という。「要因はビデオゲームやインターネット、SNSなど新たな娯楽メディアの登場だ」。「消費者の嗜好がアナログからデジタルへとシフトするにつれ、既に業界全体が変化の波に揺さぶられていた」。「そこに追い討ちをかけたのが今回の金融危機」である。「書籍の販売状況を調査しているニールセン・ブックスキャンによれば、08年10月初めから12月までの本の売り上げは、前年同期比で7%減となった」。
 「そこで経費縮小の格好のターゲットとなったのが、ニューヨークやロンドン、フランクフルトで開かれる国際ブックフェアー」。
 出版社の多くは、「今後は経費削減のために派遣人員を減らす方針だ」。「作家たちにとっては、本の版権の販売チャンスが減ることになる」。

 「最近ではレストランでのランチが絶対に必要かどうか、電話で済ませられる用件か、あるいは実際に相手に会うべき案件かについて、誰もが真剣に考えるようになっている」。
 「新刊のゲラ刷りの事前配布や、販売業者からの返本の受け付けなど、従来業界で“聖域”と見なされてきた基本制度も見直しを検討されている」。「近年上昇傾向にあった作家へのアドバンス(印税の前払い金)についても例外ではない」。
 「通常、返本は出版社に送り返された後は古紙になるか、大幅に値引きして売られている」。「このコストを削減したいと考える出版社は多いが、現在の厳しい経済状況下でこの慣習をなくすのは、非現実的だとの指摘もある」。
 「出版業界の利益を吸い取っている2大要因は、印税の前払いと返本制度だ」。

 「出版社はこの国で何が起きているのか、また読者が本当に望んでいることは何かを改めて考える必要があるでしょう」。

<参考資料>
・「金融危機で崩壊した米国出版業界の舞台裏」
ニューヨーク・タイムズ(USA/COURRiER Japon 2009.9)

「ヨーロッパも出版苦境」

 金融危機の影響もあり、メディア業界は苦しんでいる。それも、全体的にだ。
 「フランスの雑誌」では、「広告収入は雑誌全体で年初比約20%減(7月末時点)」だという。

 「特に打撃を受けているのは、不動産不況の影響を直接受けたインテリア雑誌や、消費者金融などの広告主を失ったテレビ情報誌だ」。フランスでは2008年「上半期には384の雑誌が創刊された」が、2009年「上半期には138誌と、およそ3分の1に減少し、さらに57誌が休刊した」。「広告ページ数の減少に加え、ネット広告の台頭などにより、雑誌広告の価値自体が下がったことで、広告料が下落」した。
 「定期刊行物は人件費などの固定費が70%近くに達することも多く、多くの記者を抱えるニュース誌では、リストラを試みる動きが顕著だ」。「実際、ニュース週刊誌『レクスプレス』」は2009年、「総売り上げが25%減少すると見込まれ、年初に実施した早期退職で700万ユーロ(約9億3600万円)のコストを削減している」。

 「フランスの雑誌の発行部数を調査している機関によると、09年上半期の雑誌の発行部数は、前年同期比で3~3.5%減少した」。「広告収入や発行部数の劇的な落ち込み、高額な固定費などは、業界再編の動きが迫っていることを暗示している」。

<参考記事>
・「仏雑誌業界はお先真っ暗!?出版各社の不安は募る」
ル・モンド(フランス/COURRiER Japon 2009.10)

「国際フォトジャーナリズム祭2009」

 「世界最大のフォトジャーナリズムの祭典『ビザ・ブル・イマージュ(VISA)』が、毎年、南仏ペルピニャンで2週間開催される」。「教会、修道院、大学の旧校舎、刑務所の跡地などの建造物を使って町中が写真一色に染まり、市民は無料で展示作品を巡る」。
 「この祭典が初めて開催されたのは1989年」。「ディレクターのジャンフランソワ・ルロワが構想した」。「そのきっかけについて、ルロワはこう話す」。「『世界中で開催される写真フェスティバルに飽き飽きしていた。フォトジャーナリズムが、その中のひとつのアクセサリーのように扱われていたからだ』」。

 「フォトジャーナリズムが一般写真の一部として世間に見なされていた20年前、人々はこの世界の情報を正確に把握していなかった」。「VISAの祭典が各国で認知されていくとともに、着実にフォトジャーナリズムに対する関心が増えていった」。
 「開催初年度は、集まった写真通信社が7社、カメラマンの申請はたったの123人に過ぎなかった」。「しかし2007年になると、その数が250社、68か国・3500人となり、ペルピニャンはフォトジャーナリズムの聖地と化した」。「一般市民の入場者数も20年前の2万4000人から、18万2000人へと大幅に増加した」。

 「VISAでは年間に起きた世界各国の事件のニュースや、年月をかけて作成した報道写真などが展示される」。
 「『プロフェッショナル・ウィーク』と呼ばれる最初の1週間は、中東やアフリカの紛争地、アジアの被災地、オバマ大統領の米国などさまざまな地域から、大勢のフォトジャーナリストが集結する」。「彼らは、お互いに情報交換を行ったり、戦地での取材仲間に再会したりと個人的な目的で参加する者も多い」。「夜になると、超高画質スクリーンで、スライドショーが行われ、『ニュース部門』『週刊誌部門』『日刊紙部門』『女性フォトジャーナリスト部門』など、各部門の授賞式も同時に開かれる」。2009年から、「ニュース専門放送『フランス24』が、『ウェブドキュメント賞』を提供している」。

<参考資料>
・「国際フォトジャーナリズム祭2009」
宮下洋一(DAYS JAPAN 2009.9)

参考記事

・「地上波が新聞を殺し、新聞が地上波を殺す。刺し違えている今のメディアの現状。」/市民新聞
・「「米新聞のNPO化論議」特集 【朝日新聞から】」/オフライン&オンライン

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