どこに行くのか、ヨーロッパ!(3)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 アメリカは移民大国でもあり、多くの人々がアメリカへと移住してくる。
 しかし、ヨーロッパも負けていない。

 そのヨーロッパであるが、移民や人種への目が厳しくなってきている。
 かつては寛容であった国でも厳しい状況になっている。

「イスラム教徒にたじろぐ欧州の愚」
ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局/Newsweek 2009.7.29)

ヨーロッパで今、移民問題が大きくなりつつある。
「昨年、ピュー・リサーチセンターが実施した世論調査によると、スペインとドイツでは回答者の約半数がムスリムに否定的な感情を抱いている」という。
 その背景には、「ヨーロッパへの同化に抵抗する大量の移民が雇用を奪い、福祉制度を疲弊させているという懸念が強まっている」ことがあげられる。
 その勢いは6月の欧州議会選挙でもあらわれている。「ウェルダースの自由党がオランダ国内の総得票の17%を獲得」した。「イギリスでも、反移民の主張を掲げるイギリス国民党(BNP)が初めて2議席を得た」。「オーストリアの極右・自由党の得票率は、前回選挙の倍近い13%に達した」。

 「特に悲観的な識者は『ユーラビア』(ユーロとアラビアを足した造語)の台頭を口にする」。つまり、「イスラムの教義に忠実でアメリカに敵対的な『アラブ化したヨーロッパ』が出現する」というのだ。
 「こうした警告の背後には、ヨーロッパが国際テロの温床になってしまったのではないかという一般の人々の危惧がある」。「現に01年の9・11テロの犯人たちはドイツで計画を練っていた」。「マドリード列車爆破事件(04年3月)とロンドンの同時テロ(05年7月)には、それぞれの国内で育ったテロリストが関与していた」。
 さらに、「ムスリム(イスラム教徒)の移民と出生率の高さを考えると、2025年までにヨーロッパの総人口の40%を占める可能性があると予測」している。「西欧では今世紀半ばまでにムスリムが多数派になるという予想は『完全に的外れとは言えない』」としている。

 「確かに若い移民が多いことを考えれば、ヨーロッパでムスリムの人口が着実に増えている」。それに加えて、「ムスリム移民の出生率は依然として高く、移民の大量流入も続いている可能性がある」。
 ただし、「今世紀半ばまでにヨーロッパのムスリム人口が非ムスリム人口を上回るためには、史上まれにみる出産ラッシュが起きるか、現時点でも政治的に受け入れ不可能なペースで移民の流入が続く必要がある」。しかし、実際には「新たな規制の導入で移民の流入には歯止めがかかる」だろう。
 「出生率も生活水準の向上と医療環境の改善によって低下する公算が大きい」。「現にオランダでは、90年に3.2だったトルコ生まれの女性の出生率が05年には1.9まで低下した」。「この数字はオランダ生まれの女性とほとんど変わらない」。「モロッコ生まれの女性の出生率も、同時期に4.9から2.9に低下している」。
 「『ユーラビアの神話』は、統一されたイスラム―危険な行動を起こしかねない一枚岩の集団を想定している」。「だが実際には、ヨーロッパに強力なムスリムの政治運動は存在しない」。「逆に世界中のイスラム社会に走る亀裂はヨーロッパにも明確に存在する」。
 「加えてヨーロッパの主要国は、いずれも特定の地域から移民を受け入れている」。「特に多いのは旧植民地だが、それぞれの地域は互いに異なる伝統や習慣を持っている」。
 それに、「同じ国の中でも大きな違いがある」。「ドイツではムスリム人口の10%以上がアラウィ派だが、他の宗教は彼らをムスリムとは見なしていない」という。
 「個人の道徳には、かなりの差がある」。「ギャラップ社が行った最近の世論調査によると、フランスではムスリムの30%以上が同性愛を受け入れる用意があると回答したが、イギリスではゼロだった」。「フランス人ムスリムの半数近くが婚前交渉を道徳的に許容できると答えたが、ドイツでは婚前交渉容認派は27%にすぎなかった」。
 「一方、暴力的な過激主義を支持するムスリムはごく少数」だという。「複数の世論調査によれば、圧倒的多数はテロリズムに反対している」という。

 「最近のドイツ政府の調査によれば、ドイツ国内に住むイスラム出身者の40%、北アフリカ出身者の23%が特定の信仰はないと答えている」という。「オランダでは、モスク(イスラム礼拝所)によく行くムスリムは全体の27%」で、「この数字は教会によく行くプロテスタントの比率よりも低い」。
 さらに、「ギャラップ社の調査によれば、フランスとドイツに住むムスリムの圧倒的多数が、自分たちは国家に忠誠を誓っていると回答している」。「イギリスとドイツのムスリムは、司法制度や金融機関、選挙への信頼度が非イスラムより高かった」という。

 「『ユーラビア』の台頭は、数少ない曖昧な情報に基づく推測にすぎない」。
 「04年に実施された米国家情報会議(NIC)の調査は、現在のヨーロッパのムスリム人口は約2000万人(総人口の5%前後)であり、2025年には最大で3800万人まで増える可能性があると予測している」。
 「この予測は『外交リポートやメディア報道、政府や学術機関、その他の情報源』に依拠した数字」である。「つまり、推測に基づく推測にすぎない」。
 「たとえ予測が当たったとしても、25年のEUの推定人口は4億7000万人なので、ムスリムの比率は全体の8%にすぎない」。
 「ヨーロッパのムスリム人口については、将来の予測どころか現時点での正確な推定も不可能に近い」という。まず、「不法移民は人数を把握できない」。「さらに政治的に微妙な問題であるため、フランスやドイツなど多くの国では宗教別の(住民の)人口統計を取っていない」。

「「寛容の国」オランダもイスラムはお断り?」
フランス・ティメルマンス(オランダ欧州問題担当相/Newsweek 2009.6.10)

 「オランダは古くから、『寛容の社会』と呼ばれてきた」。「特定の社会集団が他の社会集団を支配することはなく、どの社会集団も多数派にのみ込まれることはなかった」。
 そのオランダが持つ『寛容』性は独特で、「オランダが築いた寛容の社会では、社会集団同士が互いの信仰や価値観に関心を抱くことは全くと言っていいほどなかった」という。「むしろ、社会集団同士を切り離すことによって寛容性を保ってきた」。
 「17世紀以来、オランダには多くのマイノリティーが同居し、互いに干渉しない態度を貫いてきた。70年代まで、異なる社会集団同士の関わりはほとんどなかった」。「国全体の問題が持ち上がった時は、社会集団のリーダーが話し合って」妥協点を見出すという形をとっていた。しかし、「共同で取り組む解決策を打ち立てるものではなく、お互いの要求を物々交換的に受け入れるに」すぎないものであった。
 しかし、物々交換的な解決策では、問題の本質の解決は難しい。どこかで、弊害が起こり、新たな問題を生んでしまう。

 「社会集団同士の接点がほとんどない時代には、よその社会集団との付き合い方を学習する必要などなかった」が、「社会集団が徐々に崩壊するにつれ、他の社会集団の権利を意識しない人間同士が社会で関わり合うケースが増え始めた」。しかも、「70年代以降、オランダは労働力不足に悩まされるようになり、政府と産業界は主にトルコとモロッコから何万人もの男性労働者」を招き、「彼らの多くは祖国から家族を呼び寄せ、オランダに定住した」。
 関わりが少ないということが起きた結果、問題は生じ、関わりが大きくなれば、問題も大きくなっていく。

 「オランダは移民社会になることは望まず」、新住民があくまでも『ゲスト』であると考える国だという。つまり、移民や出稼ぎ労働者をゲストという形でしか受け入れないということである。
 さらに、オランダの習慣も、移民問題を後押ししているかもしれない。
 「客人がその家にふさわしくない態度を取っても、遠慮して誰も文句を言わない。食卓のルールを紙に書いて貼り出すようなことはなかなかはできない」という。
 「一方、客人は恥ずかしくてルールを教えてほしいとも言えず、次第に食卓の会話に参加しなくなる」。「みんなが礼儀正しく微笑んではいるが、実は歓迎されていないことを感じ取る」。そうして、「誰もが居心地の悪い沈黙に嫌気が差し、食卓を離れる機会をうかがっている」。

 この緊張関係の悪循環が大きくなっていく中で、01年の9・11テロが起きた。
 9・11テロの「1年後にはオランダで何百年ぶりの政治的動機による殺人事件が発生(過激な動物愛護団体メンバーの犯行だった)」。「その2年後にはまた別の暗殺事件が起きた(犯人はモロッコ系の若者だった)」。
 この事件はオランダ社会に大きな不安を与え、「保守的な空気を生み出した」。とりわけその予先が新しい住民に向けられた。
 「やがてイスラムへの恐怖は、極端な人種差別主義者でなく、主流派の心理にも影響を及ぼし始め」、「イスラム教徒が自分たちの価値観を社会に押し付けようとしているというイメージが広がり、不干渉主義を貫いてきた社会は強い危機感を抱いた」。

 そうした傾向にあるが、「ヨーロッパのイスラム教徒はおおむね、自分たちの信仰と自分たちの生きる世俗的社会のルールとの折り合いをつけ始めている」。「オランダでも、インドネシアや南米のスリナムからやって来た人たちはこれに成功している」。「トルコ系オランダ人社会でも同じことが起きつつあるし、モロッコ系オランダ人など、他のマイノリティー社会でも実現する」だろう。

「ベルリンで激化する 現代の「ユダヤ人狩り」」
フプロスト(ポーランド/COURRiER Japon 2010.1)

 「2008年の第四半期だけでも、ユダヤ人を襲った事件の数は07年の年間件数を上回っており、差別が確実に拡大している」という。
 「ベルリンの上院が発行する報告書には反ユダヤ的事件が毎年、数十件記されるが、実際にはこの何倍もの数の事件が起きていることが推測できる」。

 「連邦憲法擁護庁のデータによると、ネオナチやそれを支持するロックバンドのコンサートの観客動員数はここ3年で、2倍にも増えている」。
 さらに「地方議会に議席を持つ政党が公式に反ユダヤ集会を後援することもあ」り、「ドイツ国家民主党(NPD)がそうだ」。「連邦教育研究省といった表向きは人種差別が存在し得ないようなところにも、反ユダヤ主義は広まっている」。

 「米国連邦議会の最新の調査によると、反ユダヤ主義は世界に『現存する問題』で、その勢力は弱まるどころか強まっており、ユダヤ人社会を狙った暴力は西欧のほとんどの地域で起きているという」。
 「フランスには欧州最多の70万人ものユダヤ人が住んでいるが、最近、シナゴーグが焼かれる事件が多発している」という。

「統一20年後のいまも… 格差が埋まらない理由とは」
フィナンシャルタイムズ(UK/COURRiER Japon 2010.1)

 ベルリンの壁が崩壊した「1989年の無血革命によって、多くの東欧の社会主義諸国が経済システムを市場主義へとシフトさせた」。「しかし、旧東欧諸国のなかでも最も厳格に管理された(=東独)を、世界で最も成功している自由市場の国(=西独)と統合させるという」。

 「東独企業への補助金、東側地域のインフラ整備、新たな政治機構の立ち上げ、東独住民に対する生活保護などの統一コストは、1兆2000億~1兆6000億ユーロ(約156兆円~208兆円)にも及んだという」。

 「91年、旧東独の国民一人当たりのGDP(国内総生産)は、西側の43%水準にすぎなかったが、現在では71%にまで上昇している」。「いまだに西独地域のほうが生活水準は高いものの、東の6つの州の環境も劇的に改善され、平均寿命は6年も長くなっている」。「ブロードバンドや高速道路など、公共のインフラは東側がより整っているケースが多い」。「2002年以降では、企業の成長率の伸びが東が西を上回っているばかりでなく、西側よりも人件費が20%近く安いことにも助けられて収益率も上回っている」。

参考記事

・「a huge issue, unsolved」/iReport News HQ
・「売春「合法化」 ドイツの二の舞にするな」/てかまる日誌

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)