どこに行くのか、ヨーロッパ!(1)

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 アメリカ、ロシア、中国といった大国がある。そして、アメリカに次いで、重要な位置を占めるのが、ヨーロッパだ。
 ヨーロッパの動向は、昔も今も、世界が注目する。

 そのヨーロッパであるが、金融危機により大打撃を受けている。
 アメリカが最も深刻な状況であるが、ヨーロッパも大打撃を受けている。

 そのヨーロッパをみつめる。

「おごらぬ超大国EUの新世紀」
シュテファン・タイル(ベルリン支局/Newsweek 2009.11.25)

 ヨーロッパでは、「対ロシア政策からNATO(北大西洋条約機構)の将来像に至るまで、EU諸国の足並みは乱れに乱れている」。「銀行の抱える不良債権はアメリカより多いし、外交面でも英仏独の主要3ヵ国は同床異夢」である。
 しかし、「アメリカやロシアは金融危機で萎縮し、中国やインドは国内問題で手いっぱいだが、ヨーロッパは順調に前進している」。「ベルリンの壁の崩壊から20年たった今、ヨーロッパはかつてなく団結し、豊かで、かつ安定している」。

 「1980年代には、成長率が低くて失業率が高いヨーロッパは動脈硬化に陥って」いた。「しかし各国はその後、一連の改革に着手した」。「主として労働市場の規制緩和と競争の導入により、00~08年の間にアメリカより900万人も多い雇用を創出」し、「今や失業率はアメリカより低い(9月段階でアメリカ9.8%に対し、EUは8.9%)」。
 「90年代には、共産主義の崩壊とソ連の脅威の解消によってNATOの結束が弱まり、民族主義が復活するとの危惧もあった」。
 「実際、バルカン半島では危険な民族主義が頭をもたげた時期もある」。「だが、それもEUの東方拡大を止めることはできなかった」。「89年当時12ヵ国だったEU加盟国は、今や2倍以上の27に増えた」。「同時に質的な統合も深まっている」。
 「数年前までは、EUの古参メンバーと新規加盟国の間に、対米関係や対ロシア政策、イラク戦争への対応などをめぐって解決不能な対立があるように見えた」。「しかし、今はそれも解消されつつある」。「アメリカの前政権が各国の失望を買ったこともあり、EU諸国は経済面だけでなく、合同軍の編成など多くの分野で連携を深めてきた」。
 今回の世界的な経済危機で、「アメリカに比べて貿易への依存度が高い分、ヨーロッパ経済はアメリカ以上の打撃を受けた」。
 「だがひとたび回復が始まると、欧州の大国フランスとドイツは、アメリカよりも先に景気後退局面から脱却できた」。「輸出が回復し、消費が安定したからだ」。

 「ボストン・コンサルティング・グループの試算では、ヨーロッパは今年中に経済力でアメリカを上回る」という。2010年には「総人口が5億に達し、GDP(域内総生産)はアメリカと中国のGDPを合わせた額に近づく見通しだ」という。
 「今回の金融危機でアメリカ型の成長モデルは信用を失い、よりソフトで秩序あるヨーロッパ型の資本主義が株を上げた」。「EUに加盟して不況から脱け出したいと希望する国が、まだ6つほどある」。

 「今のEUは世界の開発支援で応分の負担をしているし、域外に送り出している兵員数は約7万1000人」である。「これはアメリカに次ぐ規模」である。

 「IMF(国際通貨基金)の予測では、アメリカは今後、EUよりも力強い回復を遂げるだろうが、それも2013年までのこと」だという。「それ以降は、アメリカの成長率(金融危機以前は3%を超えていた)もユーロ圏と同じ水準(2.1%)に落ち着くという」。「また国民1人当たりGDPで見ると、ユーロ圏ではアメリカの2倍近いペースの成長が見込まれている」。
 アメリカでは、「景気対策の資金投下もあって世界中の国が財政赤字を増やしているが、アメリカ政府の債務総額は来年、GDPの94%に達する見通しだ(対するEUはGDPの79%の見通し)」という。
 「アメリカ経済が背負うこれらの重荷が、ヨーロッパにとっては長期的な強みになる」という。「ヨーロッパのグローバル企業はアメリカ企業に比べて、成長著しい新規国市場での事業展開に有利な立場にある」からだ。

 「ヨーロッパがアメリカ型資本主義に最も強く反発してきたのは雇用の分野だ」。「アメリカ企業はヨーロッパに比べて、人員の採用・解雇をめぐる自由度が高」く、「臨機応変に雇用を調節できるのがアメリカ企業の強みとされた」。
 「長年およそ5%と推定されてきたアメリカの自然失業率(長期的に見てインフレ率に関係なく一定の水準で存在する失業者の割合)が、経済危機後は7%以上に悪化し、ヨーロッパの7.5%に近づくだろうと予想している」。

 「金融危機が勃発した時点では、銀行救済策や景気刺激策で加盟国の対応はばらばらだった」。「だがハンガリー、ラトビアなどが通貨の暴落と銀行の破綻に見舞われた09年2月には、欧州中央銀行が介入、前例のない緊急融資を行った」。
 「ドイツがユーロ圏からは財政破綻国を1国も出さないという強い決意を示した」。「おかげでドルに代わり得る基軸通貨としてのユーロの評価が高まり、2月以降ユーロの対ドル相場は17%上昇」した。
 「世界の外貨準備高に占めるユーロの割合は、10年前には18%だったが、現在は史上最高の27%に達している」。「各国の中央銀行が新たに蓄積する外貨準備高の50%をユーロが占め、米ドルの割合は37%にすぎない」。

 「この10年ほどはボスニア、コンゴ、グルジア、チャドなどで平和維持活動を展開」。「その多くが米軍主導ではない、EU独自の活動だ」。「米シンクタンクのランド研究所の08年の調査では、EU主導の平和維持活動は、和平の実現や民主的な政権の樹立といった観点から米軍主導の活動よりも33%成功率が高いとされている」。
 「米軍は特に危険な地域に介入するため、成功率が低くなるという見方もある」。
 「EU加盟国のうち21ヵ国がアフガニスタンに兵士を派遣、これらの国々の戦死者は多国籍軍の犠牲者1400人の3割以上に上る」。

 「11月初め、EUの新しい基本条約となるリスボン条約に最後の未批准国チェコが署名」。「これでようやくリスボン条約が発効する運びとな」った。
 「主要な改革としては、EU大統領のポストが新設されることと、これまでは全会一致が原則だったが、特定多数決方式が広く採用されることがある」。「これにより、キプロスのような小国が拒否権を行使するために何一つ決められないという金縛り状態から脱却できる」。

「EU懐疑論に異議あり」
アンドルー・モラブチック(プリンストン大学教授/Newsweek 2009.7.1)

 欧州連合(EU)ができからしばらくたったが、このEUは今後どうなるのだろうか。
 「世論調査によれば、ヨーロッパの人々は自国の政府より欧州議会などのEU機関を信頼している」。「特に外交分野では、EUの権限拡大を望む声も多い」という。
 「EUへの支持は総じて高いという」。理由として「選挙資金スキャンダルや利権にまみれた各国の議会より、欧州議会は無駄が少なく公正だし、環境対策にも積極的だ」という。

 「6月7日に欧州議会選挙の投票」が行われたが、そこで「批判が噴き出した」。「何しろ投票率は過去最低(イギリスとオランダでは30%台、ポーランドでは25%に達せず、スロバキアでは20%以下)」だったからだ。
 「誰も気にしていないはずの議会選挙に、有権者の43.4%(約1億6000万人)が投票したのだから立派なもの」だ。ちなみに「アメリカの中間選挙の投票率はもっと低い」。
 確かに気にしていない選挙の割には投票率は高いだろう。上出来な結果なのかもしれない。
 「今回の選挙でも、多くの有権者は失業対策(関心を持っている人は57%)や経済成長(同32%)、年金問題(同31%)などで誰に投票するかを決めていた」という。
 「現状の不満のはけ口として、極右政党に流れた票もある」。「イギリスでは2大政党が共に振るわかなかった」が、「緑の党が議席を増やしたのは、既存の左派政党への不満を吸収したからだ」。
 「反移民・反イスラム感情や経済不安を利用した右派政党が健闘」。「スウェーデンでは、ネット上のファイル交換の自由化を主張する『海賊党』が7.1%の票を獲得した」。

 「08年に行われたアイルランドの国民投票で、EUの新基本条約『リスボン条約』を否決させた立役者のデクラン・ガンリーは、『リベルタス』党の党首として議会選に臨んだが大敗し、政界を引退する見込みだ」。「今はアイルランドでも新条約への支持が増え、10月に予定される2度目の国民投票では可決される可能性が高い」という。
 「02年にEU本部は理想主義的な『欧州憲法』草案を書き上げたが、フランス、オランダでの国民投票で否定された」。「今回の選挙でも欧州議会は1800万ユーロを投じて投票を呼び掛けた」。しかし、「大した効果はなかったようだ」。

 「欧州レベルの選挙で投票率が低いのは、共通の言語や問題意識が欠如しているせいではない」。「みんな、自分の財布に直結する問題にしか関心がないからだ」。

 確かに「27ヵ国もの代表が集まって法案をまとめるのは難しい」。だが、「ひとたび法案が提出されれば欧州議会は手際よく審議する」。「そうして消費者や環境を保護してきた」。
 「27の加盟国を代表する政府はいずれも国内で民主的に選出されている」。「当然、世論の動向にも敏感だ」。
 EUは決定するのは遅い。しかし、決定してから早い。

「移民叩きが閉ざす ヨーロッパの未来」
シュテファン・タイル(Newsweek 2010.3.17)

 移民の問題は世界中で深刻になっているが、ヨーロッパの移民問題はどんな状況なのだろうか。
 今、ヨーロッパで移民に対する目は厳しい。「移民が増えれば、ヨーロッパの人種的・宗教的アイデンティティーが損なわれかねない―そんな強烈な不安感が社会で膨らんでいる」のだ。
 「国民の不安は、政府の行動にも影響を及ぼしている」。「イギリスやイタリアなど、移民の受け入れ数に新たな上限を課した国も多」く、「スペインやチェコのように、移民に金を払って帰国を促している国もある」という。「こうした措置に不景気の影響が相まって、ヨーロッパに移住した労働者の数は09年、大きく減少した」。

移民に厳しい環境に

 「ドイツなどの統計によれば、移民はそれ以外の住民に比べて犯罪を犯す割合が高い(ただしその原因は、彼らが外国人だからではない。移民には貧しく、教育水準の低い人が多いからだ)」という。
 そうした影響もあり、「ヨーロッパの国で相次いで、移民―多くの場合はイスラム教徒―が狙い撃ちにされている」。「この数十年、ヨーロッパの政治で『恐怖』がこれほど大きな影響力を持ったことはなかった」。
 「一連の経済危機を引き金に、『よそ者がヨーロッパの雇用を奪う』ことへの不安が高まったのは間違いないが、激しい敵意の背景にはもっと根深い変化がある」。
 「ヨーロッパのほとんどの国は何十年もの間、移民を社会の片隅に押しやってきた」。「そのため、専門技能を持つ人々はヨーロッパへの移住に二の足を踏み、もっぱら工場などで単純労働に就く非熟練労働者や難民が大量に流入した」。「新規の移民の受け入れに消極的な国では、非合法な方法で入国する不法移民も増えた」。
 「欧州委員会によると、00年代前半の時点で世界の非熟練労働者移民の85%がヨーロッパに向かう一方、技能労働者移民のうちヨーロッパを目指した人の割合は5%止まりだった」。「技能労働者移民の55%が選んだ移住先は、アメリカだった」。

 それに「移民の流入を阻む壁を築いたところで」、「政府の統制が利かない非合法ルートの移住が増えるだけだ」。
 「社会の均質性が高く、しかも島国の日本と異なり、ヨーロッパは移民の流入を阻めない」。「地理的に近いアフリカと中東では、人口が爆発的に増えている」。「それに、既にヨーロッパは社会の中に莫大な移民人口を抱えている」。

 「経済危機の前、ドイツは少しずつではあるが、アメリカ型のオープンな移民制度への転換に着手していた」。「教育、技能、労働市場のニーズを基準に移民申請の審査を行う方向に動き始めていたのだ」。「しかし失業率が8%を超えるに至り、大半の政治家は移民受け入れの拡大を口にすることすら避けるようになった」。

ヨーロッパの移民は大きな存在

 しかし、ヨーロッパには移民が必要なのかもしれない。「ヨーロッパが移民を必要とする理由の1つは、社会の高齢化にある」。「EU(欧州連合)の27ヵ国のうちドイツやイタリアなど10ヵ国では、2010年の死亡数が出生数を上回る見通しだ」。「この現象は15年までにEU全域に広がり、35年には年間100万人ずつ人口が減るようになる」という。
 「欧州委員会の試算によれば、EUの労働人口は2050年までに現在に比べて5200万人減るという」。「そうなれば、中国やアメリカなどもっと活力のある国々と競い合うことも、社会の高齢者を支えることも今より難しくなる」。
 「現時点で既に、医師や看護師、エンジニアなど専門技術や知識を必要とする労働力は慢性的に不足している」という。「不景気だというのに、ヨーロッパでは約400万人の職が埋まっていない」というのだ。
 さらに「欧州委員会によれば、ヨーロッパが現在の経済的な地位を維持するためには、専門技能を持つ移民が向こう20年間で2000万人必要だという」。「それができなれければ、ヨーロッパは今より貧しくなり、優秀な人材が中国やインド、ブラジルに出て行くようになる」。
 つまり、「ヨーロッパの産業と公共サービスを機能させ続けるためには、専門技能を持つ移民が欠かせない」ということだ。

 それでは、「具体的にはどういう対策」が必要だろうか。
 「第1に、移民を社会の一員として受け入れる努力を拡大する必要がある」。「スウェーデンは、最近そのための予算を増額した数少ない国の1つだ」。「移民向けの語学研修や職業訓練を充実させている」。
 「第2に、専門技能を持つ移民をもっと呼び込むための施策を取る必要がある」。「人材が足りない職種で移民に門戸を開いたり、外国の学位の承認手続きを簡素化したり、外国人留学生に卒業後もとどまって職に就くよう働き掛けたりすればいいだろう」。
 「第3に、福祉への依存度を減らす方法を模索する必要がある」。

 「近年、ヨーロッパへの移住者の数は飛躍的に増えてきた」。「90年以降、ヨーロッパに移住した人の数は2600万人に達する(アメリカは2000万人)」。「移民たちは少子化の進むヨーロッパの出生率を高め、町に活気を与え、景気拡大の原動力になってきた」。

 「カナダ、オーストラリア、アメリカのように、もっと開放的で流動性の高い社会を築ければ、ヨーロッパは繁栄するだろう」。「移民への門戸を閉ざし、移民を社会の一員として受け入れようとしなければ、経済が縮小し、排外主義的な空気が社会を覆い、衰退する運命を甘んじて受け入れるしかなくなるだろう」。
 「カナダ、オーストラリア、アメリカなどの国は、ヨーロッパより賢明な移民政策を採用し、その恩恵を手にしている」。
 「経済危機が始まった頃、カナダ政府も移民受け入れ数の削減を一時検討したが、最終的にはそれと正反対の政策を採用」。「専門技能を持つ移住者に短期間で永住権を認めるなどの措置を導入して、教育水準の高い移民の呼び込みに成功した」。「カナダにやって来る移民に占める修士号・博士号保有者の割合は、カナダ生まれの人の2倍に達している」。

 それに「移民たたきの風潮により足を引っ張られるのは、経済成長と高齢化対策だけではない」。「国際政治におけるヨーロッパの戦略上の決定にも悪影響が及ぶ」。
 「トルコのEU加盟プロセスが滞っている大きな理由は、トルコの膨大なイスラム教徒を受け入れることへの抵抗感がフランスとドイツを中心に強いせいだ」。「ヨーロッパの東端に位置する地域の安定化にEU諸国が及び腰なのは、ウクライナ人移民の大量流入に道を開く可能性を恐れているからだ」。

 「社会の反移民感情に迎合して、門戸を閉ざすのか」。「それとも、門戸を閉ざすことなく、むしろ高い専門技能を持つ移民をもっと呼び込むのか」。

「出口の見えない第2の「英国病」」
(Newsweek 2009.8.12/19)

 「経済力、文化的影響力、核保有に裏打ちされた軍事力、そしてアメリカとの『特別な関係』」といった背景から、「イギリスは大英帝国の崩壊後も数十年間、国際社会で『ミニ超大国』として振る舞ってきた」。
 しかし、「イギリスは昨年秋の金融危機による銀行の救済を余儀なくされ、不況の荒波に襲われ」、その地位は厳しいものになっている。

 「IMF(国際通貨基金)によれば、イギリスの公的債務は今後5年間で2倍に増え、対GDP(国内総生産)比で100%に達する見込み」だという。さらに「英国立経済社会研究所は、イギリスの1人当たり国民所得が08年前半の水準に戻るまでに6年かかると予測」している。
 これにより、「国防省と外務省の予算は大幅に削減され、ソフトパワーとハードパワーの両面でイギリスの影響力は低下する」ことになるだろう。

 「イギリス経済は過去50年間で初のデフレに突入」。「先進国のなかで最も深刻で長い景気後退のさなかにあると、IMFはみている」という。
 その影響は実に大きなものである。「失業保険の申請者数は99年の130万人(全労働者の4.6%)から200万人以上に増え、このままいけば300万人を超えそうな勢い」である。「OECD(経済協力開発機構)は、今年後半からイギリスは景気回復に向かう可能性があると予測しているが、日本やアメリカといった他の先進国よりも遅れる」という。
 現在のイギリスは、ここ数年の財政支出の拡大のため、「先進国で最悪水準の財政状況に苦しんでいる」。「それに伴い増え続ける政府借り入れのペースは一部の新興国すら上回っている」というのだ。

 「外務省は04年、世界中に約300ある在外公館のうち19を閉鎖」し、「職員の数は20億ポンドだった予算も、来年度は16億ポンドに削減される見込み」だという。
 これは、どういうことか。「外務省で進むリストラは、かつて全世界の憧れの的だったイギリスの優秀な外交官たちが『官僚間戦争』に敗れつつあることを示している」。

 ロンドンの金融街シティーは「イギリスがグローバル社会で持つ力の象徴」であった。「世界で最も歴史が古く、最も著名な多国籍企業のうち数社の資金調達に不可欠な役割を果たし、国際金融に対する影響力は地政学に対する英政府の影響力をしのいだ」。
 「シティーがウォール街を追い抜くまでになったのは、ヘッジファンドやデリバティブ(金融派生商品)といった急成長分野を独壇場にしたから」だが不運にも、「こうした分野は金融危機で最も大きな痛手を受けた」。
 「今ではウォール街と同じくシティーも国家や地域、グローバル規模で規制強化の波を受けており、その役割は縮小する」だろう。

 「EU(欧州連合)は既に、金融危機の再発防止を目的とする欧州システムリスク評議会(ESRB)の創設で合意し」、「その監督権限はシティーにも及ぶ」。
 「EUの規制の対象にシティーが加わり、イギリスで規制が僅かながらでも強化されれば、シティーは『金融機関にとって敵対的な場所になる』かもしれない」。そうなれば、「シンガポールや香港がシティーから顧客を奪う事態になりかねない」。

 「予想外の金融危機と世界的な不況で衰退は加速したが、中国やインドの台頭も対米関係の変化もかなり前から起きていた」。
 「中国やインドのような巨大新興国の台頭はイギリスの国際的地位を低下させ、アメリカはイギリスとの特別な関係を見直す姿勢を見せてきた」。
 「ブレアはアメリカの対テロ戦争に全面協力」し、「アフガニスタンとイラクに兵士を派遣した」おかげで「イギリスは第二次大戦以来、最も大きな発言力を手に入れたが、この短期的な利益はブレアの戦略が国内にもたらした政治的ダメージのせいで吹き飛ん」でしまった。
 「ブレア政権の10年間(97~07年)、イギリスはコソボ、アフガニスタン、イラクの戦争に参加」。「アメリカに次いで多くの兵を派遣した」ものだった。

 「イギリスは今も世界屈指の国防予算を維持しているが、それも長続きしそうにない」。「アフガニスタンが夏の『戦闘シーズン』を迎え、イギリス兵の死者が急増すると、与党・労働党も保守党も、現場の兵士を危険にさらす国防予算の削減に踏み切ることはないと口をそろえた」。
 「長期的にみれば、国防費の大幅削減は避けられない」。「国防予算は今後6年間で実質11%削減される」。
 「現在350億ポンドの国防予算を4分の1近く減らし、伝統的に『軽武装』の欧州大陸諸国と歩調を合わせる必要があるかもしれない」。
 「予算が減れば、世界におけるイギリスの軍事的役割も小さくなる」。それは「NATO(北大西洋条約機構)にも重大な影響が出るだろう」。
 「イギリスはアフガニスタンを含むNATOの軍事作戦にアメリカに次ぐ兵力を派遣している」。「この熱心な姿勢には、他のヨーロッパのNATO加盟国に積極的な参加を促す効果があったが、イギリスの関与が低下すれば逆の影響が出る」ことになるだろう。「NATOの軍事機構に復帰したばかりのフランスの立場が相対的に強まり、米欧関係がさらに複雑化する可能性もある」。
 「イギリス軍は7月末にイラクから完全撤退したが、米軍首脳はずっと以前から、イギリス国内で高まるイラク駐留反対の声を懸念していた」。「アフガニスタンの軍事行動についても、イギリス兵の犠牲者が増えると同時に国民の支持は低下している」。「7月の世論調査では、回答者の半数がこの戦争には『勝てない』と答え、イギリス軍の即時撤退を支持した」結果になった。
 さらに、「アフガニスタン駐留の兵士や士官の間では、装備不足に対する不満の声が上がっている」。
 「大国の究極のシンボルである核兵器の未来も不透明」である。「現行の戦略核ミサイルシステム『トライデント(潜水艦発射弾道ミサイル)』は24年に更新を迎える」。「政府は200億ポンドを費やして次世代核兵器を開発する予定」。
 「7月に英紙ガーディアンと調査会社ICMが共同で行った世論調査によれば、核兵器を放棄するべきだと考える英国民の割合は54%に上る」。「核放棄は現実的にはあり得ないにしても、次の政権はより安価な方法で核兵器を開発することを迫られるかもしれない」。
 「イギリスの核抑止力が低下すれば、新興大国はこれまでに増して安保理での影響力拡大を要求する可能性がある」。

 「イラク派兵によって大きな政治的代償を支払ったイギリス」は、「ソフトパワーの強化に熱心」になっている。
 「その中核を担うべき外務省は、政府自身の手によって骨抜きにされているようにみえる」。
 「イギリスは相対的に豊かで、国連安全保障理事会の常任理事国の地位にあるものの、力は低下している」。

参考記事

・「「ギリシャの危険な瀬戸際ごっこ」にロシアが触手?!」/青革の手帖

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