環境問題はたえず進んでいる(4)

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 環境が変化すれば、私たちにも影響し、生活が変化する。
 それは何も人間だけではない。動物や植物にもいえるのだ。
 そう。生物にも大きく影響するのだ。

 それも、病源体にも大きく影響し、それらは生物・・・私たちにも大きな脅威となる。
 その病源体に迫る。

「病源体に人類が負ける日」
リリー・ホアン(Newsweek 2009.7.8)

 「遠く離れた熱帯雨林や湿地帯からやって来るウイルスや細菌は、他の地域では未知の存在」である。「そういう病源体に対して人間は無防備なので、ひとたび人間の間に広まり始めれば、またたく間に世界的大流行(パンデミック)に発展しかねない」。

 「自然界に存在するウイルスや細菌、寄生虫などの病源体は、ある生物から別の種の生物へと感染していく途中でどんどん姿と性質を変えていく」。
 「SARS(重症急性呼吸器症候群)のウイルスはほかの動物の体内にずっと潜んでいて、02年に突如、人間に牙をむいた」。「HIV(エイズウイルス)も、元は野生のサルの血液中に存在していたウイルスだ」。

 「私たちの世代が(これまでのところ)そのような惨事を体験せずに済んでいるのは、自然界が『殺戮』の方法だけでなく、それに対抗して生き延びるための方法もたくさん用意しているからだ」。「地球上には、病源体を追い払ったり、封じ込めたりする強力なメカニズムが数多く存在する」。
 ある意味、バランスがとれていたわけだ。
 しかし、そのバランスが崩れてきている。「森林の伐採や農地の開墾、鉱物の採掘などによって、世界中で生態系のバランスが崩れ始めているからだ」。「そうした地域が温床になって、新しい強力な感染症が次々と登場している」。
 自然界のバランスが崩れた結果、問題が噴き出している。

 「世界の死亡原因第1位のマラリア」である。「この病気の原因はもっぱら人間による森林破壊にある」。「森林が破壊されて、よどんだ水たまりが出現し、そこに以前より太陽の光が差し込むようになって藻の生息が進む」。「こうして、マラリアの寄生虫を媒介するハマダラカという蚊にとって絶好の繁殖環境が出来上がる」。
 「元の状態の生態系では、ハマダラカはとうてい繁殖能力が強いとは言えない」。「しかし、南米のアマゾン地方や東アフリカ、東南アジアなど、生態系が変化した地域では、この蚊がたちまち増殖した」。
 自然破壊によって、マラリアの影響が拡大した。
 「アフリカのセネガル川流域では、85年にディアマ・ダムが建設されて川の淡水化が進んで以降、住血吸虫症と呼ばれるさまざまな症状を引き起こ」している。

 「生態系の破壊によって起きる問題」。「病源体を運ばない『無害』な種が滅んでしまうことも問題」である。
 「生態系の中の生物の多様性は感染症の拡大を抑制する役割を果たしている」。「健全な生態系では、他のタイプの蚊やカタツムリと競合することにより、病源体を媒介する蚊やカタツムリの増殖にブレーキがかかっている」。
 「つまり、生物多様性が失われれば人間の健康が脅かされる」というわけだ。
 多様性が崩れる背景には、バランスが崩れる原因がある。自然破壊もそうだが、グローバル化もあるだろう。

 「アメリカでは、開発された住宅地の間に小さな林がライム病の発生源になっている」。「この病気に感染すると、インフルエンザに似た症状を示し、やがて神経系の重い症状を起こす」。
 「ライム病を引き起こす細菌にとって理想的な媒介者は、シロアシネズミというネズミ」で、「自然破壊が進んでいる環境でもしぶとく生き延びる動物だ」。「このネズミ自体は細菌に感染しても発症しないが、細菌を増殖させ、それをダニに感染させる」。「そのダニが人間を含む哺乳類に細菌を運ぶ」。
 「フクロネズミやムササビなど、森に生きるほかの動物はシロアシネズミに比べて、ライム病の細菌をダニに媒介する能力が弱いが、そうした動物は減る一方だ」。「最近アメリカでライム病の症例が増えている(07年には2万7000人)のは、森林の消滅と生物の種の減少が招いた結果だ」。
 「近年、アメリカで西ナイル熱の発症者が出ている原因も生物多様性の崩壊にある」。「この感染症はもはや発展途上国の農家や森の住人だけの病気ではない。西ナイル熱の原因となる西ナイルウイルスは99年にアメリカ東海岸のニューヨークに上陸し、早くも04年には西海岸に到達」。
 「アメリカのどこにでも生息している数種類の鳥類と蚊がウイルスの運び役としてうってつけ」というわけだ。

 「感染のリスクは、その地域に生息する鳥の種類が少ないほど大きい」。「コマツグミ、イエスズメ、アオカケスなど平凡な鳥以外の鳥が生息している地域では、西ナイルウイルスに感染するリスクが10分の1以下に減る」。
 「問題は、人口の多い地域には平凡な鳥以外あまり生息していないことだ」。「そういう鳥は、人間の活動によって自然が破壊されている環境にも適応できる種」だという。

 「今地球上には、私たちに分かっている範囲で1415種類の病源体が存在するとされる」。「ウイルスが217種類、菌類が307種類、細菌が538種類、原虫が66種類、寄生虫が287種類」だという。
 「こうした病源体は3分の2近くは、人間の生活していない環境に生息しているが、そのままじっとしているわけではない」。「実際、現在知られている175種類の感染症の75%は、他の動物を介して人間の生活環境に入り込んできたものだ」。「野生生物保護協会の国際健康プログラムの責任者ウィリアム・カレッシュによれば、1年~1年半に1つのペースで新しい感染症が発見されている」という。

「デング熱 インフルの陰で世界に広がる魔病」
(Newsweek 2010.1.20)

 地球温暖化が問題になって、温室効果ガス削減の取り組みが注目されている。
 「もし地球の温暖化が進み、蚊の生息地が拡大すれば、世界の人口の半数以上が感染リスクにさらされることになる」という。

 その脅威の一つがデング熱である。デング熱は「ウイルスを保有する蚊に刺されることで感染し、死に至る恐れもある病気で、従来は主に中米や東南アジアで発生していた」。
 「WHOによれば、デング熱の『爆発的な発生』によって昨年1年間に入院した患者の数は50万人に上る」という。

 しかも「デング熱の流行が確認された国の数は、40年前のわずか9ヵ国から現在は100ヵ国以上に増えて」おり、「それも貧しい国だけではない」。「アメリカの広範囲(39州)にも広まっており、ヨーロッパ市民が旅行先で感染してくる病気として2番目に多い病気になっている」という。

「マラリア、デング熱を防ぐ秘策は蚊を早死にさせるバクテリアにあり」
ニュー・サイエンティスト(UK/COURRiER Japon 2009.8)

 人間にとって自然はなくてはならないもので、私たちに大きな恩恵を与えてくれる存在であるが、害も大きい。その一つが、ウイルスである。過去、ウイルスは人間に大きな害をもたらしており、現在でもウイルスとの闘いは続いている。そのウイルスの一つが、デング熱である。
 「蚊が原因となっている代表的な感染症の一つが、デング熱」である。「雌のネッタイシマカはほぼ人間の血液で生存しており、人間の生息環境で栄える」。その「ネッタイシマカがデング熱の感染者の血を吸うと、ウイルスは蚊の内蔵の中で分裂する」。「やがてウイルスは蚊の唾液腺へと広がり、感染から10日~14日もすれば、蚊の唾液は大量のデング熱ウイルスを含むようになる」という。

 デング熱は大きな問題となっているため、「蚊が媒介する危険な感染症と闘うための研究」がされている。
 「東南アジアは長らくデング熱に苦しめられてきたが、流行はますます拡大している」。「オーストラリア、太平洋沿岸地域、南北アメリカといった地域でも、最近になって猛威をふるい始めている」という。
 その「デング熱の症状は関節や筋肉の痛みが特徴で、痛みの程度は穏やかなこともあれば非常に激しいこともある」。「『ブレイク・ボーン・フィーバー(骨を砕く熱病)』」とも言われている。「通常、デング熱で命を落とすことは極めて少ないが、デング出血熱となると致死率は5%にもおよび、子供の場合は大抵死に至る」。「発生国は、ここ40年で9ヵ国から60ヵ国に増加中」の勢いだ。しかし、「デング熱には、ワクチンも治療法もないため、医師は対症療法を施すのみ」であるという。
 デング熱が流行している背景には、「国際的な旅行の増加、都市化、人口増加、そして長期的な感染予防投資がなされていないこと」があげられる。
 つまり、デング熱による影響が深刻な状況の中、デング熱流行の背景の対策は万全ではないのが今の状況である。

 それでは、デング熱をどう防止すればよいのだろうか。
 「蚊を駆除すること」が、これまでの主な対策であった。「例えば、蚊を罠や殺虫剤でとらえたり、ボウフラのすみかになる水たまりを除去するなど」という手段しかなかった。

 だが、ここに大きな対策となるヒントがある。

 それは、「感染した蚊を早く死なせてしまうという方法」である。「デング熱の潜伏期は蚊の寿命に対して相対的に長いので、早死にさせれば、別に蚊をすっかり駆除しなくて、病気の媒介力を失わせることができる」というわけだ。

 それでは、「どうやって蚊を早死にさせる」のかというと、「ボルバキアと呼ばれる昆虫の細胞に住む奇妙なバクテリア」がヒントになる。「大半の感染症の病原菌と違い、ボルバキアは接触感染せず、寄生相手の卵を通じて広がっていく」。「そのため、ボルバキアはできるだけ多くの卵に侵入できるよう、進化を通じて風変わりな能力を獲得している」。「例えば、交配なしに寄生主の雌を妊娠させてしまったり、雄の寄生主を雌にして卵をつくらせたりしてしまうものもいる」。「感染した雌はその後も交配を続けるので、その生物集団にはあっという間にボルバキアが広がる」という。
 要は、「野生の蚊に寿命を短縮させるボルバキアを感染させたら、理論的にはその蚊の個体群全体に急速に感染が広がり、デング熱の媒介を防ぐことができる」のだ。
 これは、「全く新しい、非常に大きな効果を発揮できる可能性を秘めた戦略」で、「理論的には、感染症の伝染を完全に防ぐことができること」になる。
 「実際、蚊の寿命を短くさせるボルバキアは存在し、『ポップコーン変種』と呼ばれている」。「問題は、通常このボルバキアはミバエにしか取りつかないことだ」。

 「ネッタイシマカは通常、実験環境では50~60日ほど生きるが、新たに開発したボルバキアに感染した雌は、その半分の期間しか生きられない」。
 そのため、「このバクテリアを広めるには、感染した蚊を放てばよいというほど単純ではない」。「シミュレーションと実験の結果、ボルバキアを野生の昆虫類の間に根づかせるには、地域に生息する個体集合の少なくとも36%を感染させなければならない」という。
 「野生の蚊がボルバキアに対して耐性を身に付け、再び寿命が延び始める危険性も指摘されている」。「最近の理論研究によって、この可能性は低いことがわかってきた」という。さらに、仮に「ボルバキア戦略が20~30年しかもたなくても、別の感染防止法を開発する時間を稼ぐことができる」というわけだ。
 しかし、ここで重要なことは、ボルバキアが万全ではないということである。

 他にもヒントがある。「死んだ蚊は疫病を媒介しない」。「そこで、蚊を殲滅する新手の手段として、子孫を皆殺しにしてしまうDNAを持った雄の蚊を大量に放す研究も始まっている」。
 「例えば、OX513と呼ばれるキラー遺伝子を持つ蚊に、ある化学物質を添加したエサを食べさせると、その蚊は死んでしまう」。「放出用の蚊を大量に培養することでは容易なため有望」である。しかし、デメリットとしてはコストがかかるという。

 深刻な影響を及ぼすデング熱であるが、さらに深刻なのが、マラリアである。「デング熱は99%がネッタイシマカによって媒介されるのに対し、マラリアの媒介源に蚊が占める割合は20%程度に過ぎない」という。そういう意味でもデング熱よりもはるかに手ごわい存在である。
 「アフリカでマラリアの主な感染源となっているガンビエハマダラカをボルバキアに感染させる実験を進めて」おり、「ガンビエハマダラカの細胞に、ボルバキアを埋め込むことに成功した」という。

「GM蚊で伝染病を撲滅せよ」
ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局Newsweek 2009.8.26)

 伝染病という脅威が迫っている。
 その一つが、「ネッタイシマカはしぶとい敵だ」。「他の蚊と違って気温が低くても死なず、人口密度の高い都市部で繁殖することもできる」という。「国際貿易の増加や都市化の加速でその生息地域は拡大を続け」てきた。
 「世界では今、ネッタイシマカが媒介するデング熱が急速に広がっている」。「約100ヵ国で発生し、毎年1億人以上が新たに感染」。「致死率は最大20%に上るが、ワクチンも治療法もない」。「少なくとも従来の医学では、解決策はゼロだ」という。

 デング熱に加えてこちらも深刻だ。「マラリア罹患数の85%以上を占めるのはサハラ以南のアフリカだ」。「この地域では毎年、最低75万人がマラリアで死亡している」。
 「薬剤に耐性のあるマラリア原虫が現れ、東南アジアでは再流行の兆しもある」。「国連のミレニアム開発目標は15年までにマラリアの発生を阻止することを目指しているが、多くの発生国は苦闘している」。

 しかし、希望はある。
 「オックスフォード大学と英バイオテクノロジー企業オキシテックは、遺伝子組み換え(GM)技術で『不妊』にしたオスのネッタイシマカを作り出した」。「『OX513』という単一遺伝子を組み込んだこのGM蚊は繁殖することはできるが、子孫を残すことができない」。「生まれた子供は、生殖機能が発達する前に死ぬようプログラミングされているからだ」。
 「戦略の目的は、GM蚊を大量に放って野生のメスと交配させ、将来的にネッタイシマカの個体数を減少させること」だ。
 「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団もGM蚊の研究を支持し、これまでに3800万ドルを投資」。昨年「5月には、WHO(世界保健機関)が主催する会合がジュネーブで開かれ、専門家がGM蚊開発の進捗状況や国際的な試験基準の設置について協議した」。
 「年間最低100万人の犠牲者を出しているマラリアへの対策でも、マラリア原虫を媒介するガンビエハマダラカの遺伝子組み換えが進んでいる」。「目標はマラリア原虫を破壊する強力な免疫機能を持つ蚊をつくること、もしくは原虫の発達を阻害する遺伝子を組み込んだ蚊をつくることだ」。

 「WHOはGM蚊の試験に際し、外来種と在来種の交雑を防ぐためのルール策定を進めている」。

参考記事

・「1136 デング熱 一筋縄ではいきません」/ビギナーズ鎌倉
・「デング熱体験記」/さまよえる団塊世代

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