日本の行方(下)

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 金融危機により世界中が混乱している状況で、日本も危機に陥っている。しかし、その日本、失われた10年を味わった日本に、復活はおとずれるのだろうか。
 日本の大きな問題の解決策はあるのだろうか。

 その解決策、ヒントをさぐる。

世界に雄飛する 「人間力」の時代 第10回
「「ゼロベース改革」を断行することなしに“民主党不況”に歯止めはかけられない」
大前研一(SAPIO 2010.2.10・17)

 日本の状況は非常に深刻である。その解決策はあるのだろうか。
 「企業の事業計画の手法でもあるが、予算の削減方法は大きく3つある」。
 「第1は『見えている無駄を削る』」。
 「第2は『戦略を先に作って削る』」。「つまり、初めに戦略があり、それを実現するために中止する事業、縮小する事業、継続する事業、強化する事業を決めていく」。「『組織は戦略に従う』から、その後、組織も廃止や統合を進める」。「戦略を考えられる力があれば、予算も削れるし、企業や国のかたちが変わる」というわけだ。これは「企業改革では最もオーソドックスな方法」である。
 「第3は『ゼロベースで創る』」。「目的に合わせ、予算をゼロから構築する方法」である。
 「企業の場合、第1の方法はコストを1~3%削る時に使う」。「既存の組織のままでそれ以上削ると業務に支障が出るからだ」。「第2の方法は15%がターゲット」である。

 今の日本の状況には第3の方法が適切になってくる。「なぜなら、約860兆円もの借金を抱えている日本を立て直すには、第1、第2の方法ではとても対応できず、ゼロベースでやるしかないからだ」。「全ての行政サービスで今の制度と同じ満足度を維持しつつ、他の先進国を参考に世界最先端の技術とシステムを使ってゼロから創れば、おそらく行政コストは現在の半分以下になるだろう」。
 「過去の例では、日本の明治維新と第2次世界大戦後、海外ではシンガポールがマレーシアから分離独立した時、旧ユーゴスラビアの分裂によってスロベニアが独立した時、旧ソ連が崩壊してロシアだけになった時などがある」。「これらのケースを見ると、世界のベストプラクティスを参考にしたため、意外に軽々と新たなスタートに成功している」。
 「今の日本は、戦後65年間のしがらみで国家の運営コストが極度に肥大化している」。「有名な『パーキンソンの法則』によれば、組織は自己目的のために増殖し続け」、「国家でも予算と課税は際限なく膨らんでいく」。「日本の中央集権システムは、その典型例と言えるだろう」。「また民主党は修正資本主義的傾向が強く、高度福祉国家に舵を切っている」。

 「行政の効率化という点で、ゼロベースで創る最大のメリットは『クラウド・コンピューティング』(インターネット上にあるハードウェアやソフトウェア、データベースのリソースを利用する環境やサービス)である」。「日本の行政は各市町村がみんな同じことをやっている」。「そのサポートにクラウド・コンピューティングを全面的に使えば、効率が飛躍的に高まってコストも一気に削減できる」。
 「民主党は納税と年金が目的の『国民ID』を提案しているが、さらにこれを一歩進めて運転免許、パスポート、戸籍、印鑑証明、各種許認可、選挙など、すべての行政サービス共通のID」にすることで、「国民データベースを作り、すべての行政サービスを一元化するシステムを構築する」。「日本が世界に誇る非接触ICカード技術を活用し、IDとバイオメトリクス(生態認証、体が不自由な人のためには特別なパスワードを組み合わせたもの)を使えば、役所の窓口業務はほとんどなくなる」。「そういうシステムの構築にいくらかかるか試算した」結果、「日本全体でわずか700億円だった」という。

 民主党は、「予算を1.6兆円削減したというが、平成22年度政府予算案は一般会計の総額が過去最大の92.3兆円に達し」、「歳出をカットするどころか、21年度より3.8兆円も増やしてしまった」。
 「予算の削減は世界中の政府がやっているが、その方法は民主党とは根本的に違う」。「他の国々では、まず予算の目的と全体の枠を決め」、「その上で省庁別にターゲットを決め、あとは官僚に削減案を考えさせるのが常道であり、それが政治だ」。「事業仕分けのように目的も全体の枠もなく、最初から個別案件について削るかどうかを政治家が決めるというアプローチは寡聞にして知らない」。「しかも、思うような予算削減ができなかったにもかかわらず、自分たちの『ウィッシュリスト』を足し算したから、過去最大の予算案になってしまった」。

 「国の借金の対GDP比が200%に達し、社会が急激に高齢化している日本は、手をこまねいていたら国家破綻することは火を見るより明らかだ」。「それを回避するための対策を早急に打つべきであり、その方法はゼロベース改革しかない」のかもしれない。

「鳩山はサッチャーになれるか」
トバイアス・ハリス(日本政治研究者/Newsweek 2009.12.9)

 鳩山由紀夫率いる新政権が「お手本にしたのが、はるか9700キロ離れたイギリスの政権運営だ」。

 イギリス政治は、「官僚でなく首相と内閣が政策を決定する」。「予算を決め、法案を書くのは政治家だ」。「鳩山によれば、官僚の仕事は『政策を立案、調整、決定する政治家を補佐すること』」。「日本の政治かも他の民主主義国家の政治家がやってきたことを行うようになるわけだ」。
 「首相官邸が絶大な権限を持つことになり、民主党はマニフェスト(政権公約)で誓った約束を実行しやすくなる」。「政府は優先課題を国民に明らかにし、国民はその進捗状況に目を光らす」。
 「首相の指導力が強まれば、世界的な問題でも明確なメッセージを発信しやすくなる」。

 「日本でこれまで予算を編成し、法案を書き、産業規制を決定するのは選挙で選ばれた政治家ではなく官僚だった」。「長年与党の座にあった自民党は官僚と協力関係を結び、この閉じられたシステムを積極的に利用して首相と内閣主導の政策決定を阻害してきた」。
 「その結果、国民の利益は政治家個人の利益に踏みにじられ、財政赤字はGDP(国内総生産)比で先進国最悪の190%まで膨れ上がった」。

 「民主党幹部は何年も前からイギリス式に注目していた」。「93年に自民党を離党した小沢一郎は、当時出版した著書『日本改造計画』で首相と内閣の権限を強化したイギリスの制度をたたえた」。「以後、小沢は何度かイギリスを訪問」。「最近では9月に民主党幹事長としてロンドンを訪れ、労働、保守両党議員と議会運営について話し合った」。
 「副首相兼国家戦略担当相の菅直人も6月に訪英し、労働党と保守党の政治家に官僚掌握術について助言を求めた」。「岡田克也外相も著書でイギリス式をたたえ、改革を進めるにはまず政策決定システムを変える必要があると訴えている」。

 「政権に就いた今、鳩山は驚くほど迅速に政治構造の改革を進めている」。「まず19世紀末に設置された事務次官等会議を廃止し、イギリスの制度をまねて、政策調整のため関係閣僚が集まる閣僚委員会を設置した」。
 「公約どおり予算編成の権限を官僚から取り上げた」。「今後は菅副首相が率いる国家戦略室が予算編成の基本方針を決め、行政刷新会議が予算の無駄遣いを見直す事業仕分けを行う」。
 「官僚の厳しい抵抗にもかかわらず」、「各省庁は鳩山内閣の命令に素直に従っている」。「特筆すべきは、10年度の予算編成作業を振り出しに戻し、無駄な事業を見直した上で概算要求を抜本的に見直すという鳩山の指示を、受け入れたことだ」。
 「今のところ鳩山内閣は与党の大物や官僚の圧力に屈せず、政策決定にかつてなく強大な権限を振るっている」。

 ただし、「イギリス式がうまくいくかどうかは分からない」。「そのためには首相が絶大な求心力を持つ必要があるが、今のところ鳩山はマーガレット・サッチャーには程遠い」。「世界における日本の役割は明確に語っているが、具体的な政策課題についての発言は曖昧だ」。
 「政策決定プロセスの透明性が高まり活発な議論が交わされれば、日本が抱える手ごわい問題を解決できるわけではない」。

世界に雄飛する 人間力の時代 特別版
「国民一人ひとりが「知のクーデター」を起こせ。」
大前研一(SAPIO 2010.1.27)

 「今の日本は何もかもが東京中心のネットワークになっている」。「大半の日本人は、東京を通じて世界を見」ており、「地方に住んでいても、東京との関係で自分の地方を見るという変な癖がついている」。「だが、道州制を導入すれば、日本全国で10くらいの都(みやこ)=ハブができる」。「すると人々は、それぞれの都から世界を見るようになるだろう」。「海外からの資本や企業も優れた政策を提示した道州に来ることになる」。「繁栄のための原資は将来からの借金(国債)ではなく外から呼び込む、というのが原則だ」。
 それには、「明治時代から続いている中央集権の統治機構を道州制の導入によって地方自治に変えねばならない」。

 「アメリカ、ドイツ、中国にはハブがいくつもある。アメリカでは首都ワシントンは人々の心の中心にもネットワークの中心にもなっていない」。「ニューヨークやシカゴに住んでいる人は自分たちのいる場所が中心だと思っているし、芸能人はロサンゼルスが中心だと思っている」という。「ビル・ゲイツにとってはシアトルだ」。「それがアメリカのクリエイティビティや多様性につながっている」。「ドイツもフランクフルト、ミュンヘン、ベルリンなど、地方ごとにハブがある」。「中国は制度上は中央集権だが、北京一極集中ではなくなっている」。「地方自治や経済運営の権限は完全に各市長に下りているし、上海、広州、大連、成都などが交通ネットワークのハブになっている」という。
 「日本では、もっと効用が大きいだろう」。「これまでの日本は、答えは1つしかないという中央集権、一極集中の制度の中で生きてきたから、別の答えを見つけようとすると、甲論乙駁して結局は何も決まらなかった」。「効果は薄い最大公約数的な妥協しか得られなかった」。「これを打開するには、国家の中に答えがいくつかあってもかまわない、という国の仕組みが一番効果的なのである」。

 「道州制になれば、おのずと統治機構は変わらざるを得ない」。「その結果、それぞれの地方が自由に『繁栄の方程式』を考えられるようになり(考えざるをえなくなり)、アイデア・コンテストが始まるだろう」。「また徴税権と立法権の一部を持つようになれば、工夫の足りないところは衰退する」。
 しかし、「道州制は、制度ができても、それから20年くらいの移行期間が必要になる」。「権限にはすぐに道州に渡せるものと、一部の立法権や徴税権のように簡単には地方で代替できないものがあるので、移譲のタイミングをずらしていかねばならないからだ」。また、「当初はある程度、今の地方交付金に相当するもので地域間格差をならさないと、いきなりリッチな道州とプアな道州に分かれて不協和音が出るだろう」。

 「もはや日本は税収が増える見込みがなく、産業は衰退しており、元気な企業ほどみんな海外に出て行ってしまった」。「このままではGDPや法人税は伸びないし、所得も伸びないから所得税も伸びない」。「つまり、今後は何もかもが伸びないことを前提に国家運営を考えていかねばならない」というわけだ。
 「結論を先に言うと、日本がジリ貧から逃れるには、国家運営の仕掛けを抜本的に変えるしかない」。

けいざい解読
「番号制で何がどうなる?」
大林尚(編集委員/日本経済新聞 2010年2月7日(日))

 「国民一人ひとりに番号をつける制度」。これには、「納税者番号、社会保障番号などと呼び名は様々だが、所得が少ない世帯への消費税増税の影響をやわらげたり、年金や福祉の給付にめりはりをつけたりするのに欠かせない『装置』である」。

 この制度は、「社会保障、住民登録、税務の3つの行政サービスに使うのが基本だ」。
 「設計は①ひとりに一つ統一した番号を決めて税務にも社会保障にも使う固有型」
 「②行政サービスごとに違う番号をつけて独立した管理機関が各番号を関連づける、ひも付け型」
 「③行政サービスごとに違う番号をつけ、関連を持たせない分離型―に大別できる」。

 「固有型はドイツなどを除く大半の欧州諸国や米国、韓国など。行政サービス間で連携しやすいが、不正使用をくい止める堅牢なしくみが必須だ」。
 「ひも付き型はオーストリア」。「万が一、個人情報が漏れたときにダメージを小さくできる」。「管理機関を設けて別番号にしているのは、他民族で成り立つ国ならではだ」。「固有番号だと特定の民族型民族を支配するのに悪用する恐れがあるからだちという」。

 それでは、日本はどうかというと「日本の現状は③だ」。「番号制について鳩山由紀夫首相は『1年以内に結論を出す』と約束した」。

 この制度、「先進国で番号制度が入っていない国はない」という。
 この制度を「兵役、電子申請、教育、自動車登録に援用する国もある」。「さらに新しい用途も広がってきた」。「欧州連合(EU)では公的サービスの域内共通化へ向け、番号制の実証実験が始まった」。「米英はテロリストを封じ込める道具としての活用を考えている」。「韓国も北朝鮮対策に応用しているという」。

 「制度の成り立ちや番号の使われ方は国によって違う」。「各国の実情をじっくりと勉強し、よい点をまねできる利が後発国にはある」。

参考記事

・「日本は経済的には世界を席捲したが!」/中華大陸興亡 China Revival
・「目先のことに追いかけられあっという間に去る日本首相」/中華大陸興亡 China Revival
・「民意による、経済ルネッサンス7」/経済ルネッサンス運動
・「新政権と景気対策」/経済学とつれづれに

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コメント

  1. yutakarlson より:

    ■2010年 世界主要国、国家財政危機ぼっ発か―日本がデフォルトを起こすのは、世界で一番最後?!
    こんにちは。最近、世界主要国国家財政危機がささやかれ始めています。それこそ、最近のギリシャの破綻に見られるようなことが、他の主要国で起こりえるということです。それは、もっともなことだと思いますが、ただし、日本は例外だと思います。歴史上始まって以来、一国の政府がデフォルトを起こした(破綻した)のは「政府の海外からの外貨建て負債」のみです。これに関しては一つの例外もありません。また、政府がデフォルトする際には、必ず通貨危機とセットになっていました。最近のギリシャの事例もまさにその通りでした。日本はどうなのでしょうか?ギリシャとは全く反対に、対外負債ではなく、対外債権(日本が外国に貸し付けてるお金)は、過去18年間世界一です。こんな国がなんで、デフォルトをおこすとマスコミやアメリカの投資銀行あたりが考えるのか全く理解できません。それに、日本は通貨危機どころか、最近は落ち着いているものの、どちらかというと円高基調です。日本がデフォルトをおこすのは、こうした論拠から世界で一番最後になるはずです。だって、世界に一番お金を貸している国なんですから!!詳細は、是非私のブログを御覧になってください。

  2. 谷口 永治 より:

    >yutakarlsonさん
     コメントありがとうございます。yutakarlsonさんの記事も読ませていただきますね。

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