イラン問題の行方(下)

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 イランの問題が、アフガニスタンやイラクと同様に、深刻な状況になっている。
 一歩間違えれば、戦争に発展しかねない。

 イランは重要な地域である。
 隣国にイラクがある。イランと周辺国との関係も厳しい。

 イランとの関係をどう進めればよいのだろうか?

「イラン人の心の内を訪ねて」
フーマン・マシド(作家/Newsweek 2009.6.17)

 「オバマ政権が本気でイランとの間に新たな関係を築きたいのなら、イラン人のメッセージを読み取る方法を学ぶべき」かもしれない。
 「イランの新年に当たる3月20日、オバマはイランに直接対話を呼び掛けるペルシャ語字幕付きのビデオを公表した」。「それに対するハメネイの挑戦的な発言を、欧米の多くの識者が侮辱と受け取った」。
 しかし「発言を聞いたイラン人が最も注目したのは、ハメネイの最後の言葉」だった。それは「アメリカが変わるなら、われわれの行動も変わる」というもの。これは「イランの最高指導者が『変わる』という言葉をこの文脈で使うのは初めてといっていい」ということだ。「今までイランの立場は『自分たちに非はない』というものだった」からである。

 イランの警察の検問所には2つの種類がある。「1つは不法移民(大半はアフガニスタン人)を捕らえるためのもの」。もう1つは「密輸を取り締まるためのもの」。「密輸されるのは主にアヘンとヘロインで、アフガニスタンから入ってくる」という。「イランの麻薬問題は深刻で、薬物依存者は100万人を超えるといわれる」。
 薬物問題は世界で問題になっており、隣国のアフガニスタンはその麻薬の生産地の規模の割合で多くを占め、その影響はイランにも大きい。

 「欧米人の抱くバザールのイメージは、小さな店が迷路のように入り組み、粗悪品を売り付けたり、観光客をカモにする場所」だろう。しかし、「それは正確とはいえない」。「イスファハンのバザールには多くの店のほかに、オフィスがある」。「あまり目立たないが、ビジネスを仕切っているのはオフィスだ」。「店で鍋を作る職人が、銅線や銅配管の卸商に雇われているということもある」。
 「バザールでは、時にストが起こる」という。「イラン革命でもバザールのストが王制を倒す力になった」。「ストが起れば店主たちが困るだけでなく、イラン経済全体が影響を受けかねない」。
 その「バザールの商人には、しつこいというイメージがある」。「モロッコなど観光客の多いアラブの国々では、客が店を出ても商人が後を付いてくる」。しかし「イランの商人は、そんな振る舞いは卑しさの表れだと考える」という。
 「靴屋の男は2つのことを理解していた」。1つは、客が「本当にサンダルを欲しいなら、また来るだろうということ」。「もう1つは、そのとき真剣に交渉すれば売れるということ」だ。「買うかどうか分からない客には時間を使わない」し、「双方が取引に満足できるという見通しがなければ、交渉には入らない」。
 「バザールでも他の場所でも、イラン人にとって交渉とはそういうもの」だという。

 イランはイスラム教シーア派の国である。「シーア派の総本山とされるコムは、信仰のあつい人々にとって特別な意味を持つ都市」である。
 「コムは重要な巡礼地であり、第8代イマーム(指導者)であるアリー・アッリダーの妹ファーティマの墓廟がある」。「ここにある多くの宗教学校は、エリート聖職者を輩出している」。
 「コムの中心部から車で5分ほど離れたジャムカランにもモスクがある」。「9世紀に『お隠れ』になった第12代イマームがそこに姿を現したことがあると伝えられている」。
 「長い間、ジャムカランのモスクはコムの陰に隠れて地味な存在だった」が、「アハマディネジャドが大統領になり、アハディ(救世主)の再臨を口にするようになると、このモスクは巨大化し始めた(第12代イマームがマハディとしてこのモスクに再臨すると信じられている)」。
 「金曜日(イランの休日)とマハディが姿を見せたと伝えられる火曜日には、何十万人もの巡礼者がジャムカランを訪問」する。「祈りをささげ、ピクニックを楽しむ」。「中には『手紙』を井戸に落とす信者もいる」という。「マハディが手紙を読んで、願いをかなえてくれると信じているのだ」。「井戸は2つあり、男女別に分かれている」。
 「ジャムカランは世界の終末に対するシーア派教徒の強い思いの象徴のように見える」。
 だが「ジャムカランには、信心深い人々が生活から離れ、巡礼によって神をあがめる場所という面もある」という。

 「イランでは、欧米で重んじられる『自由』より、貧しい人々が豊かになるチャンスのほうがずっと大事だと思われている」そうだ。
 「中東で最も長い通りであるバリアスル大通りは、テヘラン駅を始点に市の最北端まで延びている」。「市の中心部には伝統的な服装を身にまとった年配の男女が多いが、大通りを北に向かうにつれてジーンズや色鮮やかなスカーフが目立つようになる」。
 ある青年に、「6月12日の大統領選では誰が勝つと思うか?」と聞いたところ、「『アハマディネジャドに勝ってもらわなきゃ困る』」。「『アハマディネジャドに勝たせれば、既存の政治体制が崩壊に向かうはずだ』」。
 「外国人がこうした意見を聞くと、イランの若者が政府を打倒するのは時間の問題だという問題だという印象を持つかもしれない」。
 「この国では若者が人口の4分の3を占めて」おり、「イランでも若い世代は娯楽に夢中だ」。だが、「好きな服を着たり、自由に行動したりする権利にはそれほどこだわっていない」という。
 「家の中など他人の目に触れない場所でなら『自由』を楽しめるから」である。
 「禁欲的な価値観に反発を感じている人々でさえ、ペルシャ民族としてのアイデンティティーや、その歴史と文化を誇りに思っている」という。「彼らの多くは生活に余裕があり、外国旅行の経験も豊富で、欧米流の考え方になじんでいるが、東洋でも西洋でもないイランの立場を大事にしたいと考えている」というのだ。
 「アメリカ人が作った地図で『ペルシャ湾』が単に『湾』と記されていたり、ペルシャ人を蔑視するような要素がハリウッド映画に含まれていれば、イラン人は憤慨する」。「テヘラン北部に住む『リベラル』な人たちだって同様」だという。
 つまり、うまく外国文化などを取り入れ、自国の文化を大切にしているのだろう。
 しかし、イランの現状は「インフレ率も高く、失業者も多いため、イラン経済は深刻な状態にあるとされている」。

 テヘランの「ジャバディエ地区」は、「かつてここは非常に治安が悪い地域として有名だった」。「今でもテヘラン市民の大半は足を踏み入れようとしない」。
 だが「最近は、前より暮らしやすくなっている」という。「泥レンガ造りの古い建物に交じって、新しいアパートが立っている」。「真新しい車もあちこちに止まっている」。
 「この地区の住民の多くはアハマディネジャド支持者だ」。「大統領が育ったのも下層中流階級の町」。「貧しい人々のために尽くす気取らない政治家というイメージを打ち出したアハマディネジャドは、ジャバディエのような地域で非常に人気が高い」という。
 「テヘラン南部の住民は信心深く労働者階級が多い」。「彼らは権威に反感を抱いて」おり、「特に裕福なエリート層には厳しい目を向ける」。
 「選挙となると、この地域の住民はこぞって投票所に足を運ぶ」。「彼らは市の南部の開発に力を注ぐ市長候補に票を投じて」きており、「アハマディネジャドもそうして選ばれた市長の1人」である。
 「アハマディネジャドは医療保険や年金の改革に取り組むことによって、ジャバディエで多くの支持者を獲得した」。だが、「彼自身が貧しい家庭の出身だという事実も、政策と同じくらい重要な意味を持っている」。

 「バリアスリ大通りは北の端に至ると上り坂になり、雪を頂いたアルボルズ山脈の山麓の丘に続く」。「イラン革命を主導したホメイニ師の一族が住むジャマランはこの丘陵地帯にある」。
 「ハタミ前大統領もここに事務所を構えて」おり、「その建物は、ほぼ全員が改革派に転向しているホメイニ一族から提供されたものだ」。
 その「ハタミは大統領選出馬を断念」した。
 「キングになるよりキングメーカーのほうがいい」。「絶対的な権力者はハメネイ師ただ1人だが、ハシュミ・ラフサンジャニ元大統領やラリジャニ国会議長もキングメーカーとして力を振るっている」。
 「大統領選に立候補したり、大統領に就任したりするには、多くの有力者やさまざまな支持基盤の歓心を買う必要があり、妥協を強いられる」。「黒幕はそれほどの苦労をしなくて済む」というわけだ。
 「最高指導者のハメネイ師が口にした『変化』を実行するとなると、ハタミには荷が重い」。「信心深い人々から改革派まであらゆる国民に、路線変更が最高の選択肢だと納得させられる人物が大統領にならなければ、変化は起こせない」からだ。

 「まだ完成していない原子炉の燃料を、自国で生産する必要があるのかと米政府は疑問視する」。だが「イラン人にしてみれば、原子炉が完成しても燃料は外国頼みという事態は断じて受け入れられない」。「アメリカは石油の対外依存を脱却したがっている」。「なのに、なぜイランにエネルギーの対外依存を強いるのかと、人々は思うのだ」。

 「今度の大統領選で誰が勝つにせよ、次期大統領は難題に直面することになる」。「30年間にわたって互いに敵意を抱いてきたアメリカと緊張緩和」である。

「神権国家の壁は崩れず」
ファリード・ザカリア(本誌国際版編集長/Newsweek 2009.8.8)

 「近代社会を動かす大きな力は民主主義と宗教、そして民族主義だ」。「20年前の東欧では、この3つの力が1つになって、政権側に対峙した」。「市民は自由と政治参加の権利を奪う体制を嫌悪し、信心深い人々は宗教を禁止する無神論者の共産党指導者たちを軽蔑した」。

 イランの状況はというと、「民主主義は、どう見ても抑圧的な政権と相いれない」。「しかし宗教界が政権を脅かす側に回るとは考えにくい」。「イラン人の多くは神権政治(統治者が神の代理人として支配する政治形態)に辟易しているが、宗教そのものに愛想を尽かしてはいない」。「現職大統領のマフムード・アハマディネジャドに票を投じた人の多くは、信心深い地方の貧困層だとみられている」。
 イランの現状では不満が高くなっている。宗教を大切にしているが、不満も大きい。
 「イランの建国理念である『ベラーヤテ・ファギーフ(法学者による支配)』に反対し、聖職者は政治に介入すべきではないとの立場を貫いている」。「シスタニがイランの現政権を非難すれば、イラン国内に激震が走るだろう」。「ただし、シスタニがイランを公然と非難するとは考えにくい」。
 「宗教を体制打倒に動員できるシナリオ」はというと、「隣国イラクのイスラム教シーア派最高位聖職者アリ・シスタニ師が、ファトワ(宗教令)を出してイラン政府を非難することだ」。「シスタニはもともとイラン人で、シーア派全体で最も尊敬されている聖職者と言っていい」。

 民族主義はどうか。「イランの支配層は昔から、民族感情を巧みに利用してきた」。「革命の指導者ルホラ・ホメイニ師は、当時のシャー(国王)がアメリカの言いなりだと非難することで、民衆の支持を得た」。「革命の直後にイラクが攻めてきたときも、宗教指導者たちは国民の民族意識をあおった」。

 「80~88年のイラン・イラク戦争では、アメリカがイラクを支援した」。「イラク軍がイラン人に対して化学兵器を使ったことにも目をつぶった」。「当然、イラン人はその恨みを忘れない」。「アメリカのブッシュ政権が過去8年間、イラン攻撃の可能性をちらつかせてきたことも、イラン人の民族意識を刺激した」。

「イランの混乱に無関心装う真相」
(Newsweek 2009.7.15)

 イランの問題が現在でも続いている。アメリカ、欧州と対立しているイランであるが、隣国イラクではイランは大きな存在である。
 「イラク指導部としては、アハマディネジャド大統領はともかく、最高指導者ハメネイ師を敵に回したくはない」。なぜなら「重要な決定を下すのはハメネイであり、戦争と反乱の6年間で疲弊したイラクは、ハメネイと彼の軍隊にはかなわない」。

 しかし、「イランに不信感を抱くイラク人も多い」。「80年代の8年間に及ぶイラン・イラク戦争の恨みは根強く、国内にはイラク人実業家を悩ませる安いイラン製品があふれている」。「そして多くのイラク人が、イラン政府は故意に混乱を起こし、共和国のイラクを自国同様イスラム国家にするつもりだと考えている」という。
 さらに「イランの神権政治に反感を抱くイラク人は多く、「イラン国民は宗教的孤立政策にうんざりしている」。「ムラー(宗教指導者)による包囲を破りたがっている」。

「核兵器は欲しくない?」
ファリード・ザカリア(国際版編集長/Newsweek 2009.6.17)

 「この5年間、イランの高官たちは再三にわたり、核兵器製造の意図はないと主張してきた」。
 「現在の最高指導者アリ・ハメネイ師は04年に、核兵器の使用を非道徳的とするファトワ(宗教令)を発布」。「その後も『核兵器の開発・製造・貯蔵はイスラムで禁じられている』と発言している」。「08年には国際原子力機関(IAEA)のモハメド・エルバラダイ事務局長と会談した後に、同様の趣旨のことを述べた」。

 「軍事目的の核兵器でなく民生用の原子力技術も開発を推し進めることには、大きな利点がいくつもある」。「民生用の原子力開発であれば核拡散防止条約(NPT)に違反しないし、ほかの国の理解も得やす」く、「包括的な制裁を受けることは避けられる」。
 「イラン政府が核保有を望んでいるのは事実だが、核兵器ではなく民生用の原子力技術を保有するだけで満足なのかもしれない」。

 「民生用の原子力開発を行う権利があるという点でイラン指導部内は一致しているようだが、微妙な考え方の違いはあるかもしれない」。
 アハマディネジャドは、「有力聖職者との縁戚関係がなく、イランの宗教界では傍流の存在。聖職者たちはアハマディネジャドを露骨に嫌っている」という。
 「最高指導者であるハメネイの権力も絶対ではない」。「イランの最高指導者は『専門家会議』という組織によって選出される」。「ハメネイといえども、この組織の面々の顔色をうかがわないわけにはいかない」というわけだ。

 ただし、肝に銘じておかないといけないのは「イランは民主国家ではない」ということだ。「反体制派を投獄し、気に食わない雑誌を廃刊させ、体制への批判をほとんど許さない」。

参考記事

・「イラン情勢について②」/真実は何?
・「「やつらはいまも騒いでいる」イラン情報相、米・イスラエルを非難」/iZa版:オフィス樋口
・「イラン最高指導者が大統領再選承認令で、「敵に注意」と喚起」/【エッフェル塔から発信】・・・短波編

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