時代を変える移民(From Newsweek 2009.4.1)

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「倫理潔癖性が生む空っぽの政権」
エバン・トーマス、ジョン・バリー(ワシントン支局)

 米オバマ政権に世界が熱狂してから、もう4ヵ月が過ぎた。
 「3300のポストに約30万人の採用希望者が殺到している」という。
 しかし、楽観してはいられない。今の米の混乱を正すためにはやはり質が問われるのだろう。「厳格を極める審査プロセスのせいで、普通であれば十分に資格を満たすはずの候補者が排除されたり辞退したりしている」という。
 その結果、「上院の承認を必要とする373の役職のうちで既に埋まっているのは43だけ」なのだ(2009年3月25日現在)。
 需要と供給のバランスがおかしくなっているのだろうか。ただし、需要があるからといって、質を下げるわけにはいかないのだろう。

 この上院の承認がまたハードルを高くもしている。
 「上院のプロセスが滞っているために仕事を始められない役職者は数十人にのぼるという」。さらに、「上院財政委員会は税金問題を理由に複数の財務省高官候補に水面下でノーを突きつけたという」。

 しかも、ここぞとばかりにチェック体制が出来上がっている。
 「上院財政委員会では、内国歳入庁(IRS)の職員がオバマ政権の税務書類を徹底に調べて」おり、「ホワイトハウスでは、弁護士たちが高官候補者の税務書類を懸命にチェックしている」というのだ。
 度重なるチェック体制は、クリーンさ、質の保障になるのであろうが、行き過ぎると障害になってしまい、チェックの悪循環に陥ってしまう。

 質を求められることは良いが、この質を見極めるための審査が厳重すぎればいったいどうなるのか。
 「政府高官候補の身元調査用にホワイトハウスが用紙しているチェックリストは、今や100ページ近くに膨らんでいる」という。さらに、これに加え、「安全保障上の入念な身元調査がある」という。
 これだけではなく、「ホワイトハウスの弁護士による面接では、極めて私生活に立ち入ったことを根掘り葉堀り聞かれる場合もある」という。
 チェックリストに身元調査…クリーンになるだろうが、どこか日本の機械的な生産の面に陥らないだろうか。

 身元調査もばかにならない。「身元調査対策に弁護士や会計士を雇えば莫大な金がかかる。ブッシュ政権から留任したロバート・ゲーツ国防長官は06年の就任時に、身元調査対策に約4万ドルを費やした」という。ちなみに、「ドナルド・ラムズフェルド前国防長官の場合は、25万ドルを超す出費」だという。
 対策ということは、隠すことは含まれているのだろうか。

 だが、まだ焦らなくてもいいかもしれない。 
「上院の承認が必要なポストがすべて埋まるまでに費やした日数は、レーガン政権が194日、父ブッシュ政権が163日、クリントン政権が267日、息子ブッシュ政権が242日」であることから、まだ100日のオバマ政権は遅いとはいえない。

「移民の逆流が始まった」
マック・マーゴリス(リオデジャネイロ支局)

 出稼ぎ労働者の環境は深刻な状況だ。
 「湾岸諸国では油田やサービス業に約1300万人の出稼ぎ労働者がいるが、最悪の場合はその半数が数カ月以内に解雇されかねない」という。「日本でもトヨタのような大企業の不振で、ブラジル人の非正規労働者31万7000人のうち1万人が過去4ヵ月間に職を失った。失業と同時に住む場所も失う場合が多く、多くの人が日本を離れている」という。
 「ILO(国際労働機関)は、不況による失業者は世界中で5200万人にのぼると予測。エネルギー、軽工業、建設、介護及び宿泊・飲食業の雇用は激減して」おり、「いずれも出稼ぎ労働者が集まる業種ばかり」だという。
 つまり、今回の不況の一番の直撃は、出稼ぎ労働者であるといえる。しかし、こういった労働者が集う場所には、可能性があるかもしれない。なぜなら、

出稼ぎ労働者は切迫した環境で、生きるために展望の良いところをさがす。であるならば、離れるところはその可能性が薄いということではないだろうか。

 しかし、その出稼ぎ労働者への対応は厳しい。
 「農村部からの出稼ぎ労働者が大都市に集まり、好況の原動力」となって、好景気の勢いのあった中国でも、「山東省や東莞(広東省の工業都市)、さらには上海周辺でも工場の組み立てラインや製鉄所の溶鉱炉が停止し、出稼ぎ労働者は農村に戻りはじめた」という。これは「インドでも状況は同じ」だという。
 勢いのある中国やインドでも、この状況。これは極めて深刻だ。

 ついに世界の縮図が変わろうとしているのか。
 金融危機がきっかけになったのか、「専門家によれば、南の途上国から北の先進諸国へ向かう移民の数は、今年30%ほど減る見込み」だという。

 そして、「移民の逆流」が始まるかもしれない。。「移民の逆流は、一つの時代の終わりの象徴かもしれない。モノやサービス、カネや人の自由な流れはグローバル化の産物であり、70年代後半からの世界経済の成長の牽引役となってきた」からだ。
 つまり、移民の存在は成長するに対し、大きな影響を持っていたということだ。

 その逆流の規模は大きなものになるという。
 「英国立経済社会研究所によれば、アイルランドでは今年1四半期に約3万人の労働者(大半は外国籍)が国外に出る見込み」だという。「旧ソ連圏から欧州へ出稼ぎに来た数十万の労働者も失業し、ほとんどがスーツケース一つで帰国していく。マレーシアでも、昨年はインドネシア人労働者約20万人が国に帰っている」という。
 これまでの経済や社会の仕組み、土台が揺らいでおり、世界の基本となる流れが変化しているのかもしれない。

 その「移民の数は75年当時の2倍以上になった」という。これは「平時としては史上有数の大移民時代」だそうだ。
 移民が増えたわけはいったいどうなのであろう。生活を求める場をさがすためなのか。出稼ぎという環境が日常なのだろうか。

 金融危機による不況で、今までの状況が変化しているわけだが、メキシコでは、「00~06年には毎年100万人がアメリカに入国した」が、「アメリカの雇用状況が厳しさを増す一方、メキシコは今年も1%近い成長率を維持する見込み」だという。「専門家は今年は北へ向かう移民が36%ほど減る」とみているそうだ。

 移民の割合は「90年代末、世界の人口に占める移民の割合は史上最高の3%に達し、過去10年間ほぼ変わらなかった」。

 しかし、出稼ぎ労働者への厳しさの影響は大きい。
 「出稼ぎの減少は途上国に深刻な影響を与える」という。「出稼ぎ労働者が稼いだ金の大半は母国に送金されて家族の貴重な資金源となり、国の経済を助けてきた」からだ。
 「送金額は10年前の730億ドルから、昨年は2830億ドルに膨れ上がった」という。「多くの貧困国に対する外国の援助額を上回る」。「GDP(国内総生産)に占める送金の割合は現在、タジキスタンで45%、モルドバで38%、ホンジュラスでは25%に達している」というから、出稼ぎ労働者からの送金は重大な問題である。

 出稼ぎ労働者の送金問題は他にも影響がある。
 キルギスでは、「送金が激減すれば国は財政破綻に陥りかねない」という。さらに、「メキシコでも、昨年の国外の出稼ぎ労働者からの送金は230億ドルと、石油に次ぐ外貨収入源だった」という。「小規模な起業の5件に1件は、こうした送金を原資としていた」ほどであるという。

 出稼ぎ労働者の問題には不法移民の問題もつきまとっている。
 「米ジャーマン・マーシャルファンドは昨年11月、イギリスとフランス、イタリア、ドイツ、ポーランド、オランダで調査を実施」した。「その結果、回答者の80%以上が国境の管理強化を、73%以上が不法移民の雇用に対する制裁強化を求めていた」。
 不法移民問題をどうすべきかも対策を考えないといけないだろう。

 不法移民問題や金融危機における不況の影響によることなどから、外国人労働者への風当たりが強くなってきている。
 「ロシアでは、与党・統一ロシアの青年組織『若き親衛隊』が、『好ましくない』外国人労働者の排斥を求めている。『出稼ぎ労働者に賃金を払うことによって外国経済を潤し、国外に金を流通させるのが正しいとは思わない』というからだ。
 「チェコでは、職がなく国を離れることに同意する移民に649ドルと片道の航空券を支給」。さらに「スペインでは最低3年間は戻らないことを条件に、出国する外国人10万人に1人当たり1万4000ドルを提供することになった」という。「取引に応じたのはまだ1400人ほどだが、520万人の出稼ぎ労働者の6人に1人が失業しているので、今年は約2万人が取引に応じるものとスペイン政府はみている」という。

 厳しい状況にたたされているが、移民の存在は大きい。
 「移民は現地の人間がやりたがらない仕事を、より安い賃金で担ってきた」。「移民は一般に収入の80%を衣食住に使う(残りを送金する)ので、落ち込む個人需要を支えるのにも役立つ」わけだ。そして「雇用状況が悪化すれば、真っ先に解雇できる」というわけだ。
 これでは、都合が良い存在である。しかし、現地の人々には大きな存在であることは確かであるが、移民の環境は問題である。

 そのつけは大きい。
 「移民に対して壁をつくれば、安い労働力を駆使して景気を刺激することも困難になる。身軽な外国人労働者が労働力不足の地域に素早く移動することによって経済を回復させることもできる」からだ。
 こうしたことから、移民の存在は重要で、ないがしろにしてはいけない存在である。

「国王最後の夢はサウジの社会改革」
クリスフファー・ディッキー(中東総局長)

 アブドラ国王は、「正面対決より調停が好み」だという。「02年のアラブ連盟首脳会議では、イスラエルが67年の第3次中東戦争で占領した土地から撤退すること、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の建国を認めることなどを条件に、イスラエルと全アラブ国家との包括的和平を提案した」。

 現在、世界を見てもアメリカの存在は極めて大きいであろう。
 そのアメリカにも弱点があるのかもしれない。その存在はサウジアラビアのアブドラ国王である。
 アブドラ国王は「01年と02年、もし米政府がイスラエル軍の占領下で苦境にあえぐパレスチナ人に手を差し伸べなければ、アメリカとの戦略的関係を見直すと脅しをかけたこと」があったそうだ。
 それに対し、「ジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)はすぐに、アメリカの国家元首として初めて本格的なパレスチナ国家の創設を支持すると発表した」という。そして、「ブッシュがそのための外交努力を怠りはじめると、アブドラはテキサス州クロフォードにあるブッシュの牧場に乗り込み、怒りの最後通告を突きつけた」という。
 アメリカをも動かすサウジアラビアのアブドラの力はそれほど大きいのだろうか。その力の背景はいったい…資源の力なのだろうか。もし、資源が背景にあるとすれば、それほどアメリカは資源に対して追い詰められているということだろうか。それに加えて、戦略上(地理的なものも含む)の面もあるのだろう。
 ちなみに、アブドラが牧場に乗り込んだ時のことを、「当時のコリン・パウエル国務長官は、後に『死ぬほど恐ろしい経験』だったと語った」そうだ。

「北アイルランドの偉大なる共存」
コルム・トビーン(作家)

 「この島の北部に住む100万人以上の住民は自分たちを『イギリス人』とみなし、独自のアイデンティティーを認めてほしいと要求してきた」という北アイルランド。
 「彼らの多くはアイルランド聖公会やプロテスタント長老派に属し、アイルランドへの併合や統一アイルランドの実現を望まない」という。

 土台をつくりあげるのは困難なものであるが、それを成し遂げる人物がいる。
 「北アイルランド自治政府首相(当時)は98年にノーベル平和賞を受賞したとき、北アイルランドはそれまで『カトリック教徒に冷淡な家』だったと認めた」という。そして、「彼は北アイルランドのカトリック少数派との話し合いで、プロテスタント多数派との統合ではなく、アイルランド住民としての誇りを尊重し合うことで合意」に成功。
 この「包括和平合意は98年4月10日に調印され、今日でも政治的安定の土台になっている」。

 「ケルト民族の流れをくむ。宗教はカトリック。聖パトリック祭(3月17日)の日に酔いつぶれる。こうした『アイルランド人の定義』はもやは通用しない」。

 現在の「アイルランドでは『~系』と『~かつ』という言葉が不可欠」だそうだ。
 なぜなら、「69年にノーベル文学賞を受賞した作家サミュエル・ベケットはアイルランド系フランス人」で、「トリンブルは北アイルランド人かつイギリス人」だというからだ。

 しかし、そんな彼らだが、「アイルランドのラグビーチームがイングランドと対戦するときは、アイルランド代表に声援」を送り、「サッカーとなると応援するのはアイルランドとは別の北アイルランド代表チーム」だという。

 アイルランドは「この20年間で多様なアイデンティティーを持つ人が共存しやすい国になった。同性愛者や無神論者、仏教徒、イスラム教といったレッテルがあまり意味をもたなくなった」という。
 それは、「北アイルランドではアイルランドかイギリスのパスポートを選択」でき、「イギリス式の教育を受け、イギリスに納税し、それでもなお、イギリスではなくアイルランド人だと主張することも可能」になったというのだ。

<参考記事>
・「季節外れの帰省ラッシュ、工場閉鎖にあえぐ出稼ぎ労働者―広東省広州市」/手風琴のため息
・「移民に苦しむアメリカ人の胃の中身」/アメリカ記者修業奮闘記

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