民主主義の行方(下)

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 このような形で権力を掌握することで、民主主義が最近、後退している国の多くで意外な結果を招いてきた。その1つは、かつては政治的自由を支持した中流層が、民主主義を救うという名目で、超法規的で非民主主義的な戦術に頼っていることだ。
 例えば、タイの都市部に住む中流層はタクシンの権力乱用にひどく失望し、貧困者に権限を与えるために自分たちが犠牲を強いられることを危惧した。
 だが、彼らは野党を支持するとか、独自に新聞を発行するといった民主主義的な手段ではなく、民主主義を破壊することによってタクシンに抗議した。民主主義を支持すると主張しながら、政府機関を封鎖し、軍事クーデターを求めたのだ。
 2006、07、08年には政府に抗議する群衆が国会議事堂を包囲。2008年11月にはバンコク国際空港を占拠し、国の観光業に大打撃を与えた。
 法の秩序を取り戻して政治腐敗と戦うためだとして、多くの人々が軍による介入や温和な独裁を求めた。
 こうして、タイのエリート層が期待したとおりになった。タクシンは亡命し、反対勢力が権力を握って、民主主義は打ち砕かれたのだ。
 似たようなパターンは至る所で見られる。

民主主義への風当たりは厳しい

 民主主義に対するアジア人の考え方を定期的に調べているアジア・バロメーターの調査では多くの回答者が、自国の民主主義制度に失望するようになった。
 そして、(アジアでは)独裁主義への支持が、減るどころか増えているという。

 ロシアも同様だ。民主主義的な制度の大半を一掃したプーチンは、中流層からも他の階層からも驚異的な支持率を誇る。世論調査会社アンガス・リードの最近の調査では、ロシア人の約80%がプーチンの実績を評価している。欧米の指導者には夢のような数字だ。
 中国でも、政府に対する抗議の先頭に立つのは今や地方の貧しい人々で、都市の中流層は現政権に満足しているようだ。ピュー・リサーチセンターが都市部で実施した調査では、中国人の大多数が国の状況に満足しているという。
 しかし、中流層のこれらの活動で被害を受けているのは、貧しい人々だ。中流層がクーデターなど非民主主義的な手段で民主主義を押し戻すことは、貧しい人々の権利を奪い、抗議活動をさらにあおっているのだ。タイでは貧困層を中心とする群衆が暴力的な抗議活動を始め、タクシンを退陣させた中流層を標的にしている。ボリビアではモラレス政権に反発する中流層が、貧困層を中心とするモラル派の怒りを買っている。
 こうして、悪循環に陥っていく。

 問題の解決策は困難だ。こうした反抗議活動は階層の分断を招き、融和には数十年かかるだろう。1990年代に生まれた多くの体制は、10年以上の脆弱な民主主義を経て破滅している。権力を持つ人々にも、政治的緊張を解決する手段はほとんど残されていない。
 例えばロシアでは、さらに自由を復活させたいと思う人物が指導者になっても、政府に全ての権力が集中しているプーチン式のシステムや官僚組織と戦わなければならない。
 タイの現首相アピシット・ウェチャチワが、1990年代の自由を取り戻したいと思っても難しい。タクシン時代とその後に続いた政変の間に、支配者たちは改革主義の憲法を引き裂き、司法制度を破滅させた。メディアはタクシン派か反タクシン派のどちらかにこびるばかりだ。
 新しい指導者がタイの官庁や司法などの制度を立て直し、かつてのように訓練を受けた公正な人材を登用するようになるまでには長い時間がかかり、数十年を要するかもしれない。

 最大の問題を抱えるのは、おそらくイラクだ。(2010年)3月7日に行われた連邦議会選挙はフセイン政権の崩壊後、2回目となる。フセインがいなくなって暮らしが良くなると多くの人が高い期待を寄せたが、民主主義はすぐに支持を失った。1つにはイラクの中流層が、新しい政治体制の混乱と内輪もめを目の当たりにしているからだ。
 2007年にABCニュースが行った調査では、民主主義が自分の国にとって最適の政治制度だと思うイラク人はわずか43%だった。

 民主主義の前には、大きな壁が立ちはだかっている。
 人権擁護団体フリーダム・ハウスが2005年、民主主義の後退を指摘した国はわずか9ヵ国。だが同団体の2009年の報告では『アフリカ、中南米、中東、旧ソ連圏の40ヵ国』で後退が認められた。民主主義的な政治形態を採用している国・地域は116に減少し、1995年以来最も少ない数になった。

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 民主主義が今後どうなっていくのか。
 そして、現在では経済危機と昨今の中国の勢い、中東情勢を見ていると、民主主義への流れには困難が伴っている。厳しい中での民主主義や自由をどうしていくか、簡単な道はないのかもしれない。つまり、本来の意味を味わうためには、地道に達成していくことで、疑心暗鬼や不安はなかなか消えないだろう。
 簡単な道を歩めば、それだけ振り戻しも簡単になる可能性も高い。それはつまり、疑心暗鬼や不安によるパニックや暴走も発生しやすいということだ。

(終わり)

【参考資料】

・「こうして民主主義は死ぬ」
(Newsweek 2010.3.24)

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