人権はどこへ向かうのか(下)

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 こうした流れの中でパワーバランスの影響も出ている。90年の国際舞台では、民主主義国が主役だった。しかし、今やロシアや中国などの独裁国家は、経済的成功を餌に本来なら人権活動を主導するはずの中産階級を取り込めることを知っている。
 中国政府は大学教授などオピニオンリーダーの給料を引き上げ、企業家にも共産党員になる門戸を開くなど、政権の繁栄が中産階級の豊さにもつながるよう仕向けている。この戦略はうまくいっている。ピュー・リサーチセンターの調査で自分の国に満足していると答えた中国人の割合は、ほぼ全ての国を上回ったという。
 中国はこのやり方を輸出することにも成功しているという。より緩やかな独裁政権も、中国からの援助が増えているおかげで人権に関する欧米の圧力を無視しやすくなった。

 さらに、中国とロシアは、人権の概念を大きくねじ曲げ始めている。人権団体フリーダム・ハウスによると、07年の中国共産党第17回全国代表大会で胡錦濤国家主席は「民主」という言葉を約60回使った。中国自身がどのような意味で民主主義を名乗れるのかは、説明せずにだ。
 ロシア政府は中央アジアと西アジアのカフカス地方で、欧米の人権団体や民主主義支援団体に似たグループの活動を支援している。しかし、彼らが実際に広めているのはウラジーミル・プーチン首相流の「管理された民主主義」で、薄っぺらの社会的自由しかない事実上の独裁体制だ。
 しかも中国には外国から毎年最大1万5,000人の公務員が研修を受けに来るという。その多くは法律の専門家や地方自治体の幹部で、中国が政治の真の意味では自由化せずに経済を開放してきたやり方を学ぶという。

 こうしたことから、90年代や00年代前半に比べ、人権問題が国際的な注目を集めにくくなった背景には、世界的なパワーバランスの変化があるのかもしれない。かつて指導者やハイテク業界は、テクノロジーの進歩は圧政的な政府よりも人権活動家に味方すると主張していた。
 確かにツイッターやフェースブックはイランの反体制派が国内の状況を世界中に知らせる役に立った。しかし、圧政的な政府の側はインターネットを監視し、情報を遮断する方法を考え出した。
 中国国内のネットを世界から隔離する検閲システムはあまりに巨大過ぎるため、多数の中国人ユーザーは実際にどれぐらいの情報が閲覧を制限されているか見当もつかない。サウジアラビアやベトナムなどは中国人のネット専門家を雇い入れ、自前の検閲システムを構築するノウハウを手に入れようとしている。

 反体制活動家にとってこの1年は過去数十年間で特に過酷な時期となっている。フリーダム・ハウスが1月に発表した最新の「世界の自由度」によると、政治的自由と市民的自由は4年連続で世界的に衰退しているという。調査を始めてから約40年で最長の落ち込みだ。
 その原因は弾圧的な政府による締め付けが厳しくなっていることと、それに対して主要な民主主義国が声を上げて非難する意思を失いつつあることのようだ。
 状況は厳しくなるばかりだ。世界的な景気後退で、特に主要な民主主義国は長い低成長時代に入るかもしれない。今の中国が民主主義を妨害できるなら、世界最大の経済大国になった暁には、影響力はどこまで大きくなるのだろう。

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 といった内容が2010年時点。そこから、経済関係では中国の勢いはブレーキが買った状態で、中国だけではなく、新興国で勢いのあった国にも当てはまる状況だ。
 難しいのは、経済が悪くなると、人権問題も深刻になりがちだが、果たしてどう進んでいくのだろうか。

(終わり)

【参考資料】

・「人権問題に超氷河期がやって来た」
(Newsweek 2010.3.3)

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