人権はどこへ向かうのか(上)

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 人権問題について、過去に興味深い記事(2010年時)を読んで、当時まとめたもの。

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 人権の問題は昔も今も続いている。
 アメリカの価値観を広めることを使命と考えたウッドロー・ウィルソン大統領の流れをくんだジョン・F・ケネディや(広い意味で同じ流れの)クリントン大統領は、民主主義の価値観を国外に広めることが世界の安定につながると考えたものだ。
 しかし、ここにきて大半の民主主義国では、市民の間でも世界の人権問題への関心がかなり薄れてきている。
 失業率が急増する中、人々の意識は国内に向かい、移民排斥や保護主義への誘惑に駆られているのだ。

 それに、現在の指導者は現実主義の傾向が強い地味な人物が多い。ゴードン・ブラウン英首相も鳩山首相も、インドのマンモハン・シン首相もこのタイプでカリスマ性が不足している。
 さらに、オバマ政権はビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ両大統領の時代に比べ、人権問題でずっと物静かなアプローチを取っている。
 オバマだけではない。ヨーロッパやアジアでも、多くの民主主義国が世界の人権問題に背を向け始めた。カナダを除く先進国は、どこもだんまりを決め込んでいる。

 世界的な人権擁護の流れは変わり、リチャード・ニクソン米大統領とヘンリー・キッシンジャー米国務長官の時代以来、久々に現実主義が台頭し始めた。欧米では道徳的信念から民主主義を広めようとしたブッシュ政権の失敗と、世界金融危機をきっかけに強まった現実主義の影響が相まって、指導者は人権問題を前面に打ち出すことに憶病になった。
 経済が厳しい時期には、人権状況改善の努力は一連の「贅沢」と見なされるようになる。中国や石油資源に恵まれたカザフスタンのように、世界最悪レベルの人権抑圧国家だが世界経済を立て直すために協力が欠かせない国々の人権問題は、特にそうだ。

 世界中が好景気だった2000年代前半、当時のトニー・ブレア英首相はアフリカの人権状況改善を政府の優先課題にする余裕があった。だが後継者のブラウン現首相は、自国の財政赤字問題への対応で手いっぱいだ。
 アメリカのオバマ政権も内政問題で難問を抱えているため、パートナーになり得る国との関係を悪化させたくない。ヒラリー・クリントン国務長官は就任最初の中国訪問でこう語った。「これらの(人権)問題に対するわが国の圧力が、世界的な経済危機を悪化させるものであってはならない」と。
 ピュー・リサーチセンターが2009年12月に発表した世論調査によると、アメリカ人の49%がアメリカは国際社会で「余計な口出しをすべきでなく」、他国の問題はその国に任せればいいと考えているという。これだけ多くの人が孤立主義的な意見を表明したのは、過去40年で初めてのことだという。

 しかし、政治の世界では、人権問題を軽視することがほとんど構造化されている。
 10年前なら、米国務省やイギリス、ドイツの外務省といった官僚組織で人権問題に力を入れる政策担当者は出世することができた。
 しかし、最近は欧米の民主主義国の多くで政治家が党派政治に走り、外交官の経歴を隅々までチェックするようになった。人権活動には大胆な発言や行動が必要で、物議を醸すことも少なくない。選挙で選ばれる政治家にしてみれば、「厄介な」外交官は出生させたくないだろう。

(続く)

【参考資料】

・「人権問題に超氷河期がやって来た」
(Newsweek 2010.3.3)

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